DS-CDMA移動通信における状態遷移を用いた高精度高速送信電力法の研究

佐々木 新一 (9651053)


移動通信のサ−ビスにおいてもグロ−バルスタンダ−ド構築に向け,世界統一規格 IMT2000(International Mobile Telecommunication 2000)実現をめざし, 世界各国で盛んに研究開発が行われている. そこでは音声中心の電話サ−ビスだけでなく, マルチメディア通信に本格的に対応できる性能が要求され, 高速で高品質な伝送が不可欠である. この要求に応え得る無線アクセス技術としてDS-CDMAが注目を集め,中でも Wideband-CDMA(W-CDMA)方式は,広帯域化によるシステムの柔軟性, 周波数利用効率の高さなどの特徴を持つため,特に注目を集めている.

一般にDS-CDMAにおいては,送信電力を必要最小限に保つことで,通話できる ユーザ数を増やす技術として,送信電力制御(TPC)が用いられる.従来のTPC 技術では,送信電力を上げ下げする幅が固定的てあるため,移動機がビル影 などから出たり入ったりしたときに生じる,急激な受信電力の変動に 十分追従できない可能性があった.

そこで本研究では,上り回線(移動機から基地局)において,送信電力制御ステップ を状態遷移を用いて変化させることを特徴とする状態遷移型TPC(TPC with state transition: TPC-ST)を提案する.必要な送信電力に急激な増加や 減少が生じた際,制御ステップサイズを自動的に大きくして,できるだけ速く 送信電力を適切な大きさにすることがこの方式の基本的な考えである.

計算機シミュレーョンにより,TPC-STと従来の送信電力制御ステップが固定的である 方式とを比較した結果,最大ドップラー周波数が20Hzから80Hzにおいて,送信電力制御 誤差(基地局での平均受信電力の標準偏差)を約0.5dBできることを明らかにした.