脳の機能を実現するためには神経細胞同士が正しく結合していること が必要であり、発達期にどのようにしてこの結合が形成されるかとい う問題は脳機能の解明において重要である。 発達中の神経細胞は軸索という細長い器官を標的神経細胞へと伸ばす が、このとき軸索の先端にある成長円錐は数%の細胞外誘導因子の濃 度差を検知して、正しい方向へと経路を選択する。 このとき、成長円錐はその形状を変化させながら進行方向へ進んだり、 方向を変えたりする。成長円錐の遊走性、形態変化を制御するシグナ ル伝達経路は多くあるが、本研究では成長円錐に関わるシグナル伝達 経路のうち、低分子量Gタンパク質、rho、rac、cdc42の相互作用に着 目し、シミュレーションによってその機構を調べた。 低分子量Gタンパク質の相互作用、成長円錐の形態変化、軸索誘導の3 つのシュミレーション結果は、試験管内の実験や生体内の観察では検 証が難しい動的な成長円錐の制御機構を説明し、成長円錐内のシグナ ル伝達がどのようにして軸索誘導に関わっているかということを統一 的に説明している。これらの新しいアプローチによる検証は今後の神 経回路形成研究において重要な位置を占めると思われる。