第3部 外部評価
第1章 情報科学研究科アドバイザー委員による評価
本報告書の第2部までがほぼ出来上がった段階で,その原稿を情報科学研究科のアドバイザー委員会委員にお送りして,外部からの評価をお願いした。通常この種の外部評価を行う場合には,特別に評価委員会を設定して,委員会を召集し,そこであらためて評価をお願いすることが多い。しかし本研究科には,アドバイザー委員会という常設の委員会が設置されていて,ふだんから本研究科へのご指導をお願いしているので,その委員各位に,自己点検・評価の原稿をご覧いただくという形での評価をお願いしたものである。
アドバイザー委員には,自由な評価をお願いしたが,お願いの書面に,研究科としてとくに重要視する項目を次のように列挙した。
(1)日本で2番目の大学院大学に対するご評価
(2)学生募集,入学試験に関するご意見
(3)研究体制,各講座の報告(第6章,第9章)に対するご意見
(4)大学院大学における教育に対するご意見
(5)学位授与などに関するご意見
(6)産官学協力体制についてのご意見
(7)その他何でも(自己点検・評価,外部評価のありかたについてなど)
これに沿って意見を表明されている委員もおられるし,自由にご意見を述べていただいている委員もおられる。内容は,自己点検・評価に対する身の引き締まるご批判から,暖かい励ましのメッセージまで,多岐にわたる。ご意見をいただいてから若干の時間が許されたので,ごく一部であるが本文の改訂を行えた部分もある。たとえば,白川委員のご指摘に基づいて,科学研究費関連の資料を追加したことなどである。
本章には,19名のアドバイザー委員からいただいたご意見,評価を,委員のお名前の順に,内容にはほとんど手を加えることなくそのまま掲載させていただいた。
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新本孫宏委員(シャープ株式会社取締役副社長)
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(1)日本で2番目の大学院大学に対する評価
社会人留学等も多く,旧来の大学では実現しなかった研究環境が提供されている。
大学を持たない独立した大学院であり,学部からの継続性が断たれていることから研究テーマの回転が速くユニークなテーマが多い。
また,本制度は他大学生や特に社会人受験者にとっては入学における敷居の高さを感じさせない良いシステムのようである。いろいろな大学,企業からの入学者選抜により優秀な学生を集めることができ人的交流の良い場となっていることは意義がある。
(2)学生募集,入学試験に関する意見
仕事による時間拘束は,受験勉強等に費やす時間の制約につながり学問を目指す社会人受験者にとって大きなハンディーとなっている。
このような問題をクリアするために貴大学がとっている論文,面接重視の選抜方法は特徴的なシステムである。受験者にとっても入学の動機,研究目的等を双方で確認できるため整合の取れた教育,研究活動ができるものと考える。特に学習意欲を持った社会人受験者には広く門戸を開く非常に特徴ある良いシステムと評価する。
また,大学の内容を公開するオープンキャンパスについても受験生にとっては評価が高い。
(3)研究体制,各講座の報告に対する意見
(a) 日本国内での活動にとどまらず,アジアを含めた広い舞台での研究活動は,これまでの大学の枠を越えた大きな成果である。
(b) LSI設計,検査システム等の設備が充実しており,情報論理学講座ではコンピュータの論理設計からLSIの開発まで進められる体制になっている。また,東京大学のVLSI試作サービスVDECを活用した試作も計画されており,大学における新規LSI開発の活性化が期待できる。(MIT等においても新規プロセッサの開発研究が盛んであり日本においてもこのような研究活動を進めることは重要と考える)
システム・オン・シリコン時代に向けたVLSIの設計,新世代ネットワークコンピューティングに関する研究等は興味深いテーマである。
(c) ATM高速通信実験システムによる画像データは伝送実験,アカデミックチャネルシステムによる学内テレビ放送網の構築など興味深い研究がなされている。マルチメディアシステムの普及には今後コンテンツの製作が重要となってくる。一般企業人や一般人が高度な教育を受ける時間が取れないことを考慮し,これらのシステムを活かした遠隔授業(大学)なども考えられる。特に企業の研修所と連携した遠隔授業により企業教育のレベルアップを図る企画も考えられる。
(4)大学院大学における教育に対する意見
研究,教育のテーマ選定にあたっては,単に流行の先端を追うだけでなく,基礎的な分野についても十分にカバーされている。また,学外の講師による学際領域に関する講義も大学院の特徴ある教育に一役買っている。欲をいえば数学的な基盤技術を学ぶ講座の増設を望む。
(5)学位授与などに関する意見
博士課程修了者数も多く学術レベルの高さが伺われる。
また,優れた研究業績を上げたものについては博士前期課程では最短1年,博士後期課程では前期課程と合わせて最短3年で学位を取得できる学位規則は,社会人にとっては非常にありがたい制度であり,研究意欲もさらに高まるものと思われる。
(6)産官学協力体制についての意見
通信放送機構等の政府機関からの研究受託や企業等との共同研究など積極的な活動が行われている。特に民間だけではできない大きな実験研究を政府機関と共同で行うことは重要であり,大学が中心となって研究プロジェクトを組み民間企業が技術指導を受けて参画していく形が望ましく,また大学の役割であると考える。
新しい産学関係として独自の制度で連携講座を運営されていることも高く評価される。
研究の成果や実験設備が新しい産業のインフラの構築につながることを望む。
(7)その他の意見
(a) オープンキャンパスやWebによる積極的な情報公開・情報発信は大学院の独自性,重要性を広く一般にアピールするよい機会になっている。
(b) 高度の設備が短期間で導入できたことは高く評価する。これらの設備の有効活用,陳腐化してしまわないためのリニューアル活動も積極的に行い,関西では常にトップレベルの研究設備を有する機関としていただきたい。
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池田克夫委員(京都大学大学院 情報科学研究科長)
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(1)
自己点検・評価を興味深く読ませていただきました。現在新設の独立研究科を立ち上げている者と致しまして共通の点も多々あり,大学院大学を新しく作り上げて来られた苦労がしのばれました。まずは長年のご努力に敬意を表わす次第です。
もし可能であれば,同様にして設置された北陸先端と比較してみることも意義があるのではないかと思いました。
新設の機関が苦労するところは,全てを一から作り上げて行かねばならないわけですが,逆に,既成の組織の改組は,これまでのルールが重石となって邪魔になることもありますから,新から作る方が良い場合もあると思います。
国立大学としての管理運営は現在の大学運営には余り適当でないことも多いと思いますので,その制約がなるべく受けないような,国立大学らしくない国立大学の運営方式をしていただきたいものであると思います。その点に関して,特に,企業から来られた教官がどのように評価しておられるのでしょうか。
大学の地理的条件の結果についてはどのように評価されたのでしょうか。見落としたのかもしれませんが,気づきませんでした。
(2)
学生募集はどこでも極めて重要です。独立研究科でも直接学部に足を持たないところは学生に応募してもらうことに相当神経を使います。同じ専攻の中で学部に足があるところとないところが混ざる場合には一層状況が複雑であり,逆に気を使います。その点では,貴学の方が条件は良いのではないでしょうか。ただし,それは元いた大学にしか目を向けていないようなことをすると同じことが起こるかもしれません。元の大学も複数で,企業の人もかなりおられますから,この点では却って良いのだろうと思いました。
積極的にオープンハウスをするなど,大変な努力をされておられることがよくわかりました。そのための手間は大変だろうとは思いますが,定期的に研究成果をきちんとまとめて,わかりやすく提示することは,成果を積み上げるために大変有効に働いていると思いました。
入学試験については,面接主体にするなど,大変工夫をしておられるように思いました。報告では良い面が主として書かれているように思いましたが,時間がかかるなど,マイナスの面はないのでしょうか。面接では余りはっきりと差がでないことがあり得るので,どうしておられるのかもう少し具体的に知りたいと思いました。
書かれている限りでは,成功しておられるように拝見しました。
博士課程の学生募集も高い充足率を示しているので成功しておられるものと思います。
留学生が極端に少ないのはどうしてでしょうか。留学希望は沢山寄せられると思いましたが,いかがですか。特別選考で語学のハンディを緩和するなどの手当をしておられないのでしょうか。
