地上ディジタルテレビ放送の移動受信におけるアレーアンテナを用いた多重ドップラーシフト補償に関する研究
谷口 司 (0251064)
地上ディジタルテレビ放送の伝送方式として用いられている OFDM
(Orthogonal Frequency Division Multiplex) は狭帯域な複数のサブキャリア
を用いているため,マルチパス遅延分散による伝送帯域内の周波数特性の歪み
に対して強いが,伝搬路の時変動によるサブキャリア間干渉が生じ受信特性が
大きく劣化するという問題がある.この問題を解決するため,アレーアンテナ
により受信した信号を空間領域で補間して大地に対して静止した点の受信信号
を推定することで伝搬路の時変動を補償する方式が提案されている.この伝搬
路時変動補償方式は,大地に静止した受信点を算出するために,移動体の移動
速度を知る必要がある.この問題に対しては,2個の時変動補償器を互いに異
なる移動速度を設定して並列に動作させ,補償後の受信品質の差を観測し,受
信品質がより高くなるように移動速度の設定値を更新することで,移動速度を
推定する方式が提案されている.
しかし,この方式では,復調部が2 個必要となるため受信機が複雑になるとい
う問題がある.そこで,本発表では,補償器を並列に動作させる代わりに,受
信信号の偶数番目と奇数番目で移動速度の設定値を変化させて受信品質を観測
し,移動速度の設定値を更新することで,1つの補償器および復調器だけで移
動速度の推定を可能にする新しい移動速度推定法を提案する.計算機シミュレー
ションにより,提案方式は,従来とほぼ同じ収束特性および推定精度を保った
ままハードウェア規模を 1/2 とすることが可能である.