まず,薬物分布の非侵襲計測を実現するため,新たに含気マイクロカプセルを 薬物担体として用いる試みについて検討を行った.含気マイクロカプセルは超 音波に対して強い散乱特性を示す.この超音波散乱を超音波診断装置で可視化 することによって薬物分布の非侵襲計測を行うシステムの開発について考察を 行い,超音波散乱特性について実験を行った.その結果,薬物分布の非侵襲計 測の可能性について示すことができた.
次に,薬物の放出制御に関して,含気マイクロカプセルの超音波破壊特性に着 目し,薬物放出を含気マイクロカプセルを用いて行う方法について新たに検討 した.その検討に基づき,超音波破壊特性について実験を行った.また,破壊 状況を超音波診断装置で非侵襲に観測することにも成功した.そして,得られ た断層像から薬物放出量の定量的評価実験を行った.その結果から,含気マイ クロカプセルによる減衰の影響を考慮する必要が認められたため,音圧計を用 いてマイクロカプセルの減衰特性について調べる実験を行った.これらの実験 より,薬物の放出制御を含気マイクロカプセルの超音波破壊特性を用いて行い, その放出分布や放出量を計測できるシステムの開発に成功した.
また,空間的に限定した部位への薬物放出が可能であることを示すため,超音 波を集束させて薬物放出制御を行う実験を試みた.これは,体内深部の病変部 位に薬物を放出させるためには必要不可欠である.この実験の結果,放出制御 を空間的に限定して行うことに成功した.
これらの実験結果より,超音波を用いた薬物分布の計測,薬物分布に基づいた 限定部位への薬物放出制御,放出した薬物量の計測,の3点を行うことができ る新たな超音波ドラッグデリバリーシステムの可能性を示すことができた.本 研究により,薬物による治療効果を最大限にするドラッグデリバリーシステム の実現に一歩,近づいたと言える.