ネットワーク通信による倒立振子の安定化実験

相田 建 (0251001)


本研究では,ネットワーク通信により発生する伝送遅延を考慮した制御系設計を提案し,ネットワークシステムの構成を行い,遅延の影響を定量的に評価するために不安定な制御対象の代表である倒立振子を用いて実際のネットワークで実験を行った.つまり,本研究の目的は,伝送遅延を考慮した制御系設計について,制御工学の面からはロバスト制御理論によって検討し,通信工学の面からは制御に適したネットワークシステムの構築を試みることである.

急速に進歩するインターネットをフィードバック制御の経路として利用できれば望ましいと考えられる.しかし,インターネットはベストエフォート型ネットワークであり,伝送遅延にジッタを持っており,しかも輻輳時におけるデータロスは避けられない.そこで,ネットワーク遅延を考慮した2種類の制御則をロバスト制御理論を用いて設計し,それらの制御則の有効性をシミュレーションおよび実験により確認する.ここで,2種類の制御系設計手法とは,混合感度問題と,遅延の位相特性に着目した設計手法である位相余裕を指定した制御系設計である.混合感度問題はゲインに着目した設計手法であるが,今回のような伝送遅延ジッタが存在するようなシステムでは,不確かさはほぼ伝送遅延のみに起因し,これ以外の誤差は存在しないので,小ゲイン定理では保守的になる可能性がある.そこで,伝送遅延の位相特性とロバスト制御の手法を結び付けるべく,位相余裕を指定した制御系設計を提案した.更に,インターネットをフィードバック経路として用いる制御システムを構築し,実験により制御則の有効性を確認する.その際ネットワークエミュレータで用いるネットワークの遅延モデル(遅延と標準偏差)は,pingによって得た実測値と待ち行列理論で得た値であり,複数回の実験により統計的に性能の評価を行う.また,ネットワークの受信バッファによって起こる問題に対しては,ネットワークシステム側で問題を解決する.

本研究では,不確かな伝送遅延に対して構築したシステムを定量的に評価するために,それぞれの実験を複数回行った.その結果,今回設計した制御系と構築したネットワークシステムが,不確かな伝送遅延に対し有効であることを確認した.