全方位カメラを用いた発達障害児の無拘束行動測定システムの開発
田谷 基教 (9951073)
自閉症や学習障害(LD)などの発達障害の児童を行動面から診断する場合には,
DSM-IV(アメリカ精神医学会発行「精神障害の診断と統計マニュアル」第4版)等
にある特有の行動パターンをチェックリストで評価する方法がとられている.
しかし,行動チェックリストを用いる方法は観察者によって評価基準が異なる
可能性があるため,児童相互間の比較や長期にわたる経過を追跡することは難
しい.
したがって,児童の行動を定量的に評価する方法の確立が求められている.
人間の行動を定量的に測定する方法としては,発信機等の接触的な器
具を装着させる方法が考えられるが,発達障害児は気が散りやすく,非協力的
であるなどの特徴があるため,接触的な器具を用いての測定は困難である.
また,普通のカメラを用いて発達障害児が室内を広範囲に動きまわる様子を
観察する場合,部屋全体を撮影するためには複数台のカメラを設置する必要があ
り,データ解析時にカメラの同期や撮影された画像の重複部分の張り合わ
せなどの複雑な画像処理が必要となる.
そこで本研究では,1台の全方位カメラを使用して発達障害児の広範囲での特
徴のある行動を簡便で非接触的に測定するための新しいシステムを開発した.
本システムを用いることにより,総移動距離,平均移動速度,通過頻度,
移動軌跡マップなどを実用上十分な分解能で得ることができる.
また,本システムを用いて自閉症やLD児などの発達障害児の行動を測定した結
果,それぞれに特徴ある行動パターンを観測することができた.
本システムで得られる定量的な測定結果は,発達障害児の行動評価の有用な一
指標になるものと考えられる.