コマンド入力によるRasMolの操作法

2010年5月24日
奈良先端科学技術大学院大学 情報科学研究科
川端 猛


1.RasMolのコマンドライン入力の概要

RasMolは、ターミナルから、コマンドを入力することで、より細やかな表示の指定が可能 になります。

RasMolのコマンドは、[選択]をしてから、選択された原子に対して[表示の指定] をするという作業を繰り返し行うことで、表示を指定します。

RasMolのコマンドラインの使い方
[1.選択] selectコマンド等を使って、対象とする原子を指定する。
[2.表示の指定] 選択された原子について、なんらかの表示をするコマンドを実行する。

なのでコマンドを打ち込むにあたっては、「今、どの原子が選択されているのをか」を 意識して使ってください。起動した状態では、全ての原子が選択された状態になっています。 以下に、いくつか、選択、表示の指定の組み合わせの例を示します。

  1. 全てを空間充填モデルで表示する

    RasMol> select all
    RasMol> spacefill true

    こうすると、たいていの場合、大量の水の酸素の球が表示されてしまいます。水の空間充填 モデルの表示を止めるには以下のようにします。

    RasMol> select water
    RasMol> spacefill false

    そうすると、水の空間充填モデルが解除されます。このspacefillのところを変えるとい ろいろ他の表示法が指定できます。重要なものは以下の4つです。

    spacefill空間充填モデル
    wireframeワイアーフレームモデル
    backboneバックボーンモデル
    catroonカートゥーンモデル

    また、分子の選択についても、select water以外に、以下のような選択ができます。

    select water 水を選択
    select proteinタンパク質を選択
    select dna DNAを選択
    select ligand 結合している低分子を選択

  2. 選択した種類のアミノ酸だけ、色を変える

    システイン(Cysteine)だけを選択して、色を黄色に変えたい場合、以下のようなコマンドを打ちます。
    RasMol> select cys
    RasMol> color yellow

    色としては、yellowの他にred,blue,green,orangeなども使え ます。また、color chainとすると鎖ごとの色分けcolor structureとすると2次構 造ごとの色分けが可能です。

  3. ある残基番号のアミノ酸だけ、色を変える

    12番目のアミノ酸を、赤にしたい場合は、以下のようなコマンドを打ちます。

    RasMol> select 12
    RasMol> color red 12番目から16番目のアミノ酸を、緑にしたい場合、以下のようなコマンドを打ちます。

    RasMol> select 12-16
    RasMol> color green

  4. ある鎖だけ選択して色を変える

    A鎖の色をオレンジに変えたい場合、以下のコマンドを打ちます。

    RasMol> select *:A
    RasMol> color orange

  5. ある分子の近傍だけ選択して、強調して表現する

    HEMという分子の周辺7Åにある原子を選択して、太いワイアフレームで表示したい場合、 以下のコマンドを打ちます。

    RasMol> select within(7.0, HEM)
    RasMol> wireframe 100


2.RasMol 2.7 簡易コマンド・リファレンス

以下にRasMolのコマンドの使い方をまとめました。 RasMol Quick Reference( http://biochemistry.utoronto.ca/steipe/bioinformatics/tutorials/refcard.pdf を参考にしています。RasMolのソフトウエアの入手、より詳細なコマンドの説明は、 RasMolのWebサイト: http://www.openrasmol.org をご覧ください。

マウスボタンによる操作

[操作][動作]
マウスの左ボタン 回転(X軸、Y軸まわりの回転)
マウスの中ボタン 移動(X、Y方向への並進)
Shift キー + マウスの左ボタンズーム(拡大、縮小)
Shift キー + マウスの右ボタンZ軸まわりの回転
Control  キー + マウスの左ボタン切断表示(Slab)の切断面をZ軸に対して調節
※X軸:画面の右方向 Y軸:画面の下方向 Z軸:画面に垂直で手前から奥への方向。

コマンドラインの編集

[操作][動作]
Control+B あるいは右矢印キーカーソルの後退
Control+F あるいは左矢印キーカーソルの前進
Control+D カーソルにある文字の消去
Delete あるいはBackspaceカーソルの前の文字の消去
Control+P あるいは上矢印キー<前のコマンドの表示
Control+N あるいは下矢印キー先のコマンドの表示

