SIMO-Model-Based ICAを用いた高品質ブラインド音源分離

高谷 智哉 (0151202)


本論文では,音の拡張現実感システムを実現するために, Single-Input Multiple-Output (SIMO)-model-based Independent Component Analysis (ICA)を 用いた高品質なブラインド音源分離(BSS)法を提案する.

一般に,ICAに基づく従来BSS法は, 複数の音源信号が混在する観測信号から各音源信号を モノラル信号として出力するものであり,また その分離信号は任意のスペクトル歪みを有していた. よって,従来手法においては, 各音源信号の方位感,定位感や残響感などの空間的性質が欠落するという 重大な欠点があった. このような問題点により, バイノーラル信号処理や高忠実度な 音場再現システムに従来BSS法を適用することは困難であった.

前述の本質的な問題点を解決するために, 観測信号をモノラル信号ではなくマイクロホン位置で観測される SIMOモデルに基づく信号に分解するSIMO-ICAを提案する. このSIMO-ICAは,複数のICAとfidelity controllerから成り, 各ICAは分離システム全体の音質制御のもとで並列に実行される. 本提案法においては,fidelity controllerとして, 最小二乗型および情報幾何型規範の2種類の規範を導入する.

実環境下における音情景分解実験により,提案法は従来法と同程度の分離性能を 有しながら,分離信号の品質を著しく改善することが確認された. 特に,情報幾何理論に基づくfidelity controllerを用いた場合には, より安定なICAの学習を行うことができ, かつその分離品質も優れていることが分かった.