一般にDS-CDMAにおいては,送信電力を必要最小限に保つことで,通話できる ユーザ数を増やす技術として,送信電力制御(TPC)が用いられる.従来のTPC 技術では,送信電力を上げ下げする幅が固定的てあるため,移動機がビル影 などから出たり入ったりしたときに生じる,急激な受信電力の変動に 十分追従できない可能性があった.
そこで本研究では,上り回線(移動機から基地局)において,送信電力制御ステップ を状態遷移を用いて変化させることを特徴とする状態遷移型TPC(TPC with state transition: TPC-ST)を提案する.必要な送信電力に急激な増加や 減少が生じた際,制御ステップサイズを自動的に大きくして,できるだけ速く 送信電力を適切な大きさにすることがこの方式の基本的な考えである.
計算機シミュレーョンにより,TPC-STと従来の送信電力制御ステップが固定的である 方式とを比較した結果,最大ドップラー周波数が20Hzから80Hzにおいて,送信電力制御 誤差(基地局での平均受信電力の標準偏差)を約0.5dBできることを明らかにした.