地上波ディジタルテレビ放送の移動受信特性改善に関する研究

長井 則和 (0151072)


1953年にテレビ放送が開始されて以来,今年でちょうど50年となる. 近年のディジタル技術の発展を背景とし,テレビ放送は ディジタル化という大きな変革の渦中にある. 2003年末までに,東京・大阪・名古屋の三大広域圏において, 地上波ディジタルテレビ放送のサービス開始が予定されている.

地上波ディジタルテレビ放送では,その伝送方式として OFDM (Orthogonal Frequency Division Multiplexing) 方式が用いられる. OFDM は,多数の狭帯域キャリアを用い,広帯域通信を行う マルチキャリアの伝送方式で,5GHz帯高速無線LAN (Local Area Network) IEEE 802.11a などにも用いられている方式である. OFDM は,マルチパス伝搬環境下での遅延波による周波数選択性フェージン グに強い一方,移動しながら受信する際の伝搬路時変動に弱い. 地上波ディジタルテレビ放送を車などで移動中に受信することを考えた場合, OFDM の伝搬路時変動への弱さは大きな問題となる. そこで,本研究では, 地上波ディジタルテレビ放送の移動受信時の受信特性を改善することを 目的とする.

地上波ディジタルテレビ放送の移動受信特性を改善する方式として, アレーアンテナを用いた伝搬路時変動補償方式がこれまでに提案されている. この補償方式は,アレーアンテナを用い, 大地に対して静止した地点における受信信号を推定することで, 受信機の移動をキャンセルし,ドップラー周波数シフト, および,それにともなう伝搬路の時変動を補償している. これまでの研究によって,車などの移動速度が非常に速い場合においても, この補償方式を用いることで,大きく劣化した受信特性を 飛躍的に改善できることが確認されている.

しかし,この補償方式にはいくつかの課題が残されている. まず,計測実験が行われておらず, 実環境での有効性が示されていない. 次に,補償を行うためには受信機の移動速度が必要となり, 受信機の移動速度を得る機構が必要である. また,アレーアンテナの素子間隔が狭いため, アンテナ素子間の相互結合の影響を考慮する必要がある. さらに,レイリーフェージングによる振幅レベルの変動は依然残っており, 残留ビット誤りの原因となっている.

そこで本研究では,アレーアンテナを用いた伝搬路時変動補償方式において, 現在残されている課題を解決することを目指し,新たな方式を提案する. 計測実験については,実環境において計測実験を行う. 受信機の移動速度に関しては,速度推定アルゴリズムを新たに考案し, そのアルゴリズムを組み入れた時変動補償方式を新たに提案する. アンテナ素子間の相互結合については,相互結合量の推定アルゴリズムを 新たに考案し,これまで提案されている相互結合キャンセラに組み込む. レイリーフェージングによる振幅レベル変動については, DFT (Discrete Fourier Transform) 前合成ダイバーシチという手法を組み合わせることで, これまで提案されている,空間ダイバーシチを組み合わせた時変動補償方式 より計算量を大幅に削減しつつ,同等の補償効果を得ることができる 方式を新たに提案する.