ファイルの入力など

[コマンド][動作]
load [フォーマット] [分子ファイル名] 分子ファイルの読み込み (フォーマットのデフォルトはpdb形式)
zap読み込んだ分子の削除
exitRasMolプログラムの終了
script [RasMolコマンドのファイル名] RasMolコマンドが書かれたファイルを実行する
help [トピック] オンラインヘルプの表示

選択のコマンド

select <選択表現> 分子の一部だけを<選択表現>によって選択する
restrict <選択表現> 選択した部分だけを表示する
and もしくは && 論理積(AND)
or もしくは || 論理和(OR)
not もしくは ! 論理否定(NOT)

選択の例

select *全ての原子を選択
select Cys Cysteineの原子を選択
select hoh水の原子を選択
select protein蛋白質の原子を選択
select *:AA鎖の原子を選択
select *.CACA原子を選択
select ATPATP分子を選択
select [SO4]SO4分子を選択。分子名に数字を含む場合カッコ[]が必要。

定義済み(predefined)の集合表現を使用する例

select helixへリックスの原子を選択
select hydrophobic疎水性アミノ酸の原子を選択
select backbone主鎖の原子を選択
select sidechain側鎖の原子を選択

残基番号の範囲の選択の例

select 5,10,16 :5番目と3番目と16番目の残基(group)を選択
select 5-16 :5番目から16番目の残基(group)を選択

論理演算の例

select hydrophobic and sidechain疎水性アミノ酸の側鎖の原子を選択
select !HOH && !protein水でなく、蛋白質でもない原子を選択

比較演算子の例

select atomno=1203原子番号が1203番の原子を選択
select temperature>=800温度因子が900以上の原子

距離表現

select within(7.0,HEM) HEMから7Å以下の原子を選択

定義済み(predefined)集合表現

at AかTの塩基 acidic AspかGlu acyclic 環を持たない
aliphatic 脂肪族のAGILV alpha Cα原子 amino アミノ酸
aromatic 芳香族 HFWY backbone 主鎖の原子 basic Arg,His,Lys
bonded 他原子と結合 buried ACILMFWV cg CかGの塩基
charged 電荷RDEHK cyclic 環を持つHFPWV helix ヘリックス構造
hetero HETATM hydrogen 水素 hydrophobic AGILMFPWYV
ions イオン金属 large REQHILKMFWY ligand 水でないhetero
medium NDCPT neutral Charged以外 nucleic 核酸
polar RNDCEQHKST protein 蛋白質 purine AかGの塩基
pyrimidine CかTの塩基 sheet シート構造 sidechain 側鎖の原子
small Ala,Gly, Ser solvent waterかion surface RNDEAGHKPSTY
turn ターン構造 water

表示の指定のコマンド

※[真偽]とは、truefalse、あるいはonoffを指します。 省略した場合、trueだと解釈されます。

※[値]の大きさは全て1/250 Å単位(例:spacefill 500 → 半径2Åの球で表示)

表示法のコマンド
wireframe [真偽] :ワイアフレーム表示をする・しない
wireframe [値] :[値]の太さのシリンダでワイアフレーム表示をする
spacefill [真偽] :空間充填球の表示をする・しない
spacefill [値]:[値]の半径で空間充填球の表示をする
backbone [真偽]:バックボーン表示(Calpha原子を通るシリンダ)をする・しない
backbone [値]:[値]の半径のシリンダでバックボーン表示をする。
ribbons [真偽]:リボン表示をする・しない
ribbons [値]:[値]の幅のリボン表示をする。
cartoon [真偽]:カートゥーン(厚みのあるリボン)表示をする・しない
cartoon [値] :[値]の幅のカートゥーン表示をする。
label [真偽]:原子にラベル原子名等の文字列を表示する
label [文字列]:[文字列]を原子にラベル表示する
set fontsize [値]:文字列のフォントの大きさを<値>に設定する
ssbonds [真偽] :SS結合を表示する
ssbonds [値] :SS結合を[値]の太さで表示する
set ssbonds backbone :SS結合を主鎖のCalpha原子間に設定する
set ssbonds sidechain :SS結合を側鎖の硫黄原子間に設定する
hbonds [真偽]:水素結合を表示する・しない
hbonds [値] :水素結合を<値>の太さで表示する
monitor [原子番号], [原子番号] :2つの原子の間に点線を引き、距離のラベルを表示
monitor [真偽]:monitor表示をする・しない
set monitor [真偽]:monitorのラベルを表示する・しない
dots [真偽]:ドットサーフェースを表示する
dots [値] :[値]の大きさの点密度でドットサーフェースを表示