(3)
1,1,2という教官定員の構成は羨ましい限りです。研究活動を一定のレベルで維持しながら若手の研究者を育てるには助手クラスがなるべく多く必要です。日本ではDRに残ることは無給で授業料を払い生活費を工面することが必要なので,なかなか残りたがりません。このために,大学は自分の組織の再生産がままなりません。
また新設の大学には少なくとも初めのうちは設備費や施設がきちんと手当されていますから,この点では大変恵まれているといえます。
支援財団を作って研究費の支援をしてもらっておられることも大変有効であると思います。
科研費の獲得も順調に伸びていると思いました。
各講座の報告の個々にコメントすることはとてもできませんが,程度の差こそあれ,それぞれ個性的に工夫をしておられる様子がわかります。
修士レベルで学会誌への論文発表をきちんとしておられる所も沢山あるようで,感心しました。ただし,論文数のみを評価の対象とするべきでなく,質が重要であることはもちろんです。この点は学生に正しい指導をしていただきたいと思います。論文賞などもそれなりにもらっておられるので,順調に成果が出ているものと考えられます。
(4)
学部が情報の専門でない学生に対して,学部レベルの基礎学力を付けさせることは重要です。なぜなら,世間は情報が専門の大学院の修了と見なすからで,それを裏切ってはなりません。これらの学生は,学部では他の専門での勉強をして来ていて,その上に情報の勉強をしているわけですが,学部レベルの講義に対しての単位をまるまる修士修了要件に算入するのは若干疑問です。その分,専門の講義の受講が少ないからです。ただし,他の専門の履修をしていることに配慮して,その分の軽減は認めて良いものと思います。
(5)
修士号を論文なしに与えている課題研究方式については,それなりの検討を重ねられた上でのことであると思いますが,安易にこの制度が適用されることは好ましくないと思いました。
修士と言うからには研究論文の端くれぐらいは書けなければ将来困ると思うからです。課題研究方式の場合には,二つ以上の専門について,十分な履修を要求して,修了単位数も,研究論文の6単位に見合う程度の割り増しを要求するのが良いと思います。修士論文の6単位は,2単位の授業科目が3科目よりは負担が大きく,それ以上の教育効果が得られると思うからです。
博士論文については特にコメントはありません。
(6)
特にコメントはありません。
(7)
特に付け加えるコメントはありません。
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伊澤達夫委員(NTTエレクトロニクス株式会社 代表取締役社長)
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(1)日本で2番目の大学院大学に対する評価
短期間のうちに教育,研究両面で高いレベルの大学院大学体制を構築されたことは,高く評価したい。しかしながら,奈良先端科学技術大学院大学の情報科学研究科として教育面,研究面での特徴をどのように出して行くかは今後の問題であると思われる。研究科全体で個性のある教育,研究が打ち出せれば当大学の存在感を高く評価されるようになろう。
(2)学生募集,入学試験に関する意見
当研究科は,先端科学技術分野の研究開発に携わる人材,及び高度専門職業人の組織的養成を目的としているとあるが,その具体的なイメージが応募学生に明確に伝わっているだろうか疑問である。基礎研究者の育成か,情報分野でベンチャービジネスを起こすような人材を育成するのか,大企業で働く技術者育成かどこに力点を置いているのかを明確にすると学生募集も効率的に出来るのではないか。
(3)研究体制,各講座の報告について
各講座ごとの研究レベルは高いものと拝察する。せっかく多くの世界第一級の研究者が学内におられるので,その特徴を生かした共同研究プロジェクト体制が組めないものかと愚考する次第である。
講座の報告は,”・・・について顕著な貢献を果たした”,”・・・について優れた成果を上げた”という表現が目立つが,説得力がない。すべてを記述するのは困難であるのはわかるが,代表的な成果について具体的に記述し,その成果が現在あるいは将来産業界,学会に与える効果についても明確に言及すべきである。このような努力が奈良先端大の存在感を高めることにも繋がると思われる。
(4)大学院大学における教育
大学院大学の教育は,高度な既存技術や学問の教育ならびに演習を修める部分と問題の発掘,その解決手法の検討及びその実践に分けられると思う。最近の大学院教育が前者に偏り,後者が疎かになっていないかを恐れる。
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牛島和夫委員(九州大学大学院システム情報科学研究科長・教授)
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自己点検評価報告書には執筆者が当然と思っていることは書かれていないことがしばしばあります。執筆者が当然と考えていてもよそから見ればそれはその大学の特色だったりすることがよくあります。文書には現れないことを見つけだしてお知らせするという役割も外部評価にはあるのではないかというスタンスで,以下の記述では質問の形をとっているところがあります。
(1)教授1,助教授1,助手2という講座制について
講座制をどのくらい強く維持していこうとしているか。それともかなり柔軟な運用をしているのか。いわゆる大講座制をとらなかった理由は何か。いわゆる旧帝大系の大学が大学院重点化の動きの中で小講座制を捨て大講座制に移っている。(大学院重点化を実現するためには移さざるを得なくなっているといった方が当たっているかもしれない。)重点化によって教授・助教授当たりの助手の数が2名から1名になったといってよい。これは教育研究体制上で極めて大きな変化である。
助手2名という体制をどのように評価し活用しようとしているか。
なお,助手から助教授,助教授から教授という自大学内での昇進例があるか。
(2)教育と研究を支援するシステムがどの程度充実・整備されているか。
大学に要求(期待)される事項は非常に多くなっている。それを個々の教官が個別的に応えようとしたらパンクしてしまう。大学が組織として対応する必要がある。奈良先端大としてあるいは情報科学研究科としてどのような組織作りをしてきたか。
どのような組織作りをしようとしているのか。例えば,
(a) 大学事務局と研究科事務室の関係,役割分担はどうなっているか。
(b) 教育職と行政職との比率はどうなっているか。
(c) 各講座で雇用している事務補佐員あるいは教務補佐員の有無。その財源はどこから得ているか。
(d) 各講座間の連携はどのようになされているか。
(3)客員講座と連携講座の客員教授等が実質的にどの程度学生の指導を行っているのか。客員講座教官と連携講座教官とでは権利あるいは義務に差があるのか。有るとしたら具体的にどんなことか。主指導教官となることはできるのか。教授会での権利・義務はどこまであるのか。
(4)平成6年度から専門科目をA,Bタイプと1,2タイプに分けたとある(P.23)。具体的にはどういうことか。それは何故か。平成10年度基礎科目の削減の理由。志願者の動向の変化に対応しているのか。
(5)研究科を開設し学生を受け入れてから満5年しか経っていないにも関わらず情報科学・情報技術の研究分野で奈良先端大の名は十分に浸透したといえる。これは一流の研究者を集めて立派な研究業績を上げてきたことによる。
点検評価報告書から学生を集めることに非常に努力されていることが読みとれる。大学院大学が生まれてまだ5年しか経っていないことを考えれば学生を集めることに客観的には成功していると言えるのではないか。いわゆる入学試験の方法など大学院大学に適切な学生を選抜する方法などのノウハウの蓄積は貴重だと思う。
既存大学の大学院重点化という事態は,大学院大学の設立を計画していた際には予見できなかったであろう。学士課程を持たない大学院大学にとって既存大学の大学院重点化による影響を常に訴え続けて行くべきだと思う。(例えば国大協等を通じて。)大学院進学の際の学生の流動化については我が国の習慣を変更させる問題だから座して待っていたのでは奈良先端大が望むような方向にはなかなか進まないであろう。
博士後期課程への入学・進学状況,特に前期課程からの進学比率は既存の大学に比べて高いと思われる。既存の大学の前期課程では学士課程から続けて6年間おなじ大学に学んでいる例が多い。さらに後期課程に進学すると同じ大学に9年間在籍することになる。このことが後期課程への進学比率の差になって現れているのかどうか,いずれにしても分析が必要であろう。
奈良や北陸の大学院大学の修了生が世の中に送り出されて日が浅く彼らが社会でどのように活躍していくのか結果がまだ見えない。既存の大学に見るいわゆる同一大学からの進学生に見られない特色を表してくれることを期待したい。
(6)期間短縮での学位取得(p.52)に際して優れた研究業績の基準は?
