TCP におけるコネクション分割管理による転送効率向上に関する研究

矢倉 基裕 (9851115)


近年のインターネットの急速な普及によるトラフィックの増加に対応するため, インターネットの広帯域化が進んでいる.一方,インターネットが広帯域化す ると,利用できるサービスの幅も増え,利用者もますます増加し,結果として 再び帯域不足の状態になる. インターネットの広帯域化が進展しても,それにともないトラフィックも増加するので, 輻輳の発生を完全に解消することは難しい.

また,インターネットのアプリケーションの多くが用いている TCP は,広帯 域下で輻輳が発生した場合,利用可能帯域に応じた十分なスループットを得る ことは難しい.TCP のスループットは TCP に組み込まれている輻輳制御機構 と再送制御機構に大きく依存している.広帯域下で輻輳が発生した場合,TCP の輻輳制御機構と再送制御機構が適切に働かない.

TCP の輻輳制御アルゴリズムはネットワークの状態を,輻輳が発生しているか, 輻輳が発生していないかの2つの状態にしか区別しないため,セグメントロス 時に送信量を半分にまで落とすので,送信スピードがかなり犠牲になる.また, TCP の再送制御アルゴリズムは高速に再送を行える fast retransmit で再送 できない状況が多いにも関わらず,再送タイムアウトの数秒単位で送信を中断 してしまうというペナルティが大きい.

本研究では,セグメントロス発生時にネットワークの状態に応じてネットワー クへの送信量を調節することと,fast retransmit の頻度を増加させ,再送タ イムアウト待ちの頻度を減らすことに着目した. そこで,本研究では TCP の1コネクションを分割管理して輻輳制御することに より,1コネクションあたりの輻輳制御情報を従来より多く保持し,スループッ トを向上させる改良手法であるコネクション分割管理方式を提案する.本提案 手法の特徴は,パケットロス発生時において,従来の輻輳制御アルゴリズムと 比較して,より適切にネットワークの状態を反映した振る舞いを示す点にある. また,サーバ側の TCP の入れ替えだけで利用でき,クライアントは従来のま までよい.

本研究においては,本提案手法をUNIXカーネルに対し実装し,実測により評価 を行った.その結果,パケットロスのない場合には従来方式と同程度のスルー プットを実現しつつ,パケットロスのある場合においては従来方式と比べ明確 なスループットの向上が確認された.