色の指定のコマンド

color [オブジェクト] [色]:色を指定

<オブジェクト> : 以下から選択できる。省略した場合は、全てが対象となる。
 atoms bonds backbone ribbons labels hbonds  ssbonds dots axes  

<色>: 以下の定義済みの色名を入力できる
blue black cyan deeppink firebrick forestgreen
grey green greenblue maganta orange pink
purple red redorange skyblue violet white yellow

また、RGBの値を直接指定することもできる。 [[赤:0-255],[青:0-255],[緑:0-255]]の形式。例えば、以下のように入力する。
color [255,120,120]:パステルピンク色
color [60,150,60] :暗い緑色

原子の色付けについては、以下の特別な<色>を指定できる
cpk炭素:灰、酸素:赤、窒素:青 aminoアミノ酸ごとの色
shapelyアミノ酸ごとの色 group残基番号順に青→赤
chain鎖ごとに別の色を付ける structureヘリックスmagenta,シートyellow
temperature温度因子に従って青→赤 charge温度因子に従って赤→青

その他のコマンド

回転・拡大操作などのコマンド

rotate [軸] [回転角度] :[軸(xyz)]を回転軸として[回転角度]°回転
translate [軸] [値] :[軸(xyz)]の方向に[値]だけ並進移動
rotate x 30 :x 軸に対して30度回転
translate y 2.5 :y 軸に対して2.5Å並進移動/TD>
zoom [値(%)] :[値](%)に拡大。zoom 100 がそのまま。
slab [値(0〜100)] :切断表示の調節。z軸に垂直な面で切断。 切断面の位置の[値]は、分子の背を0、手前を100とする。
slab [真偽] :切断表示をする・しない
reset :回転、並進、拡大、切断をリセットし、初期表示に戻す。

表示法(レンダリング)のコマンド
background [色]:背景の色を指定
set ambient [値]:Depth-cueの背景光の強さを指定
set shadows [真偽]:影の表示をする・しない
set specular [真偽]:highlight(原子の反射光)の表示をする・しない
set specpower [値]:highlight(原子の反射光)の強さを指定

画像ファイルを出力するコマンド

write <画像フォーマット> <ファイル名>

write ppm out.ppm : 表示されている分子画像をbbm形式で"out.ppm"というファイル名で保存

<画像フォーマットの例>
 gif : gif 画像フォーマット
 ps : PostScript 画像フォーマット
 epsf : Encapsulated Postscript 画像フォーマット
 monops : Monochrome Postscript 画像フォーマット
 bmp : Microsoft BMP画像フォーマット
 pict : Apple PICT画像フォーマット
 ppm : Portable Pixmap画像フォーマット
 ras : Sun raster形式の画像フォーマット

画像以外のファイルを出力するコマンド
write vectps <ファイル名> : Postscript形式の線画フォーマットで出力。
※ワイアフレーム、空間充填、バックボーン表示のみ対応。
write molscript <ファイル名> : Molscriptのスクリプトファイルを出力
write vrml <ファイル名> : VRML形式のファイルを出力。
ワイアフレーム、空間充填の表示のみ対応。
write phipsi <ファイル名> : 主鎖の角度φ、ψの値をテキスト形式で出力
write ramachan <ファイル名> : ラマチャンドラン・マップ(φ、ψの2次元分布図をテキスト形式で出力
write script <ファイル名> : 現在の表示を再現するためのコマンド群を、出力する。

その他のコマンド

structure : 2次構造の情報を表示
connect <真偽> : 共有結合の接続を再計算する・しない
show information : 構造の様々な情報を表示
show sequence : 配列を表示
show symmetry : 結晶の空間群の情報を表示
show selected : 選択されたグループ(残基)の情報を表示
show selected group : 選択されたグループ(残基)の情報を表示
show selected atom : 選択された原子の情報を表示
show selected atom : 選択された鎖の情報を表示