画像計測を用いた弾性体接触面の滑り量推定手法
-ロボットハンドの制御とヒューマンインターフェースへの応用-

池田 篤俊 (0251011)


本研究では剛体平板と弾性球の接触面において接線方向に負荷を加えると発生する``初期滑り''と呼ばれる部分的な滑り現象を画像計測によって推定する手法を提案する.

本研究では初期滑り量を表す変数として``偏心度''を定義する. 偏心度はカメラなどを用いて画像の接触面積と特徴点より計算される. また,弾性球と剛体平板の接触はヘルツ接触と呼ばれ,様々な解析が行われている. ヘルツ接触の解析解に基づき初期滑り量と弾性体の変形による相対変位,偏心度がそれぞれ線形関係であることを示す. 初期滑りは平板と弾性球間の接触が静止摩擦状態から動摩擦状態へ移行する際の指標となる滑り余裕と等価な情報であるため,偏心度を用いて滑り余裕が推定可能となる.

さらに本研究ではこの滑り量推定手法の2種類の応用方法を提案する. まず1つ目は初期滑りを利用した弾性体の把持力制御である. 解析より接触面の半径と偏心度,さらに接触面に働く接線方向力を計測することで滑り余裕を求めることができ,接触面の摩擦係数が未知であっても任意の滑り余裕で把持力制御が可能となる. この手法を用いてシミュレーションとグリッパによる把持力制御実験を行う. 実験では半球状の弾性体をグリッパで把持し,グリッパ内部に固定された光学系によって接触面を計測する. 摩擦係数の変化に対しても同様の制御手法制御が適用可能であることを示す.

2つ目は初期滑りにおける指紋変形を利用した小型ポインティングデバイスである. まず弾性球と剛体平板の接触と同様に指紋変形における偏心度と指の微小変位量及び偏心度と接触面に働く力の関係を調べ,偏心度と指の微小変位量が線形関係にあることを述べる. 偏心度より指の微小変位量を推定しポインタを操作する. ユーザは予め指紋画像を登録しておき,登録画像の指紋中心と微小変位後の画像における接触中心の差分によってポインタを操作する. この時,予め登録しておいた指紋中心付近において指紋画像の変形が微小であるので画像特徴量に基づいたトラッキングが可能である. 指紋中心のトラッキングにはGDSマッチングを用いる. これらの手法を用いて実際にデバイスを試作し,5名の被験者による操作実験を行った. 実験より従来のデバイスに比べ少し操作に時間がかかるものの実用に十分な精度で操作可能であることを確認した.