修士論文: 『航空路の拠点空港選択問題野研究』


ハブ・スポークシステム

本論文では, 航空路のハブ・スポークシステムについて考察する. ハブ・スポークシステムでは, ネットワーク上に 中継点の役割を果たすハブと呼ばれる施設を配置し, ハブ間はすべて直接接続される. また, ハブ以外の各ノードはハブを経由して他のノードと接続される. このネットワークの形態が, 自転車のハブ・スポークの形に似ていることから ハブ・スポークシステムと呼ばれる.


なぜ, 航空路のハブ・スポークシステムが注目されるようになったのか?

1938年, アメリカ合衆国で制定された民間航空法(Civil Aeronautics Act)は, 国内の企業間の競争を規制し, 統制する目的をもって導入された. これによって, 航空会社は, 市場参入, 価格形成, 航空輸送事業の その他の面について民間航空委員会(Civil Aeronautics Board, 以下CABと略)の 管理・監督下に置かれることとなった. その後, 1978年に規制緩和されるまで, CABは権限を強化し続け, 新たに市場に参入しようとする企業の自由を 奪っていっただけでなく, 既存の企業に対する新路線への参入・撤退までも 規制していた. このような状況の中, 航空会社は著しい発展を遂げることも なく, 急に経営が悪化することもなく, 保護された環境の中で 安定した成長を続けていた.

ところが, 1978年に航空輸送事業規制緩和法が制定され, アメリカ合衆国の航空業界は大きく変化した. この法律は, 路線と運賃に関するすべての統制を撤廃するというものであった. 規制時代には, ハブ展開を行なうことは極めて困難であったが, 規制が緩和され, 各航空会社は一斉にハブ空港の設定に目を向けた. ハブ空港を設定し, ハブ空港経由の航路を運営することにより, 航空会社にとっては, 運営する便数の削減による費用の削減, 利用者に対するサービスの強化等を望むことができる. 一方, 利用者にとっては乗換えの回数が増えるというデメリットがある. ハブ・スポークシステムは, 一見, 空港会社の利便性のみを考慮し, 利用者にとってはメリットが ないように感じられる. しかし, 多くの場合, 長距離の 直行便をハブ空港経由の航路に変更することにより, 同じODペア(出発地と 目的地のペア)に対して便数の増加が可能となる. 利用者の多くが, 便数の多いことにも優先順位を置いていることを 考慮すれば, 利用者の選好にもかなうものであるといえる. 行き先がどこであれ経由地が少ないことを望む利用者の存在が, 今後, 直行便の増加を促すことがあったとしても, ハブ空港が完全に消滅してしまう と予測する者はほとんどいないと言われている. また, 複数のハブ空港を 設定することによるリスクの分散というメリットもあり, 今後もますます航空路のハブ・スポークシステムが進化することは 必至であろう. このように競争が激化する中, 各航空会社にとって 効率のよいハブ空港の選択, 航空路の設計は必要不可欠である.


本論文の概要

ここ10年の間, ハブ・スポークシステムについては 主に近似解法を中心として研究がされてきた. しかし, 扱われたモデルは, 各空港は最も近いハブ空港にのみ接続され, 1つのルートにおいて2つのハブ空港を経由するというものである. 実際の航空路を考えた場合, 各空港が唯一つの空港にのみ接続され, どの航空路においても必ず2回の乗換えが必要であるという仮定は, 現実的ではないように思われる. そこで, 本論文では 目的地によって接続するハブ空港を選択できるとし, すべてのルートにおいて経由するハブ空港の数を1とした新しいモデルを提案し, この問題に対する解法を考察する. このモデルでは, 各空港は 全てのハブ空港と接続し, 利用者は出発地から目的地までの距離が最も短くなる ハブ空港を経由して移動するものとする. 目的は, 利用者の総移動距離を 最小にすることとする. 実際に, 航空費用を決定する要因は非常に多くあるが, その中でも 移動距離に比例する運航費が占める割合が大きく, この傾向は 年々大きくなっている. そのため, 利用者の総移動距離を最小にすることが, 航空会社の費用最小化に大きく影響すると考え, 利用者の総移動距離を 最小とすることを目的とした.

解法を構成するのに有用なOD-ハブ表を紹介し, 分枝限定法による 解法と2つの近似解法を提案する. また, OD-ハブ表を一般の距離行列とみなすことにより, 新しく提案したモデルがp-メディアン問題に帰着することも示し, 既存のp-メディアン問題に対する解法との比較実験を行なった. 実験の結果, 提案する解法は実用的なサイズの問題に対して 有用であることがわかった. 最後に, モデルの拡張と一般化について 考察する.


佐々木 美裕 (mihiro-s@aist-nara.ac.jp)
<最終更新作成日 1995年5月8日 >