皮膚抵抗値によるソフトウェア開発者の負荷評価に関する研究

村岸 厳 (9651111)


近年, ソフトウェア開発時の作業者の負荷(ソフトウェア開発者の 負荷)を評価する研究が盛んに行われている. 特に, 疲れメータ, 血圧, 脈拍 等の生理指標に基づく負荷評価が試みられている. 但し, 生理指標の計測値は 個人差が大きく, 計測条件によっても変化するため, 信頼性の高い評価が行わ れているとは必ずしも言えない. 本研究では,生理指標の一つである皮膚抵抗値(SRL:Skin Resistance Levels)を用いたソフトウェア開発者の負荷評価において,個体や計測条件の 差に左右されず,信頼性の高い結果を得る方法を提案し,その適用実験を行っ た.提案する方法では,負荷評価の基準となるSRL(負荷基準SRL)を,予備計 測によって被験者毎に算出する.予備計測では,比較的負荷の小さい作業(低 負荷作業)と大きい作業(高負荷作業)を,各被験者に意図的に与え,それぞ れの作業時のSRLの平均値をリファレンスデータとする.適用実験では,開発 作業間での負荷の違い,及び,開発途中での仕様変更による負荷の変化を評価 した.実験では,比較的小規模なプログラムの仕様を被験者に与え,設計(仕 様理解)からテスト,デバッグまでの作業を行ってもらい, SRLを計測した. なお,作業時間を全体で80分に制限し,設計作業開始5分後とデバッグ作業開 始5分後の2回,仕様変更を被験者に伝え,変更に合わせてプログラムの修正を 行ってもらった. 実験の結果,負荷基準SRLが被験者により大きく異なることが分かった.負荷 基準SRLに基づけば,仕様理解作業,及び,テスト開始直後の作業が高負荷作 業であることが分った.また,設計作業時の仕様変更は作業負荷をあまり変化 させないが,デバッグ作業時の仕様変更は,作業負荷を非常に大きくし,作業 終了時(制限時間)まで高負荷のまま推移することも分かった.負荷基準SRL に基づく負荷評価の結果は,ビデオによる観察結果や作業終了後の被験者への インタビュー結果と比較的一致しており,信頼性の高い負荷評価と言える.