(7)国際交流は極めて活発に行われている(p.113)。その中で10ヶ月以上の在外研究が文部省だけに頼っているために一般・若手各1名に限られている。支援財団もあることだからそちらの資金を使って長期の在外研究が可能となるような方策はないのだろうか。
学生の海外渡航者数(国際会議での発表)はかなり多いといえるのではないか。渡航費等の財源はどこに依っているのだろうか。
外国人留学生数が本研究科の実力からいって少ない。留学生を増やす方策は?
(8)「英語教育センター」の設置(p.59)。本センターは英語教育を受け持ち国際交流も補佐するとある。情報科学研究科等学生の研究指導を担当する教官側からは非常に都合の良いセンターである。しかし,このセンターの教官は大学院学生の研究指導を担当することは無いであろう。このように都合の良い人材をセンター教官に得られるだろうか。いわゆる既存の大学における教養部教官問題が起こらないようにする配慮が必要であろう。
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岡澤元大委員(関西電力株式会社 常務取締役)
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<総論>
(1)アクレディテーションは米国の大学などで行われている教育プログラムの外部評価であり,プライベートの大学としての生き残りのために客観的な評価を積極的に取り入れ,少しでも改善しようとしているものである。
先端大においても,このような評価が行われていることは非常に好ましいことである。
(2)21世紀はまさしく情報,バイオ,素材の時代であり,いろいろな「夢」を実現させていくことに関して,貴学への期待はますます高まってくることと考えられる。
このような活動を通して,地域・企業の信頼を得るとともに,優秀な学生が集う大学院大学として,一層の発展を期待するものである。
<先端大の独自性>
(1)阪大,京大にないものを求めていくことが必要ではないかと考える。
先端大は関西学研都市の中に位置する学部を置かない大学院だけの大学であり,まわりにはATRやBBCCをはじめ多くの公的研究機関,企業の研究所などの頭脳が集中している。連携講座や共同研究などを通じてこれらとの連携を図り,中核組織として機能していくことはもとより,将来これらの研究所をはじめとする各種研究機関で情報科学分野の研究開発を担う高度の基礎力を持つ研究者,技術者を多く輩出することが求められると考える。
<「情報」とはを考える>
(1)先端技術であるが故に研究の方向性を見極めることが極めて重要である。そうした意味からも単に技術の世界に目を向けるだけでなく,広く社会を見つめることが必要である。さらに,これまで人間社会において情報とはどんな存在であったか,どう生かされてきたか,といった考察も今後の情報の扱いを見極めて行く上で必要になってくるのではないか。
(2)こうした点から学際領域特論において,研究者,技術者として社会に貢献するために広い視野にたった将来への展望をもつことが必要であるとして「技術と経営」「科学と哲学」などのテーマにて話題提供されているのは評価できる。
(3)世界的な情報化の波に乗り遅れがちな日本においては,こうした観点からの先端的な考察・研究が欠けているのではないかと考えられる。この為,さらに突っ込んだ議論が必要であり,「情報」そのもののあり方や社会との関連,将来の情報社会の姿などを研究していく講座が必要ではないかと考える。
この際米国のサンタフェ研究所が大いに参考になるのではないかと考える。
<「先頭を走る」人材の養成>
(1)学生募集,入学試験については単なる筆記試験ではなく,面接を重視され,入学の動機,何を期待しているのか,などを選抜の基準とされているのは,評価できる。また口頭での学力試問による自己提示能力と基礎学力とのバランスを考慮した選抜への工夫など評価できる。
(2)平成10年度版の科学技術白書には,変革の実現に向けた研究社会の取組強化に当たって,「見つめる」(内外の諸課題や国民・社会の要請を見つめる視点),「生みだす」(優れた研究成果の創出),「活かす」(研究成果の社会への還元),「評価する」(研究評価の強化)の4つの視点からの取組が重要であるとしている。
現在のような,先行きが見えないような時代には,これらの取組に対して自分の頭で考え,先頭を走っていけるような人材の養成が重要である。
(3)アメリカではヒューマニティーズという学問が盛んである。
これは広い分野にまたがる教養科目であるが,決して単なる知識の植え付けではなく,自分の頭で考えて疑問をもったり,異議を唱えたりする健全な精神の働きを学ぶものであり,今の時代に,我々が何か足りないと思っていることに答えてくれるものである。
(4)先頭を走れる人材の育成は情報科学研究科ばかりでなく,バイオサイエンス研究科,物質創成科学研究科に共通する課題であり,ヒューマニティーズについて全学的な共通講座として学んでいくことが極めて有効である考えられる。これはさらに先に述べた「情報」そのものについて研究していく際にも有効であると考える。
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小田博基委員(財団法人奈良先端科学技術大学院大学支援財団 専務理事)
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(1)日本で2番目の大学院に対する評価
教官・事務局の努力により,1年先発の北陸先端大に比して,科研費分配額,業績や修了者の進路等を見ても非常に卓越していると思う。
しかしながら,独立大学院であるために,大学院重点化政策による他大学の学部学生囲い込みを打破して優秀な学生を継続して確保することが必要で,そのためには学問的業績を上げると同時に,一般的な,社会的な知名度の向上にも力を入れていただきたい。特に,地元関西での知名度向上にも力を入れていただきたい。
(2)産官学協同
現在,大学には産学連携による我が国の技術力の向上が要請されており,当大学でも連携講座や企業との共同研究等を通じて積極的に展開されていることは十分評価できる。
一方,立地している地元企業,研究機関等との連携も重要であると思うが,地元企業(中小企業が大部分)との連携に関して,どのようなスタンスで臨まれるのでしょうか。
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片山卓也委員(北陸先端科学技術大学院大学 情報科学研究科長)
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研究科の自己評価に関しては,教官の業績評価が常に問題となるが,日頃考えていることを一般論としてひとこと述べてみたい。
教官の業績評価が,今後の大学運営,とりわけ人事の進め方や給与の査定などにとって重要な意味を持つことは言うをまたない。評価の項目としては,(1)大学運営業績,(2)教育業績,(3)研究業績が考えられる。大学運営上の 業績に関しては,表面上の成果のみでなく,社会状況や環境なども考慮して行い,教官個人の能力や努力の公平な評価を行うことが必要である。
教育業績の正当な評価は一般には非常に困難である。評価基準が明確でなく,また,教育成果が現れるのに長い時間がかかるからである。その意味では短期間で行う評価のための「正確な」評価基準などは存在しない。これは,しかしながら,教育業績の評価を避けることを正当化するものでなく,むしろ,「我慢の出来る精度の」評価基準を見つける努力を促すものである。当面は学生による授業評価やその評価項目の改善に頼らざるを得ないであろう。更には,卒業後の社会経験を経た後での評価などというのもあるかも知れないし,あるいは,教科書の執筆などの多様な教育活動も評価の対象とすべきである。
研究業績の評価は,通常は,論文数や科研費,外部研究資金の獲得額などが用いられる。これらのメトリックスは研究の質や内容については言及してはいないが,質についての評価が困難なことを考えると,数による評価も仕方のないことであろう。このとき問題になるのは,研究分野による論文数の偏りが,一 般にはかなり大きいことである。例えば,材料科学や生命科学などの分野では 一人の研究者が一年間に20〜30編の論文を書くことも可能と聞くが,筆者の専門である情報科学では,これは不可能であり,一人研究者が書くことが出来る良質の研究論文は高々2〜3編である。
