人は環境や道具に対する内部モデルを獲得することで,環境に適応したり,道具を使用することが可能になる.さらに,人は絶えず変化する環境に対応することができるし,様々な道具を使いわけることができる.これは人が複数の内部モデルを切り替えて使用することができるからである.  しかし,これまでの運動学習における研究では,複数の内部モデルを同時に並行して獲得し,それらを切り替えて使用するのは不可能であるとされてきた.そこで,本研究ではまず,学習方法を工夫すれば,複数の内部モデルを同時に並行して獲得可能かどうかを検証する.  本実験では,2つの力場がランダムに切り替わる環境下(ランダム条件)で,力場を示す情報をもとにして,被験者に並行して2つの力場を学習させた.その結果,同時に2つの力場に対する内部モデルを獲得し,それらを切り替えて使用することが可能であることが示された.しかし,ランダム条件では学習に時間がかかってしまうため,もっと効率のよい学習法はないか検証した.  そこで,あらかじめ2つの力場の内部モデルを獲得したあとに,それらの内部モデルを切り替える練習をするという学習法で実験をおこなった.その結果,ブロック条件での学習は一見とても速いように見えるが,同じ場所に内部モデルが上書きされてしまって,どちらの内部モデルも定着しないという結果が得られた.  また,ブロック条件で学習した後では,ランダム条件で練習を行っても,はじめからランダム条件のみで練習をおこなった時と同じレベルでは,学習がすすまないことが判明した.  よって,これらの結果をまとめると,複数の力場に対する内部モデルを同時に獲得するには,時間はかかるかもしれないが,ランダムに力場が切り替わるような環境で練習することが最も効果的な学習法であるといえる.