第2章 教育研究組織

2.1 講座編成
 高度情報社会の進展に伴い,情報科学の分野に係る高度な基礎技術を推進するとともに,情報処理技術,通信処理技術,情報システムの構成技術などの研究開発を担う研究者,技術者を組織的に養成するため,本研究科は2専攻,基幹講座17講座,客員講座3講座及び学外研究機関の協力による連携講座7講座から構成されている。基礎を担当する基幹講座,基幹講座の教育研究を応用開発の側面から充実・補完するための客員講座,連携講座を積極的に活用して,柔軟な教育研究体制を採っている。平成10年度の研究科教官の定員を表2.1に示した。基幹講座の教授,助教授,助手及び客員講座の助手は専任教官であり,客員講座及び連携講座の教授,助教授は非常勤である。なお連携講座の講座数については,機動的な運用の必要性から特に制限は設けていない。全教官の教育研究分野を表2.2にまとめて示す。

 表2.1 平成10年度研究科教官定員
専攻名 講座名 教授 助教授 助手


 情
 報
 処
 理
 学
 情報基礎学
 情報論理学
 計算機言語学
 自然言語処理学
 知識工学
 知能情報処理学
 像情報処理学
 音情報処理学
 言語科学※
 認知科学※
 1
 1
 1
 1
 1
 1
 1
 1
  (1)
  (1)
 1
 1
 1
 1
 1
 1
 1
 1
  (1)
  (1)
 2
 2
 2
 2
 2
 2
 2
 2
 1
 1
 4
 4
 4
 4
 4
 4
 4
 4
 1(2)
 1(2)

 情
 報
 シ
 ス
 テ
 ム
 学
 ソフトウェア基礎
 言語設計学
 ソフトウェア計画構成学
 計算機アーキテクチャ
 マルチメディア統合システム
 情報ネットワーク
 システム基礎
 システム制御・管理
 ロボティックス
 並列分散システム※
 1
 1
 1
 1
 1
 1
 1
 1
 1
  (1)
 1
 1
 1
 1
 1
 1
 1
 1
 1
  (1)
 2
 2
 2
 2
 2
 2
 2
 2
 2
 1
 4
 4
 4
 4
 4
 4
 4
 4
 4
 1(2)

  (3)
17
  (3)
17

37
  (6)
71
(注)※印は客員講座を示し,( )内の数は客員教官を外数で示す。   


 表2.2 講座及び教官の教育研究分野
   情報処理学専攻
講座及び教官 教育研究分野
 情報基礎学 情報基礎理論
(併) 教授  藤原融
助 手  渡邊創
符号理論,情報セキュリティ
暗号プロトコルの安全性問題,暗号プロトコルの設計,電子透かし
 情報論理学 論理設計論,設計自動化,並列/分散アルゴリズム
教 授  藤原秀雄

助教授  増澤利光

助 手  井上智生
助 手  井上美智子
論理設計,ディジタルシステム設計/テスト,VLSI CAD,フォールトトレランス
並列/分散アルゴリズム,フォールトトレランス,テスト容易化設計
VLSIのテスト,テスト容易化設計/合成,並列CAD
並列/分散アルゴリズム,テスト容易化設計,グラフ理論
 計算機言語学 計算機ソフトウエアとその基礎理論
教 授  関浩之
助教授  楫勇一

助 手  高田喜朗
助 手  田中猛彦
形式言語理論,ソフトウエア基礎理論
書換え型計算モデル,セキュリティ基礎技術,誤り制御方式
HCI(ヒューマンコンピュータインタラクション)
暗号プロトコルの安全性検証,検証方式における形式的手法
 自然言語処理学 計算言語学
教 授  松本裕治

助教授  傳康晴
助 手  宇津呂武仁
助 手  宮田高志
計算言語学,知識表現,言語知識獲得,論理プログラミング
計算言語学,心理言語学,音声対話分析,認知科学
言語知識獲得
計算言語学,制約論理プログラミング
 知識工学 知識ベース
教 授  伊藤実
助教授  石井信

助 手  石原靖哲

助 手  中西隆一
データベース理論,知識ベース
神経回路網,複雑系,自己組織化,非線形最適化,代数的仕様記述法
ソフトウエア設計における形式的手法,オブジェクト指向データベース理論
自然言語の構文記述向き形式文法,計算量理論,データマイニング
 知能情報処理学 人工知能
教 授  西田豊明
助教授  武田英明
助 手  上野敦志
助 手  久米出
人工知能,知識工学
人工知能,知的CAD
ロボットの学習,自律システム
オブジェクト指向,データベース言語
 像情報処理学 画像情報計測,仮想現実感応用,画像メディア応用
教 授  千原國宏

助教授  佐藤宏介
助 手  土居元紀
助 手  黒田知宏
映像アーカイブ,テレエコーシステム,仮想ミュージアム
三次元画像計測,仮想現実感応用,イメージ情報処理
画像認識,顔画像処理,知能化セキュリティ
手話工学,仮想現実感,ヒューマンインターフェース
 音情報処理学 音声認識,音場制御
教 授  鹿野清宏

助教授  中村哲

助 手  陸金林
統計的言語処理,音声ディクテーションシステム,音声符号化,音場再現
統計的音声認識,マルチモーダル音声対話システム,マイクロホンアレー
音声合成,音質変換,音声透かし
★言語科学 自然言語基礎論,情報通信ネットワーキング
客員教授  ニック =
     キャンベル
(併)客員助教授 高須淳宏
音声合成,韻律理解,音声データベース

