パケット誤りにより切り替え制御を行うOFDM無線LAN簡易ダイバーシチ受信機に関する研究
鈴木 基紹 (0251051)
移動体通信においては,送信された電波が複数の伝搬経路を通ることによって起こる
マルチパスフェージングが問題となっている.
その問題の対策として OFDM (Orthogonal Frequency Division Multiplexing)がある.
OFDMはマルチパス遅延波による周波数選択性フェージングに耐性を持ち,
高速ディジタル伝送が可能な無線LAN (Local Area Network)であるIEEE 802.11aおよび
IEEE 802.11gの物理層伝送方式として採用されている.
しかし,OFDMにはマルチパスフェージングの影響により振幅の落ち込みに起因する伝送特性の劣化を改善する効果はない.
マルチパスフェージングによる伝送特性の劣化を改善する方法として,
ダイバーシチ受信方式が古くから用いられている.
しかし,ダイダーシチをOFDM受信機に適用するには
アンテナ素子毎にRF (Radio Frequency)部,A/D(Analog-to-Digital)変換部,
DFT (Discrete Fourier Transformation)部が必要であり,
小型かつ低消費電力が要求される無線LAN移動端末に適用することは容易ではない.
この問題を解決するため,可変リアクタンス素子により終端された複数の
サブアンテナをメインアンテナ近傍に配置し,終端可変リアクタンス値を
伝搬路状況に応じて変更し,ダイバーシチ効果を得る空間合成ダイバーシチが提案されている.
その方式では,1組のRF部,A/D部,DFT部だけで構成されており,
回路規模が大幅に削減できる.
しかし,この方法では復調部に受信電力を測定するRSSI (Received Signal Strength Indicator)測定回路が必要となる.
RSSI測定回路を持たないあるいはRSSI情報を取得することが困難である既存の無線LANカードに空間合成ダイバーシチを適用できない.
また,RSSI測定回路を用いて受信電力を測定しても
BER (Bit Error Rate: ビット誤り率)は一意には決まらない.
本論文では空間合成ダイバーシチを既存の無線LANカードに適用する手段として,
無線LANのパケット誤りを評価関数として可変リアクタンス切り替えの制御する新しいOFDMダイバーシチ受信機を提案する.
パケット誤りを用いて可変リアクタンスの切り替え制御を行う.
送信信号に誤り検出符号をつけ,受信側でパケットの中に誤りがあったかどうかを検出する.
誤りがあった場合に次パケット受信時に可変リアクタンスを変更し受信を行う.
それにより,空間合成ダイバーシチで必要となった
RSSI測定回路が必要でなくなり,
既存の無線LANカードでダイバーシチ受信を可能とする.
本発表では,提案方式の計算機シミュレーションによる評価を行った結果,
パケット誤り率特性が既存の空間合成ダイバーシチより改善され,
またその指向性特性についても明かにし,提案方式の有効性を示す.