片葉仮説に基づくサルVOR適応シミュレーション

田端 宏充(9851067)


前庭動眼反射(VOR)適応の研究は、小脳が運動学習の源であるのか否かという問題と関連して広く取り扱われてきた。VORとは、頭の動きを補償するために頭とは逆向きに眼球を動かす反射運動であり、実験的に視覚刺激を与えることで様々な適応性を示す。その適応のメカニズムに関しては、様々な考えが提出され、長い間にわたっての論争が続いている。VOR適応を説明する最も代表的な考えは、片葉仮説と呼ばれ、小脳皮質で行われる学習がVOR適応の素過程であるというものである。一方、Lisberger (1994)のモデルシミュレーションに代表されるように、片葉仮説への反論も存在する。Lisbergerは、眼球速度を小脳皮質に戻す強力なフィードバック回路を仮定し、脳幹という場所での学習がVOR適応の主な学習機構であると考えている。 Lisberger (1994)のシミュレーションでは、片葉仮説ではVOR適応を再現することができず、小脳皮質と脳幹両方での可塑性が必要であるという結果が得られていた。本稿では、片葉仮説を支持するモデルシミュレーションを行う。我々の提案するモデルは、眼球速度情報を小脳皮質に戻すフィードバック回路は弱く、高次視覚野の視標速度維持機構を持つことを特徴としている。まず、Lisbergerの仮定が脳内に存在するメカニズムとしては不適当であることを示し、提案モデルによりその仮定を破棄すれば片葉仮説の考え方に基づきVOR適応を再現できることを示した。次に、小脳皮質への入力部分のシナプスに学習則を持たせ、我々の提案するモデルが外界の刺激に従って正しくVOR適応を学習することを示した。