地上波デジタル放送における同一周波数中継放送に関する研究

小山 晃俊 (0051041)


現在の地上波アナログ放送は中継局ごとに周波数を変換して再送信を行っているが, これには二つの理由がある. 一つは, もし同一周波数で放送波中継を行うならば, 受信者は親局や中継局からの複数の放送波が時間的にずれ, 干渉しながら受信することになり, ゴーストと呼ばれる障害を起こしてしまうという問題があるからである. もう一つは, 中継局の送信アンテナから送信された放送波が再び中継局の受信アンテナに廻り込み, 発振が生じて特性が劣化するという問題があるため, 中継局で周波数を変換して再送信を行っている. 地上波デジタル放送は OFDM (Orthogonal Frequency Division Multiplexing: 直交周波数分割多重) 変調方式を採用しており, この変調方式は周波数の利用効率が高く, 周波数選択性フェージングやガードインターバルによって時間的にずれた放送波(遅延波)に対して強いという特徴がある. ゆえに, 前者のゴースト障害の問題は解決される. しかし後者の問題は, 現在様々な研究報告がなされているが, どれもハードウェア面でコストがかかってしまうという問題や十分廻り込み波を除去できていないという問題がある. 現在の逼迫した周波数利用状況の中では, 限りある周波数資源を有効に活用する必要があり, 中継局で受信周波数と送信周波数を同一のものを用いて放送波中継を行っていくSFN (Sigle Frequency Network: 同一周波数ネットワーク) の実現が大いに期待されている.

本研究は, 放送波中継でのSFNを構築するために, できる限りコスト抑え, しかも中継局で廻り込んできた放送波を十分除去できるキャンセラシステムを提案している. このキャンセラシステムは, 新たにアンテナやケーブル等の設備を設置する必要がなく, 既存の中継網で実現できるために設備コストが抑えられる. また, システム構成は, 遅延時間処理部, 相関処理部, 伝送路推定部, レプリカ生成部, そしてメモリ部からになり, 比較的簡易な構成となっており, 復調や信号判定を行なわないためにFFT等の複雑な処理が不要となり, ハードウェア規模が大きくならなく, コストを抑えて, 実現できるという特徴がある. 遅延時間推定部や相関処理部では, OFDM信号が自己相関特性が強いという特徴を利用しており, これらは廻り込み干渉信号のキャンセル動作をすべて時間領域で処理しているために, 中継局の信号処理による遅延が極力抑えられ, ガードインターバル長を短くでき, 伝送情報量を大きくすることができることになる. このキャンセラシステムは伝送路が常に変化する場合や結合減衰量が小さい場合, そしてマルチパスが存在する場合などの条件においても常に廻り込み波を推定し, 優れた特性が得らることが実験から確かめられた. また, 他のキャンセラシステムと比較しても, 優れた誤り率特性を得ることができた.