カラー画像と距離画像の融合によるパノラマ仮想空間の構築

笠原 元 (9651026)


VR(Virtual Reality)とは,現状では体験できない場所の状況を臨場感に富ん だ仕方で提示することによって,居ながらにして擬似的に体験しようというも のである.ゆえに,VR技術によって生成されるVR環境は,何らかの形で人工的 に合成されるものであり,現実環境のコピーも可能である.この現実のコピー を利用して,実際には実行することが不可能な事象をシミュレーションによっ て疑似体験するシミュレーティッドリアリティが,実用的な意味における仮想 現実の役割であり利点である.

今日の3次元コンピュータグラフィックスのほとんどは,仮想環境や物体を Polygon based renderingに代表される幾何形状モデルを利用して表現してい る.しかし,幾何形状モデルのみを用いた仮想環境の描画は,その写実性に限 界がある.近年,幾何形状情報のみを用いて仮想空間を表現するのではなく, 実写映像をもとに仮想空間を表現する手法が活発に行われている. これらは,Image based renderingと呼ばれ,実写映像を使用することで写実 性の高いVR環境の映像を提示できる方法として注目されている.しかし,VR環 境内に実世界の幾何形状情報を把握していないため,実世界の現象をシミュレー ションする用途には不適である.

本研究は,3次元形状計測技術とコンピュータグラフィックスのImage based rendering技術を融合した,カラー画像と距離画像の融合によるパノラマ仮想 空間の構築手法を提案する.形状計測システムを構築して,実環境のパノラマ 画像と全周囲距離画像を作成し,環境の距離画像から奥行き情報・形状情報・ 法線ベクトル情報等の空間情報を取得する.そして,パノラマ仮想空間とのイ ンタラクションにおける重要な技術課題の一つである,仮想3次元空間内に置 かれたCGオブジェクトの姿勢決定を,実環境の物理拘束に基づいて実現させる. 3次元形状計測による実世界の空間情報から,CGオブジェクトの振る舞い(姿勢) を決定し,カラー画像内にCGオブジェクトを合成描画する.結果,従来の幾何 モデルのみを用いた仮想環境の描画による写実性の限界を克服し,実時間描画 とインタラクションが可能な,実環境の物理拘束に従う仮想空間を構築する.