複合体立体構造の比較によるプロテインキナーゼの阻害剤の構造特徴解析

宮田 雄輔


タンパク質キナーゼはシグナル伝達全般に重要な役割を果たし、がん細胞の増殖、慢性骨髄性白血病などにも関与するため、創薬の主要なターゲットの一つになっている。本研究では、多数の複合体立体構造からリガンド(阻害剤)の結合立体構造を比較することで、リガンドとキナーゼの結合選択性に関係する構造の特徴の抽出を試みた。Protein Data Bank(PDB)に登録されている10種のキナーゼ(MK14, CDK2, KAPCA, PIM1, STK6, MK10, CHK1,ABL1, SRC, VEGFR2)とリガンドの複合体構造を取り出し、キナーゼを基準として重ね合わせた。それに対して、リガンドの2D(化学構造)、結合位置における3D(立体構造)比較、リガンドがコンタクトしているアミノ酸残基の比較、リガンド原子のクラスタリングによる特徴解析を行った。その結果、3D比較では顕著なクラスタの形成が見られた。また、リガンドがコンタクトしているアミノ酸残基を比較した結果、キナーゼ間でリガンドと結合しているアミノ酸残基に違いが見られた。さらに、各リガンド原子のクラスタリングによる特徴解析を行った結果、キナーゼごとに異なる位置にクラスタを形成する傾向が得られた。本研究から、リガンド結合の選択性はキナーゼごとに異なる残基および結合部位の領域により認識されていることが示唆された。本研究で得られた知見は、既存の阻害剤の改変や新規の阻害剤の発見に有用な指針を与えるものと考えられる。