細胞内絶対共生細菌の最終共通祖先ゲノムの再構築によるゲノム進化過程の推定
黒澤 桂子(0251140)
昆虫の中には細胞内に共生している細菌に生育や生殖を依存しているものがいくつか存在している。近年、3種類の昆虫の細胞内絶対共生細菌(アブラムシの共生細菌であるBuchnera、ツェツェバエの共生細菌であるWigglesworthia、アリの共生細菌であるBlochmannia)のゲノム配列が決定された。これらの細胞内絶対共生細菌は自由生活細菌であるEscherichia coliと近縁であるが、そのゲノムサイズはE. coliの約7分の1程度の非常に小さいものであった。E. coliとBuchneraのゲノムの進化学的比較解析の結果から、このゲノムサイズの大きな違いは主として、細胞内絶対共生細菌における大量の遺伝子の欠失によってもたらされたといわれている。本研究では、細胞内絶対共生細菌のゲノム進化の過程の詳細を明らかにするために、Buchnera, Wigglesworthia, BlochmanniaおよびE. coliの比較解析を行い細胞内絶対共生細菌とE. coliの最終共通祖先(last common symbiotic ancestor=LCSA)ゲノムの推定を行った。その結果、少なくとも859個の遺伝子がLCSAに存在し、そのうちの814個の遺伝子が61個のLCSAの遺伝子ブロックに含まれていることがわかった。LCSAと現在のBuchnera, Wigglesworthia, Blochmanniaの比較ゲノム解析から、細胞内絶対共生菌としてのライフスタイルを獲得したすぐ後に大幅な遺伝子の減少およびゲノムの再編成が起きたことが示唆された。