論文数による評価では,論文誌や国際会議の質の差も重要である。程度の低い国際会議や論文誌の論文10編より,質の高い国際会議・論文誌の論文1編の方が価値が高い。しかるに,これらの国際会議・論文誌の質を計るインデック スが研究分野ごとに異なり,複数の分野で有効な共通のインデックスがないことある。これらの点を考えると,研究業績の評価は,分野毎に別個の評価基準を用いて行うべきであり,共通なものを用いることは不可能なばかりでなく,不適切であると考えるべきである。
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酒井保良委員(国際電気通信基礎技術研究所 代表取締役副社長)
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(1)総論的評価・意見
(1) 最先端科学技術研究機関ならびに最上級教育機関として,健全かつ着実に発展して来られていると考えます。
(2) これは教授,助教授,助手のそれぞれにおいて,多方面から若くて活動的な方々を採用され,その方々の自主性を尊重しつつ,学科としての連体意識を育てて来られた結果だと拝察致します。
(3) 真新しい建物と厳選された研究設備は,先端科学技術の教育・研究環境としてトップクラスに位置付けられ,教員と学生の双方に魅力的な環境を形成しています。
(4) 上記(2)(3)が相俟って,優秀な学生の入学意欲を刺激し,結果として前期入学者選抜において常に2倍以上の高倍率を維持しておられます。
(5) また,前期課程修了者のうち,約20%が後期課程に進まれているのも大学院大学ならではの実績と言えるのではないでしょうか。
(6) 卒業生の就職先も多彩であり,世の中の多様な需要にマッチした人材の育成にも成功していると評価できます。
(2)各論的評価・意見
(1) 学生募集,入学試験
(a) 有名大学の大学院強化,多くの大学の大学院新設の中にあって,学部を持たず,歴史も浅い大学院大学の学生確保は徐々に困難になることが予想されます。
(b) 平成10年度の前期課程出願者が,前年比25%,前々年比30%も低下しているのが気になります。
(c) 中長期的にも我国の少子化傾向は,如何ともしがたいものがあります。
(d) ただ,世界的に見ると中国,インドや東南アジアには多くの人材が存在しており彼等の情報科学への感心は極めて高いと推察できます。
(近未来20〜24歳人口,日本:1000万人弱,中国,インド:各1億人)
(e) 米国の大学での博士取得者の半数近く(47%'95年)が,外国人との統計もあります。(Science & Engineering Indicators 1998 by NSB)
(f) 以上より,国内の優秀な学生の確保と併行して,海外特にアジアの向学心に燃えた優秀な人材の確保についても,早めに着手され信頼関係を有する人脈の形成をはかられるのが良いように思われます。
(2) 研究体制,講座報告
(a) 教授の先生方が自ら研究活動を率先垂範されている様子が伝わってきます。
(b) 一般に,優れた先輩の背中を見て育った研究者は,研究活動の何たるかを素直に収得しており,いろんな局面での対応にも柔軟性があるようです。
近い将来には,NAIST出身の若手研究者が,産,学双方で活躍されることと確信いたします。
(c) また,講座の運営についても,それぞれの先生方が工夫をされており,それが専門分野とは別の意味で講座の特徴付けになっているようです。
こういったご努力が,ともすれば希薄になりがちな教員と学生の関係強化に貢献していると考えます。
(d) 全般に常識的で大人しい学生が多いように見受けられます。多少の型破りを認知さらには奨励するような運営がさらなる活気付けに有効と考えます。
(3) 大学院大学における教育
(a) 大学院大学といえども,学生は平均的には20歳代の若者です。単に専門知識の詰め込みではなく,ものの見方・考え方を身につけるように指導してあげて頂きたいと考えます。
(b) また,情報科学の分野では,基礎から応用まで猛烈なスピードで進歩しています。このスピードに追随できるのみでなく,その先を読める技術観を養うことにより,ことの本質にせまることができる研究者に育ってくれるのではないでしょうか。
(c) 併せて,今後重要になると考えられる,科学者の倫理観についても自らが考える習慣を収得しておくことが大事だと考えます。
(4) 学位授与
(a) 後期課程修了者が急増し,毎年30名以上の博士対象者が出来ます。
(b) 研究実績も重要ですが,それにもまして科学技術に対する姿勢や国際貢献・社会貢献に対する使命感などを十分に評価し,将来性にも配慮して審査されるのはいかがでしょうか。
(c) 特に,外国人学生への博士授与の基準について早めに準備された方がよいのではないでしょうか。
(5) 産官学協力体制
(a) 少なくともATRとNAISTとの協力関係(連携講座,客員講座,受託研究ほか)は,双方にとって極めて有効なものとなっています。
(b) しかし我国における産業界と学界との連携は,その重要性が衆目の一致するところであるにもかかわらず,実態は極めて貧弱なものと言わざるを得ません。
(c) この問題については,種々論じられているところであり,NAISTとしても「学」の立場から,実態に即した,前向きの議論を進めていただきたいと考えます。
(6) 評価のあり方ほか
(a) 今回初めて大学の自己評価ならびに外部評価に直接関与する機会を得ました。
(b) 先生方の御努力の多大さに感心しております。
(c) たしかに,面倒きわまりない作業も伴いますが,中長期的には,必ずや効果が現われるものと感じております。
(d) いかに優れた組織でも,一瞬の油断が危機を招く例は枚挙にいとまがありません。
(e) NAISTが,これからも,我国における数少ない大学院大学として,優れた研究成果と,優秀な研究者,技術者を生み出し続けられるよう期待しています。
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島田重康委員(財団法人関西文化学術研究都市推進機構 常務理事)
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当推進機構では,関西文化学術研究都市セカンド・ステージ・プランの答申(平成8年4月)に示された内容の実現に向けて,同年7月25日「関西文化学術研究都市セカンド・ステージ・プラン事業推進会議」を設立し,概ね10年を視野においた優先的取り組みを推進施策として取りまとめました。
さらに今年5月には,セカンド・ステージ・プランの実現化のため,上記推進会議において調査研究チーム及び実現化プロジェクトチームを設置し,諸計画の実現化のため,企画・立案並びに合意形成の促進を図っております。
現在,その取り組みの中で「都市内大学等連携・交流モデルプロジェクト」においては,以下の実現化のための方策等を検討することとしております。
(1) 公開講座の共同企画及び開催
(2) 連携大学院制度の導入
(3) インターンシップ制度の導入
(4) 単位互換制度の導入(国立大学と私立大学との単位互換)
この分野に関しまして,貴大学におかれては既に公開講座ならびにインターンシップ制度(連携講座)を実施されています。また新産業創出の分野におかれては(株)けいはんなが実施しておりますRSP事業などへ積極的に参加されております。これらの学術交流ならびに産学交流へ積極的展開を行っていただいておりますことに関して深く感謝しております。
今後,当機構が貴大学に期待いたします事項は以下の通りです。
(1) 公開講座の共同開催等の実施において,本事業の中心的役割を担って頂きたい。
(2) 学研都市内における,6大学間の連携交流,研究所との交流及び地域・市民交流など,多様な交流・連携においても推進役を担って頂きたい。
(3) 学研都市の特徴を生かした新産業創出に向けた起業人材教育,産学共同研究等に一層の積極的取り組みをお願いしたい。
(4) 既に電子図書館サービスの一部運用を開始されている貴大学と,同サービスの導入を予定している国立国会図書館関西館(仮称)との研究者交流等の推進をお願いしたい。
