OFDM適応変調方式の伝送特性改善に関する研究

杉岡 真行 (0151053)


フェージング環境における移動体通信において,高品質かつ高速な伝送を実現するシステムとして,伝搬路状況に応じて適切な変調パラメータを選択して伝送を行う適応変調方式が提案されている. 適応変調方式では,伝搬路状況に応じて変調パラメータを制御することにより,通信状況が悪い状態では伝送速度を抑えることにより通信品質を改善し,通信状況が良い状態では一定の通信品質を確保しつつ伝送速度を向上することができる. 特にOFDM適応変調方式では,OFDMのマルチキャリア伝送方式という特徴を生かし,サブキャリア毎の伝搬路状況を用いて変調パラメータを制御することにより,シングルキャリア伝送方式における適応変調方式と比べ,より最適な通信を行うことができる.
しかし,適応変調方式には,移動体が高速に移動する場合,伝搬路時変動が高速となり,変調パラメータの選択が伝搬路状況に追従できなくなるという問題がある. 特にOFDM適応変調方式では,シングルキャリア伝送方式に比べシンボル長が長いため,時変動に対する影響を受けやすく,変調パラメータの伝搬路時変動に対する追従性がより大きな問題となる. この問題を解決するため,適応変調方式に空間内挿型伝搬路時変動補償を適用する方式が提案されている. 空間内挿型伝搬路時変動補償は,直線アレーアンテナから得られた受信信号の内挿処理を行うことにより,仮想的に大地に対して静止した点の受信信号を推定し,時変動を補償する方式である. この方式を適応変調方式に適用することにより,適応変調方式の伝搬路時変動に対する追従性を改善し,伝送品質を改善することができる.
一方,マルチパス環境下においては,レイリーフェージングの影響により受信振幅レベルが低下し,伝送特性が劣化するという問題がある. フェージングの影響による受信振幅レベルの落ち込みに対してはダイバーシチ受信が有効であり,空間内挿型伝搬路時変動補償と空間ダイバーシチを組み合わせた空間内挿型ダイバーシチが提案されている. しかし,現在のOFDM適応変調方式に時変動補償を適用する方式に空間内挿型ダイバーシチを適用する場合,変調パラメータの選択の際に,ダイバーシチ前の伝送品質を推定しているため,ダイバーシチ後の伝送品質は正確にはわからない. そのため,変調パラメータを選択する際にダイバーシチ利得を利用することができず,ダイバーシチ受信によるスループット改善効果が十分ではないという問題がある.
本論文では,この問題を解決するため,パイロット信号をダイバーシチ受信し,ダイバーシチ受信後の伝搬路状況を変調方式コマンドとして,送信側に返送するシステムを提案する. 提案システムでは,送信側でダイバーシチ後の伝送品質に応じた変調を行うことができるため,ダイバーシチ受信によるスループット改善効果が大きい.
また,空間内挿型時変動補償では補償しきれない時変動により特性が劣化する問題がある. 本論文では,この問題を解決するため,パイロット信号により推定された伝搬路状況の補正を行う. 硬判定後の受信データを再度複素平面上にマッピングし,判定に用いた等化後の信号点とのずれを求め,その値を用いてOFDMシンボル受信毎に伝搬路状況の補正を行う. これにより,等化に用いる伝搬路状況が伝搬路時変動に追従し,等化の精度が向上するため,スループット特性が改善する.
本発表では,提案方式の計算機シミュレーションによる評価を行った結果,スループット特性が向上することを述べ,提案方式の有効性を示す.