DS-CDMA移動通信における帯域幅拡大による容量増加効果に関する研究

廣橋 健太郎(9751088)


ユーザの急激な拡大が世界的な規模で進んでいる移動通信においては,音声を含めたデータ,画像伝送などの様々なサービスの提供が益々必要となってきており,マルチメィアサービスに適した次世代移動通信方式(IMT-2000)の検討が盛んに行なわれている. 直接拡散を用いた広帯域DS-CDMA(W-CDMA)方式は,周波数利用効率の高さ,マルチメディアサービスに対応できる柔軟性などの特徴を持ち,IMT-2000における無線アクセス方式として注目されている.

次世代移動通信方式では,容量増加の他に,音声などの低速の通信から画像伝送などの高速通信まで,多様なサービスの提供が必要とされる. そのため,W-CDMAでは,容量増加と多様なサービスの提供を同時に実現することが重要となる. DS-CDMAにおけるリンク容量の向上の手段に拡散帯域幅の拡大があり,これは,一般に広帯域化と呼ばれる. この広帯域化には,リンク容量を増加させる要因として干渉電力の平滑化とパス数の増加の2種類がある.

干渉電力の平滑化では,広帯域化によって1波の中に収容するユーザ数を増やすことにより,干渉電力の分布が平均値に集中してくる. これにより,所定の通信品質を満たす確率が高くなり,その分だけ多くのユーザを収容できるため,リンク容量は増加する.

また,広帯域化するためには,拡散符号のチップレートを増加させる必要がある. チップレートを増加させると遅延波の分解能が増加し,RAKE受信機では,より多くの遅延波を獲得合成(パス数の増加)することができる. このパス数の増加により,RAKE受信機においてより大きなダイバーシチ効果が得られ,それが干渉電力の減少につながる. そのため,リンク容量は増加する.

そこで本研究では,上り回線において,広帯域化による干渉電力の平滑化効果およびパス数増加効果がリンク容量増加におよぼす影響について遅延プロファイル,伝送速度および距離減衰をパラメータとして評価した. また,実際の使用環境では,セル内に存在するが通信を行なっていないユーザもいるため,同時刻に通信を行なっているユーザ数(同時接続数)は時間によって変動する.このような場合も考慮してリンク容量の検討を行なった.

その結果,広帯域化により,大きなリンク容量増加効果が得られることを確認した.

通信時間率1.0,伝送速度64kspsにおいて,拡散帯域幅1.25MHzの時に1パスの受信であったのが,拡散帯域幅を20MHzにすることによって,8パスまで受信可能となった場合には,干渉電力の平滑化とパス数の増加の2種類の効果によって,リンク容量は約3.5倍の増加となる.

これに対し,同時接続数が変動する場合には,さらに大きなリンク容量増加効果が現れる. 通信時間率0.01,伝送速度64kspsにおいて,拡散帯域幅1.25MHzの時に1パスの受信であったのが,拡散帯域幅を20MHzにすることによって,8パスまで受信可能となった場合には,干渉電力の平滑化とパス数の増加の2種類の効果によって,リンク容量は約5.5倍の増加となる.

次世代移動通信では,マルチメディアサービスの提供が要求されるため,高速通信が必要となる.一般に,伝送速度が増加すると,リンク容量は劣化する.しかし,広帯域化によって,伝送速度の増加によるリンク容量の劣化を抑えることが可能であることを確認した.

また,距離減衰が大きくなるにつれて,リンク容量が増加することも示した.