(5) 本学研地区の高度情報通信基盤の整備に係る実現化方策をまとめていきたいと考えており,貴大学の参画をお願いしたい。
(6) 貴大学に設置されるギガビットネットワーク接続装置及びけいはんなラボ棟に設置される共同利用型研究開発施設の活用をお願いしたい。
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白川 功委員(大阪大学大型計算機センター長)
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「情報科学研究科および情報科学センターの自己点検・評価」を拝見し,率直に感じましたことを,項目ごとに記させて頂きます。
(1)創設5年でもありますので,そろそろ貴研究科の特色を絞り込み,特定化されてもよいのではないか,と思います。「工学を志向」しているとの認識に立たられておられますので,産学連携をもっと前面に出し,路線を実用化研究にシフトされてもよいのではないかと思います。創立間もないからこそ,このようなシフトが必要,かつ有意義であるような気が致します。
(2)多分野,多地域から選抜されますので,大変ご苦労と思います。ここで,特に強調致したいことは,18才人口が160万人から今後10年間で1/4も減って120万人となることに鑑み,外国人学生を系統的に増大するような受け入れ体制を創られたらよいのではないか,ということです。大志もハングリー精神もない日本人よりも,真面目でハングリーな外国人を定常的に増大させる方が大学の活性化に合致するものと思います。
(3)今回の点検・評価は,「自己」とありますので,当然主体的なものとなります。一般的には,そのような場合,どうしても客観性が失われ,その内容に説得性と迫力に欠けるきらいがあります。今回の貴研究科の自己点検・評価は,この一般的な趨勢の例にもれず,自己満足的な内容が散見され,説得力に欠けていると思います。
例えば,各講座の研究活動の項において,どのように活発に活動したと記述されても,その証左となるものが見えません。各講座ごとにせめて過去2年分のpublication(2年間であれば別冊としなくてよい),卒業研究のテーマのリスト,外部から授与された科学研究費(テーマと金額)のリストなど,が付記されておれば,各講座の研究活動状況がより具体的に見え,説得力が増したものと思われます。
(4)特に「プロジェクト実習」は貴研究科の極めて特徴とするところと思います。しかしながら,各テーマについて,どこで,誰が,いつ,実施したのか不明でありますので,活動状況の全貌さえ把握できません。このプロジェクトについて学外に情報発信を行い,もっと大々的に展開されたらよいと思います。
(5)工学博士の学位授与基準を明確にされることが必要と思われます。そうでなければ,後期課程の学生数の定常的な増大が見込めないと思います。
(6,7)産学連携体制をどのように実行されているのかについて明確に見えません。貴研究科は,特に,北陸先端大学院大学に比して,産学連携の面で地理的にはるかに有利であることを踏まえ,その特色を活かすことが是非とも必要であると思われます。
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鈴木 治委員(三洋電機株式会社 研究開発本部 ハイパーメディア研究所長)
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(1)日本で2番目の大学院大学に対する評価
情報関連学科については,画像処理,VR,通信医療,セキュリティ,データベース等多岐に渡って先端的研究しており,研究活動についても国内の各種委員会で奈良先端大学の名前を見聞きする。但し,今年第1回目の博士課程の卒業生が世にでたばかりなので,評価についてはこれからはっきりしてくるのではないでしょうか。また,ATRとの共同の研究活動をおこなうなど,非常にオープンな研究活動を展開しているとの印象を持っております。
93年4月より5年が経過し,前・後期合わせて550名の修士・博士創出において,社会人学生が15%も占めており,社会人・学生・教官の良い意味での人材交流が図れている。大型研究設備の導入も継続的に行われ,特徴ある研究が進められているものと思われる。
(2)学生募集,入学試験に関する意見
選抜方法に関して,面接を重視した選抜試験は,受験者自身の資質,研究意欲などを直に判断する上で,良い選抜方法と考える。今後も継続的に行ってほしい。受験時間を取りがたい社会人受験者に対しても,入学の門戸を広げる意味で評価したい。
また,年に3回の学生募集を行っていること等も含め,広く社会に開かれた大学との印象をもつ。色々な大学の学生を受け入れていることは,大学間の垣根を取り払うという意味でも今後に期待したい。
(3)研究体制,各講座の報告について
3つの講座を有している中で,特に民間企業などとの連携による応用講座に特徴があるが,基幹講座の充実を図ると共に連携・機動性の発揮が今後より一層重要になってくるものと考える。
(4)大学院大学における教育について
大学院大学におきましては,今後独創性に秀でた個性的な学生を育成し,より伸ばす施策が必要と認識します。企業におきましても,協調性の中にも個性的さらに独創的な視点ならびに実行力を持った人材を期待します。
また,自主的でフランクな研究体制のもと,企業からの研究者も多く,実践的な研究活動が行われていると思われる。
(5)学位授与などに関して
博士課程の研究者受入れについて,企業の研究テーマでの研究活動を認めるやり方は,従来の日本の大学にない画期的な考え方と思う。また,社会人研究者にとっては,前期課程を含め最短3年で学位取得できる仕組みは研究者の良い励みになっていると考えます。
(6)産官学協力体制について
企業における研究開発において,短期の成果創出に対応した研究テーマへの比重がより一層増しております。このような状況の中,大学との基盤的な共同研究の重要性が高まっております。しかしながら,基礎研究においても,ある程度の応用を見据えた産学協力をお願い致したく存じます。
また,各位授与等非常に産業会寄りの研究活動を実施し,且つ各種プロジェクトに参画し研究活動を実施していることは,日本でも産官学協力の先導的役割を果たしている大学との印象を持ちます。ただしその実態については,専門家の間でしか知られていないのではないでしょうか。
(7)その他意見
京阪奈の研究学園都市の一角に位置しており,各種研究機関が集中する場所にあることから,今後奈良先端大学が研究学園都市の中枢として機能する日がくることを期待します。
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高梨裕文委員(株式会社富士通研究所 取締役副社長)
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(1)日本で2番目の大学院大学に対する評価
技術立国という言葉が聞かれなくて久しく感じられます。21世紀の国際的な日本の役割を考えると,創造力を持った個性的な人材,総合力を身につけた人材などを必要とするのは明らかです。大学院大学として一般大学と異なった人材育成を果たす方向をとられており,大いに期待するところがあります。
(2)学生募集,入学試験に対する意見
日本の大学制度は入試を重視し,人材を判定することになっております。もう少し入学に門戸を開放し,卒業に対して厳しい制度,欧米の制度を導入することを検討する必要はないかと思います。
(3)研究体制,各講座の報告に対する意見
十分理解していないので,的外れな意見かもしれませんが,テーマの重要性,実力によって,もっと柔軟な形を作る事は考えられないでしょうか。
例えば,助教授クラスに独立した講座を持たせるとか。
(4)大学院大学における教育に対する意見
大学教育をベースとして,その上に積み上げる21世紀のリーダーとなり得る人材を育てる教育,例えば,日本では弱いとされているフィロソフィーとかコンセプトを創出できる人材を育成できる教育を期待したい。
(6)産官学協力体制についての意見
