動的輪郭モデルによる医用スライス画像画像からの組織の再構成

谷口隆英 (9551061)


近年、CTやMRIの普及に伴い、連続した2次元医用画像を容易に得るこ とができるようになった。また、コンピュータの計算処理能力の向上 に伴い、連続画像を再構成し、3次元コンピュータグラフィックスとし て表示するということが、行われ、実際の臨床等に応用されている。 これらの応用は、臓器を単位としたものが多く、切開すれば肉眼でも 確認できる程度の大きさの組織を、実際にメスを人体に入れることな しに、観察することができるということにメリットがあった。

その一方で、もっとスケールの小さな組織においても、3次元像を得 て病状の分析をしたいという要請が出てきた。たとえば、腎臓疾患の 中には、細尿管が詰まることにより起こるものである可能性が指摘さ れている。また、スライスした2次元の断片的な写真を元に、人間が 3次元像を想像することは困難であるため、この仮説が正しいもので あるのかを検証するためには、細尿管の3次元像を求めなければなら ない。 しかし、MRI、CT等からの画像はそれほど細かい組織の観察を目的と はしておらず、解像度に限界があるため、これらの画像を元にして細 尿管像を得ることは非常に困難である。従って、より高い解像度を有 した画像を処理対象としなくてはならない。そこで、MRI、CTのみな らず、顕微鏡写真の連続画像をも処理対象とし、組織の3次元再構成 を行い、コンピュータグラフィックで表示することができれば、医療 分野において役立つものと予想される。

一方、顕微鏡写真を用いた場合、新たな問題が生じてくる。まず、顕 微鏡写真は、人間が手作業でプレパラートに組織スライス片を載せ、 カメラに収めるという作業を経て作成される。それゆえ、組織片が変 形することが予想される他、スライス画像の位置が写真によってズレ るこという問題がある。 また、顕微鏡写真の撮影状態によっては、実画像にありがちな、画像 ノイズの影響を強く受ける可能性もある。これに対し、竹田らは、オ プティカルフローを用いて、連続スライス画像間のズレを計算し、補 正する手法を紹介している。しかし、この手法では、概ね正しい補正 ができるが、エラーを生じやすく上、ズレを補正しただけで、画像ノ イズの影響については考慮されていない。したがって、顕微鏡写真を 処理対象とし、上述の手法でズレを補正した場合、エラーやノイズの 影響を考慮して再構成を行わなければならない。

そこで、本稿では、動的輪郭モデルを用いることで、ロバスト性を持っ た再構成法について述べる。動的輪郭モデルは、輪郭全体の連続性か ら、局所的に極端にズレた値を無視する傾向があるため、周囲とかけ はなれてズレているスライス画像や、画像ノイズの影響を減らすこと が期待できる。