Gタンパク質共役型受容体の機能に関わる保存領域の探索:比較ゲノム解析

小嶋亜耶(0251039)


Gタンパク質共役型受容体(GPCR)は、基本的に同一な構造を持ちながら、極めて多数のリガンドと結合でき、 シグナル伝達を行う点で興味深く、また多くの重篤な疾病の原因になるため、機能発現メカニズムの解明が 重要な課題になっている。機能発現には幾つかの重要なアミノ酸がキーとなることは間違いないが、これらが サブファミリーやファミリー、さらに生物種にユニークなグループ同士内で何処まで保存しているかが判れば、 GPCR全体に共通して保存される重要領域があぶり出せると考えた。

この目的で各生物種のゲノムで網羅的にGPCR遺伝子を同定し、比較ゲノム解析を行った。まず、ゲノムから 遺伝子領域を同定し、既知配列との相同性検索、膜貫通ヘリックス予測、モチーフ帰属によりGPCR候補を抽出する。 既知のデータで評価した各プログラムの閾値を利用して、感度を犠牲にしても選択性を100%にしたLevel Aセットから 逆に感度を100%にしたLevel Dセットまでの間、4段階のデータセットを作成した。またblastやPfamによる結果の カバー率などを考慮して、膜貫通部位以外に部分的に高い相同性を示してしまうものやGPCR以外のモチーフと広範囲で 高い相同性を示してしまうようなものを取り除いた。

上記の手法で142種の生物種に関して解析を行った。このうち真核生物はDrosophila melanogaster(ショウジョウバエ)、 Arabidopsis thaliana(シロイヌナズナ)、Caenorhabditis elegans(線虫)、 Saccharomyces cerevisiae(出芽酵母)、Schizosaccharomyces pombe(分裂酵母)の5種である。 その結果、古細菌から1つみつかったがそれ以外ではバクテリア類では見つからなかった。 しかし、真核生物においては予測されたGPCR数は激増し、特にClass Aに関しては高等な生物ほど増加する傾向がみられた。 ただし、酵母類は数個にとどまっている。

以上のデータのうちClass Aファミリーを持つ生物種(線虫、ショウジョウバエ)とヒトの予測データ、マウス、ラットの 既知データを含めてEvolutional Trace法(ET法)による解析をおこなった。 ET法とは、系統樹による進化的情報を利用してアミノ酸配列から機能や構造に関する重要な部位を抽出する手法である。 GPCRの特定の膜貫通領域に焦点をあててこの手法を利用することにより、GPCRの機能および構造に関する重要な部位の 抽出を試みた。 これらの結果をもとに、GPCRにおいてファミリー内に特有なパターン、種にユニークなパターン等の相関性を議論する。