産官学の協力体制と言うと,官学への協力がその基盤となっており,大学や国立研究機関へ民間企業からの出向を主体とした今日同研究が主流である。ここの提案はその逆,即ち若い先生が企業との共同研究のために,長期に企業へ出向して,企業のテーマの中で,研究開発を経験,遂行する制度である。これによって企業側は,先生のアイデア,研究手法,技術的指導を期待できる。大学側は企業の抱えている問題や,大学に対するニーズを把握することが出来る。
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武田康嗣委員(株式会社日立製作所 専務取締役)
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(1)日本で2番目の大学院大学について
大学院大学はこれからが正念場と思う。有名国立大学が大学院重視を打ち出し,一方では有力国立研究所が総合大学院組織を構成し,それぞれ工夫して大学院生獲得に乗り出したからである。一方で若年層人口は不足で企業は優秀な修士卒に採用の中心を置いている。3年先にはこれらの結果は歪みとなって明確に表れてくるであろう。その解決策は日本として国際的に魅力ある大学院の創造しかないであろう。特に情報科学は国としても今後力を入れるべき戦略領域であり,優秀な外国人留学生を受け入れてでも研究活力を維持すべきである。
(4)大学院大学における教育について
(1)との連動で講義,講演等は全て原則英語で行うと云う位の思い切った発想も必要である。
日本の研究者や学者は国内ではとうとうとしゃべるが,国際会議やシンポジウムではおとなしい。これでは情報科学で特に重視しなければならぬ国際標準化等の論議の場で負けてしまう。情報科学研究科の大学院学生は,言語を使いこなすことには本質的に能力を備えている筈であるので,日常の研究室で少なくとも研究者同志は,英語で議論することを原則とし,平素から言語障壁を下げておくことが大切である。海外からの講師も招き易くなる。
また,英語に熟達していれば大学院卒業後海外を含め,広い活動の場が得られよう。
(6)産・官・学協力体制について
産・官・学の連携はそれ自体が目的ではなく,手段である。但し,過去情報関連の大型技術が続々と* 欧米の大学から出現し,産業界に浸透した事実を国も大学も産業界もしっかりと受け止め反省すべきである。また21世紀型のイノベーション・モデルは基礎研究から応用へのリニア型ではなく目的指向のノンリニア型ヘ移行する時代であり,改めて協力体制を考え直す必要がある。国も情報分野を国家としての戦略重点技術分野であることを意識して,産学連携を円滑に行える研究機構設立,PJの推進などの努力をさらに強化すべきである。
*(1)ストアード・プログラム(英,ケンブリッジ大)
(2)コンパイラ(米,ライス大,スタンフォード大)
(3)UNIX(米,UCB)
(4)RAIDO(米,UCB)
(5)RISC(米,UCB)
(6)マイクロ・カーネル(米,CMU)
(7)MOSAIC(米,イリノイ大)
(8)並列コンピューティング(米,イリノイ大,MIT,スタンフォード大)
(9)パケット通信(米,UCLA)
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田中英彦委員(東京大学大学院工学系研究科 教授)
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(1)大学院大学に対する意見
設立されてから,様々な新しいアイデアを加えつつ今まで順調に発展してきたと思う。ただ,わが国の多くの大学が大学院の枠を拡張して来ている中にあって,大学院学生を奪い会う状況にある。今後は,外国からの優れた留学生を多く受け入れ,全体として活性化を計るべきではないかと考える。手間はかかるが,優秀な学生も多く,日本人に対する良い刺激にもなる。
(2)入学試験に関する意見
面接を重視した試験になっていることは,優れた試みとして評価できるが,人間の中には,大変優れた思考をする能力に富んでいるにも関わらず,presentationの下手な者も存在する。presentation能力は,訓練で後程かなり改善されるものであり,面接だけでうまくこのような者を見い出すことが可能であろうか。これに対して,従来の面接経験から,大丈夫だという感触があればいいが,そうでない場合は何らかの工夫が望まれる。
(3)研究体制,各講座に対する意見
研究内容はそれぞれに大変面白いものが多いが,講座の運営に関して,各講座間の独立性が比較的高いように感じた。人事運営に関してその感が強い。講座間の競争関係を築くにはこれがよいが,もう少し柔軟に間を運営することを考えてもよいのではないか。これは,文章を読んでの間接的な感じなので,間違っている可能性がある。その場合は,御容赦頂きたい。
(4)教育に対する意見
複数指導制は,実質的にうまく機能しているのであろうか。面白い試みであると思うが,その具体的な利点が報告書からは見えない。「万一の場合の安全弁」なのであろうか。これを運用した結果の評価が欲しかった。
(5)学位授与に関する意見
学位審査人数が2人以上ということであるが,これは下限としては少な過ぎないであろうか。勿論,運営形態によって異なることであり,一概には言えないが,もし,審査委員会にかなりの実質権限を与えるのであれば,もう少し増やして,各研究を余り知らない人間を増す方が,客観的になるものと思われる。
(6)産官学協力体制についての意見
協力がよく行われていると思うが,その具体的な成果や利点を評価して報告書に記述する部分があった方が,分かり易く,また,他に対して,大学の特徴を訴え易いのではないかと考える。
(7)その他の意見
対外的に大変活発であり,各人が努力しているのが,分かる。今後も,ご活躍を期待する。
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田村浩一郎委員(中京大学情報科学部 教授)
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研究と教育とは,もちろん互いに両立し得るものですが,対立する要素を持っていると思います。研究は未知の,したがって不安定で未整理の領域を開くものですし,教育は確立され体系化され安定したものを学生に伝えるという基本があると思うからです。
さて,先日のアドバイザリ委員会から私の理解したところでは,貴学の方針は,教育については高度な職業人を育成すること,研究については,先生方の評価を厳しくし,ノーベル賞が取れるような成果を目指すこと,といったところでした(間違っていたら,以下の意見は見当はずれになりますので,ご容赦ください)。
もしそうであるとしますと,教育の方針は,納得できますし,また,そのためのカリキュラムもよくできていると思います。しかし,研究についての方針は,すこし納得しがたいところがあります。情報科学ではノーベル賞がないので,それにかわるチューリング賞を取ると言うことになるのでしょうが,そういう確立された枠組みでの権威に評価付けを委ねるということに疑問を感じるのです。
貴学のようなすぐれた先生方がそろったところでは,(職業人を育てるという教育機関である以上に)研究機関として,既成の枠にとらわれることなく,もっと大胆に人のやらないような分野を拓き,既成の尺度では測りきれないような成果をめざす研究を進めてほしいと思います。また,先生方のそういう姿勢を学生が見ることによって,未来を任せられる真の人材が育つのではないかと思います。逆に,発表論文の数で点を付けるような安易な評価方法を続けるならば,挑戦的な先生方がつぶれてしまうのではないでしょうか。また,もっと恐ろしいのは,そういう状況を見せつけられる学生はますます了見の狭い点取り主義になって行くでしょう。そういう学生が立派な職業人になるとはとうてい思えません。
最近は,評価ばやりで,なにかと競争,評価が言われますが,また,もとよりどちらも必要ではありますが,それが低い次元で行われると,とんでもないひずみをもたらすと思います。貴学だけでなく,日本の大学全体で同じような風潮が広がり出していると感じるのは,わたくしのつまらない杞憂でしょうか。
貴学の実態をあまり理解せずに,勝手なことを述べましたが,失礼の段,お許しください。
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土居範久委員(慶應義塾大学理工学部 教授)
