マルチチャネル音場再現システムにおける環境変化に適応的な逆フィルタの緩和手法

永田 悠 (0051072)


複数のラウドスピーカと,空間の伝達特性を打ち消す逆フィルタを用いることで,所望の音を再現することができる.本論文ではマルチチャネル音場再現システムにおける,環境変化に適応的な逆フィルタの緩和アルゴリズムを提案する.従来のマルチチャネル音場再現システムにおいては,Moore-Penrose 型一般逆行列を用いた逆フィルタの設計手法が提案されている.しかし,従来法における逆フィルタは,室内伝達特性が変化した場合に,暗騒音や回線ノイズを拡大することがある.この問題を解決するために,打ち切り特異値分解(TSVD)に基づく適応緩和法を導入する.ここでは,受聴者の両耳から離れた場所にノイズを監視する 1 つのマイクロホンを設置し,それによって観測された再現音を用いることで逆フィルタの緩和を行う.計算機シミュレーションの結果より,提案手法はノイズの拡大を防止できることが分かった.また,実環境の音場再現において主観評価実験を行った結果,定位感を殆ど損なわず音質を大幅に向上させることができた.