待時のあるセルラーネットワークの待ち行列モデルとその解析

松本 秀人 (9551105)


セルラーネットワークは携帯電話やPHSなどの 移動体通信の分野で採用されている. 最近,携帯電話の利用者の増加に伴い,呼損率が 高くなってきており,電話をかけてもつながらない ことがよく生じている.呼損とは呼が無線基地局に 到着したとき,全ての回線が使われているために 呼が棄却されることをいう.ユーザの発する呼には 2種類あり,電話をかけることによって生ずる 呼を新規呼といい,通話中のユーザが隣のセルに 移動したときに発生する呼をハンドオフという. この新規呼とハンドオフの呼損率がセルラーネット ワークのサービス品質にとって重要になる.

無線基地局における呼への回線の割り当ては, 待ち行列理論を用いてモデル化できる.従来の セルラーネットワークでは,呼が待時できない 即時系待ち行列システムに相当する.このシス テムではハンドオフの呼損率を低くするために, 一定数の回線をハンドオフのために確保していた. そのため新規呼の呼損率は高くなるという欠点 があった.

そこで本研究では新規呼の呼損率を下げる方法 として,従来のセルラーネットワークにはな かった新規呼が待時できる場合を考え,待ち行列 理論を用いてモデル化する.この待時を許すと 従来のモデルに比べて新規呼の呼損率を低くする ことができると思われるが,今度はハンドオフの 呼損率が高くなる可能性があり,一概に待時ができ るのが良いとはいえない.そこで新規呼の待時を許 しても,ハンドオフの呼損率を劣化させることなく サービス品質を向上させることが可能かどうかを 考察した.

まず今回考えた待ち行列システムのシステム内 呼数に着目して状態遷移図を描き,これから導出 される平衡方程式を解くことによって得られた定常 状態確率から,ハンドオフと新規呼の呼損率を求めた. また,待ち時間の分布関数の LST を導出し,待ち時間 の平均とその変動係数を求めた.次にセルをより大きな サイズのセルで多重に覆った場合,呼損率がどの程度 改善されるかについても考察した.最後に数値実験 により,従来のシステムと待時のあるシステムとの 性能を比較し,待時を許すとサービス品質をあまり 低下させることなく新規呼の呼損率が大幅に改善さ れることを示した.