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まず,開学以来5年にもかかわらず,情報科学分野において,奈良先端科学技術大学院大学の名を次第に深く浸透させつつある先生方の不断の努力に敬意を表します。
「10章 今後の取り組みと考え方」で取り上げられておられるいくつかの項目について,私見を述べさせていただきたいと思います。
(1)10.2 大学院重点化政策と独立大学院大学との関係
いわゆる「囲い込み」現象は,大学院重点化政策の浸透に伴って始まったことではない。この現象は,従前より在ったのが,総合研究大学院大学が開設されて以来,顕在化したものである。それが,一層,顕著になっただけのことである。純粋培養の利点はあるにせよ,学生のモビリティを高める努力を先発の大学院大学は結束して行っていただきたい。
しかし,大学間の差異がなく,どこもかしこも似たり寄ったりのことしかやっていない我が国の現状では,動けというほうが無理なのかもしれない。そこで,この分野なら奈良先端科学技術大学院大学と,誰しもが思うような,特徴をもった大学院にしていただきたい。極めて層の薄い我が国の大学で,どこもかしこもが少ない数で,この分野のあらゆることをやろうとしていることに問題がある。
(2)10.4 任期制への対応
我が国は他国の現象を見て,習慣,制度,文化などの違いは考えず,表層的な面だけを取り入れるといった悪い癖がある。我々の分野に限ると,近くでは,ポスドク,任期制といったものが,これに該当する。欧米においては,ポスドクは雇用形態のひとつであり,保険等も完備しているが,我が国においては体のいいアルバイトのひとつに過ぎない。ポスドクも任期制も社会全体でのモビリティがなければ,溜まり場を掻き回しているだけで,不活性化を促進しているだけのことである。
評価関数にもよるが,いいわるいは別にして,さしあたっては,個人および組織の評価に,数,量などが使われるのは間違いない。10.6で「計算機システムとかソフトウェアとして具体化されたり,世の中で利用されているものは積極的に評価されるべきあると理解している」と述べられていて,それはそのとおりであると信じ,私自身実践してもいるが,研究者が少なく,研究支援者がいない我が国の大学では,3年や5年の任期ではまっとうなものができるはずがない。作っているときには,書くこともできないので,論文も,そんなに数が出るとも思えない。大学院を出たてなら就職できても,3年後,5年後に"烙印"を押されたら,どこにも行き場を見つけることはできなくなる。したがって,任期中は,よい教育,よい組織造りなどにかかわってなどいられようはずがない。多少の給与の改善などですむ話ではない。このあたりを,どのようにするのがよいのか,真剣にお考え頂きたい。これは,独立法人化にも,直接係わることである。
(3)10.7 今後の研究について
「これだけの学生が毎年終了していって,就職先が確保可能かというきわめて現実的な問題がある。」と述べられているが,我が国が米国に比べ,情報技術分野で遅れをとっている原因のひとつに数の問題があることを忘れてはならない。
日米の年間の計算機科学分野における博士号取得人数を見ても,彼我の差は歴然である。くくりかたは,いろいろあるようであるが,全米科学財団の統計によると,米国では,このところ,毎年,2,000人強の博士が計算機科学・工学分野で生まれているようである。それに対し,文部省の調べによると,我が国の情報系の理工系の博士課程の入学定員は469名で,毎年生まれている博士の数はおよそ350人に過ぎない。また,大学に所属するこの分野の研究者の数は,文部省学術情報センターの調べによると,図書館情報学分野なども含めて,わずか約1,500名である。さらに,我が国の大学には計算機科学関連の学部や学科が一応数だけはあるが,どれも小粒である上に,もの造りの科学/工学である計算機科学には馴染まない状況にある。
たとえば,数だけを見ても,東京大学大学院理学系研究科情報科学専攻の教官の総数は,平成7年7月現在で,併任も含めて,たった22人である。京都大学が,この4月に,情報関連の大同団結をされ,情報学研究科を大学院に作られたが,それでも計算機科学を専門とする教官の総数は45〜6人とのことである。これに対し,カーネギー・メロン大学計算機科学部の教員は計算機科学の専門家だけからなり総数は約80名である。さらに,カーネギー・メロン大学には計算機工学分野の学部がある上に,国立研究所であるソフトウェア工学研究所(SEI)があり,そこにもおよそ100名を超える研究者がいるのである。これらの研究者もカーネギー・メロン大学の教員である。
また,日本情報処理開発協会先端情報技術研究所の調べによると,米国の国立研究所の総数は,およそ700,サイト数は,およそ1,100とのことで,雇用されている研究者の総数は8万から10万人だとのことである。そして,そのうちの20〜30%が重複をして情報技術の研究開発を行っているようである。この数とこの競争原理が重要なのである。ちなみに,我が国の国立研究所の総数は98で,研究者の総数はわずか12,000人に過ぎない。そして,原則として,研究分野の重複は許されていない。
さらに,アジア諸国を含む世界各国が国の威信を掛けて計算機科学の研究・教育および情報技術の開発を積極的に進めているので,我が国も早急にこの分野の中核組織としての大規模な研究所を設置するとともにこの分野の大学・大学院を充実させ研究を推進しなければ,近い将来,あらゆる研究,あらゆる活動の根幹を外国に頼らなければならなくなるのは,必至である。
そこで,奈良先端科学技術大学院大学情報科学研究科には,重点的な拡充をはかり,有為な人材を,多数,世に送り出されることをお願いしたい。
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古濱洋治委員(郵政省通信総合研究所 所長)
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(1) 日本で2番目の大学院大学に対する評価
学生の受け入れから5年間で,目に見える実績を挙げつつあることは大変喜ばしく,また心強い。教官の情熱・実行力が,学生に有形・無形に影響することは論を俟たない。この点からNAISTは,新設大学院大学として,生き生きと発展している。今後とも,特徴のある大学院大学として発展することを期待している。
(2) 学生募集,入学試験に関する意見
学部を持たない大学院大学であるから,学生の確保に殊のほか努力されていることは良く理解できる。しかし旧帝大の大学院重点化策などにより,学生の囲い込みが一層激化している状況では,抜本的な改善策が必要である。これにはNAISTが,教育・研究面で魅力ある物にする外にない。また,これらに加えて,奨学金やResearch Assistantshipなどによって,全員に最低限の“給与”が支給出来るようにし,住環境においても勉学に没頭できるような環境を作るべきである。
(3) 研究体制,各講座の報告(第6章,第9章)に対する意見
修士課程の教育と言う面から見るとかなり幅広く,カリキュラムが準備されていると言えよう。しかしながら,自立的な研究者として,他の自然科学・工学の分野あるいは社会科学や人文科学との接点で情報科学・技術を新しく切り開いていくとなると,所謂総合大学に比べて,手近くにアクセス出来る異分野の研究者・技術者が少ないと言える。このためそのような可能性も追求出来るような多様性がどこかに用意されていることが望ましい。今後の情報科学分野の研究者・技術者は,第2次産業のみならず,第3次産業においても大いに活躍が期待されていると考える。
(4) 大学院大学における教育に対する意見
修士課程は,問題解決能力を養うために,カリキュラムに沿って教育することに重点を置き,具体的課題の解決を通して訓練を積むこと。博士課程は問題設定能力を養うために,最先端の分野に身を置いて,自立的な研究者として必要な訓練を積むこと。 NAISTの目的のうち,「企業等において先端科学技術分野の研究開発等を担う高度の研究者,技術者等の組織的な養成及び再教育を行うこと」には,成功しているが,「大学等の研究者の養成」は今後の課題ではなかろうか?
