実環境におけるブラインド音源分離及びその音声認識への応用

澤井 克之 (0051202)


観測された信号のみを用いて所望の音源信号を抽出する技術をブラインド音源分離 (Blind Source Separation: BSS) と呼び,近年,独立分分析 (Independent Component Analysis: ICA) に基づく手法が提案されている.しかし,従来の ICA に基づく BSS においては,(1) ICA における非線形最適化に伴う収束性の悪化が原因となり,移動する音源群に対して分離が困難である,(2) 特に低周波数帯域において,拡散性の音源に関する分離が困難であるといった問題がある.

そこでまず,低収束性問題を解決するため,移動する音源群に関する方位情報を利用する新しい BSS アルゴリズムを提案する.これは,ICA とビームフォーミングを併用する事によって高収束性を達成するアルゴリズムである.提案法の有効性を示すため,残響環境下において音源を静止又は移動させて信号分離実験を行った結果を示す.実験結果より,従来の ICA のみを用いる手法と比べて分離性能の改善が確認できる.

次に,拡散性雑音に対する音源分離性能を向上させるため,不要帯域除去を行う BSS アルゴリズムを提案する.提案法は,拡散性音源などに関して ICA による分離が困難な周波数帯域を検出し,それを除去する.車室内環境に存在する多種多様な雑音源に関して音源分離実験および音声認識実験を行ったところ,提案法は,エンジンノイズやロードノイズなどの拡散性雑音に対する抑圧に効果的であり,SNR 及び音声認識性能を向上させる事が確認できる.