(5) 学位授与などに関する意見
我が国は,コース博士の比率を論文博士に対して,飛躍的に高めるべきではないか。博士課程は,専門分野で学識を深め経験を積むと同時に,指導教官を通じて研究方法・物の見方など幅広い経験を積む機会があり,この利点を大いに利用すべきである。優れた研究の発想は,修業期における指導者の人間臭い部分の影響が大きい影響するように思う。博士課程修了者は,将来の我が国の創造的な科学技術の発展を担う重要な構成部分であるから,博士課程の修了者が社会的に不利に成るような環境は早急に改善する必要がある。即ち,博士課程の学生には,初任給程度の給与は保証し,就業年数のマイナスを補って余りあるような環境を作るべきである。こうした点から,論文博士ではなくて,コース博士を輩出させるような環境を整えることが,我が国にとって必要と考える。
(6) 産官学協力体制についての意見
教官が大学,国立研究機関,民間企業,外国研究機関などから参加し,多様な経験を積んでいる集団なので,産官学協力体制を推進するには都合の良い構成になっている。教育・研究の実践の場で,この利点を生かして欲しい。産官学協力体制は,参加するメンバー相互に利点が無いと長続きしない。この点でgive and takeの環境作りを,2者乃至3者で進める必要がある。
(7) その他
教官の方々がNAISTを良くしようとする努力には,大いに敬意を表する。これに加えて, NAISTを視察に来られる教育・研究関係者以外の方への対応も,世間の評判を向上させるには大変重要であるので,事務方も一緒になってNAISTの広報・宣伝に取り組むべきであろう。
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山崎 攻委員(松下電器産業株式会社 中央研究所所長)
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(1) 日本2番目の大学院大学に対する評価
情報系,バイオ系,物質系の3分野がそろい,NAISTも建学の第1期を無事終えられ,うれしく思います。アメリカと違い,日本は大学からそのまま大学院へ進むエスカレータ学生が多く,大学院大学はハンディが大きいと思います。ここを逆に特徴にし,強みにする新鮮な試みを期待します。
(2) 学生募集,入学試験に関する評価
最近の学生は知名度に敏感です,アメリカの学科ランキングのように,○○工学では全米ナンバーワンと言ったアッピールが必要な時代と思います。在り来たりの総合大学にないアイデンテティ
を強くPRしてほしい。
(3) 研究体制,各講座の報告に対する意見
もっと,新しい取り組みを期待します。優れた先生が多いので他校にない事が出来るはずです。
産業界から大学へ行って教えることは普通ですが,大学から産業界へ行って研究をすることも考えて良いのではないでしょうか。
(4) 大学院大学における教育に対する意見
昨今,日本の高等教育の危機を感じています。研究者・技術者として「見いだすことへの情熱」,「生み出す喜び」をわかる人材を育てていただきたいと思います。新鮮な大学院大学から日本の教育の危機を打ち破って下さい。
(5) 学位授与に対する意見
学位の基準は(論文の件数など)教授会で決められることではないでしょうか。情報系は件数ではないはずです。インパクトの大きさ,サイエンスとしての理論性,オリジナリティが(教授会で決める)基準に達すれば良いのではないでしょうか。
(6) 産官学協力体制についての意見
まず,学と産で相互乗り入れが出来ないでしょうか。産から学へは客員教授,連携講座などやっていますが,学から産への逆の例は聞きません。アメリカなら夏休みの3ヵ月,企業のコンサルタントをするのが普通です。官とはエージェント化の後の方がやりやすいと思います。
(7) その他
大学教授に,「教育」,「研究」,「運営」のトライアスロンの選手を求めるのは酷だと思います。昨今,会社経営でも専業化し,「取締役」と「執行役員」の分化も進んでいます。世界的に効率経営の時代です。忙しくさせすぎて独創的な研究が遅れたら本末転倒です。時代を先取りした思い切った改革を期待します。
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油本暢勇委員(住友電気工業株式会社 専務取締役)
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必ずしもご指定の項目に対応致しておりませんが,下記の如く意見を述べさせて頂きます。
(1)研究活動の活性化について
大学における研究活動の活性化のためには,学内においては他大学・複数企業からの出身者が教官となり,複数の教官による共同研究を推進すること,また,学外との関係においては産学共同研究を積極的に推進し,産業への貢献を目に見える形で積み上げていくことが重要であるように思います。
例えば,大阪大学に基礎工学部が新設された当初の教官は,まさに上記のような出身者で構成され,大変活況を呈してしたように思います。是非とも現在の貴大学の教官構成を維持され,それぞれの教官の経験が活かされ,均質にならないような運営をされることを期待いたします。
(2)研究成果の評価について
産業界に所属する者として,大学の研究成果の評価基準が「論文の数」重視にあるように日頃感じています。しかしながら,産業界から期待する大学の研究成果は産業にどれだけ貢献したかという基準で評価されるべきものと思っています。たとえば,当該研究の研究費の何パーセントが産業界から出ているか,特許を何件出願したか,研究成果が利用されている製品の総売上高はいくらか,等も指標に加えるべきではないかと思います。このような指標を加えないと,産業界が期待する,相互信頼をベースとした真の産学共同体制が実現しないのではないかと危惧致します。
(3)カリキュラムについて
学部を持たない大学院大学は,カリキュラムはできるだけ簡素にし,修士課程1年のみせいぜい5教科程度の基礎的・共通的学問分野に重点を置き,残りの時間は研究に従事させ,必要な学問はOJTで自発的に習得させるようなシステムに変える必要があるように思います。1年間ほとんどフルタイム授業を受け,修士課程2年で研究に従事するようなシステムでは,座学による知識は残らず,生かされず,一方,1年間の研究期間では研究の成功体験も得られず,すべてが中途半端で,企業から見ても魅力ある技術者・研究者として評価できる学生が育たないように思います。高級短期大学にならない様に工夫する必要があると思います。
(4)博士課程への進学促進について
前記の項とも関連致しますが,大学院大学が真の効果を発揮するためには,博士課程への進学者数を如何に多く確保するかに依存していると思います。博士課程への進学を断念する学生の真の理由はどこにあるのかを十分把握し,その具体的対策を講じて行く必要があると思います。経済的理由であるなら,研究成果をベースとして産学でビジネスを起業し,その利益から学生への経済的支援と実践的研究の場の提供を行うという仕組みを作ることも一案でしょう。
(5)学位授与について
企業の研究者の中にも高度な研究成果を上げた者が多くおります。しかしながら,その多くは,企業機密の観点から研究成果をタイムリーに発表できず,論文となっていない「潜在的研究成果」のままになっているというのが実態なのです。学位授与の基準を「論文の数」とせず,「論文の質」に重点を移し,オリジナリティーの証明に出願特許を使用するなどの配慮や,また,産業への貢献度をも加味する等の「工学博士」に対する新しい基準を作って頂くことを期待致します。
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