データベースシステム,文書処理,機械学習
★認知科学 認知・学習機能
客員教授   水野博之
客員助教授  中小路久美代
助 手    高田眞吾
科学技術論
デザイン,HCI,共働的創造性

オブジェクト指向,情報検探索
   注)★は客員講座を,(併) は併任を示す。


   情報システム学専攻
講座及び教官 教育研究分野
 ソフトウエア基礎 知能情報メディア
教 授  横矢直和
助教授  竹村治雄
助 手  岩佐英彦
助 手  山澤一誠
コンピュータビジョン,画像処理,拡張現実
ユーザインターフェース,CSCW,仮想現実
機械学習,画像からの学習,人工知能
ロボットビジョン,画像認識,全方位視覚センサー
 言語設計学 人間と計算機のインタラクション,計算機援用設計論
教 授  渡邉勝正

助教授  木村晋二

助 手  高木一義
新しい言語の設計と実現方式,ソフトウエア発展モデル
VLSI 設計と実現方式,並列CAD,高位論理合成とコデザイン
回路計算複雑さの理論,論理回路CAD
 ソフトウエア
    計画構成学
ソフトウエア構成法,分析法
教 授  鳥居宏次
助教授  松本健一

助 手  島和之
助 手  門田暁人
ソフトウエア開発管理技術,ソフトウエアパラダイム
ソフトウエア計測システム,ソフトウエア品質保証,分散オブジェクト技術
ヒューマンインターフェース,高信頼性ソフトウエア
ソフトウェア保護,ソフトウェア開発における人的要因
 計算機
  アーキテクチャ
計算機アーキテクチャ,並列/分散/ネットワーク/モーバイルシステム
教 授  福田晃

助教授  最所圭三

助 手  片山徹郎
助 手  中西恒夫
計算機アーキテクチャ,並列/分散OS,並列化コンパイラ,ネットワークシステム
高信頼性システム,計算機アーキテクチャ,並列/分散/モーバイルシステム
システムソフトウエア,ソフトウエアテスト
並列処理,コンパイラ
 マルチメディア
   統合システム
データベースアーキテクチャ
教 授  植村俊亮
助教授  吉川正俊

助 手  石川佳治
データベースシステム,メディア工学,言語処理系
文書データベース,オブジェクト指向データベース,データベース理論
先進的データベースシステムの実現手法,データベースプログラミング言語
 情報ネットワーク ネットワークシステム
(併)教授  尾家祐二
助教授  山口英
助 手  知念賢一
次世代通信網,ネットワークアーキテクチャ
インターネット,OS,分散処理環境
情報サービス,広域情報配送
 システム基礎 システム基礎論
教 授  高橋豊

助教授  笠原正治
システム・モデリングと性能評価,トラヒック理論,待ち行列,情報ネットワーク
システム・モデリングと性能評価,待ち行列理論,大偏差理論
システム制御・管理 動的システムのモデリングとシミュレーション,システム制御理論
教 授  西谷絋一

助教授  山下裕

助 手  黒岡武俊
プロセス制御,プラント制御システム,プラントオペレーション
非線形システム制御,ニューラルコントロール,遺伝的アルゴリズムの制御応用
ダイナミックシミュレーション,プロセス設計,ヒューマンインターフェース
 ロボティックス ロボット工学
教 授  小笠原司

助教授  今井正和
助 手  中村恭之
ロボットシステム,マニピュレーション,ロボットプログラミング
ロボティックス,感性情報処理,電子図書館システム
ロボット学習,ロボットサッカー,視覚学習
★並列分散システム 協調分散処理
客員教授 山田茂樹 ネットワーク設計制御,並列分散処理
   注)★は客員講座を,(併) は併任を示す。





   連携講座
講座及び教官 教育研究分野
適応システム論
 客員教授 中野良平
 客員助教授 上田修功
(連携機関名:日本電信電話株式会社)
 経験,事例を通して,環境モデル化,認識,行動などを適応的に高めることができるシステムに関する研究を進める。具体的には,神経計算や進化計算の数理,アルゴリズム,システム論を研究する。
人間情報処理学
 客員教授 東倉洋一
 客員助教授 銅谷賢治
(連携機関名:国際電気通信基礎技術研究所)
 視覚,聴覚,音声,体性感覚,運動等における人間の情報処理過程の解明とそのモデル化に関して工学,心理学などの異分野間の壁を乗り越えたトランスディシプリナリ(超分野的)なアプローチで研究を進める。
人間・ネットワーク系学
 客員教授 二矢田勝行
 客員助教授 栄藤稔
(連携機関名:松下電器産業株式会社)
 ファジィ,ニューロ・カオス等による非線形処理方式とマルチモダール対話方式との融合によるヒューマンインターフェースの研究を行う。
情報システム
    アーキテクチャ
 客員教授 旭敏之
 客員助教授 松田勝志
(連携機関名:日本電気株式会社)
 高速大容量ネットワーク環境において計算機,マルチメディア情報機器を利用した協調システム,オフィスシステムやエンジニアリングシステムなどの構成法について,ハード及びソフトウエアの両面から研究する。
ヒューマン・
   インターフェース
 客員教授 森田修三
 客員助教授 鳥生隆
(連携機関名:富士通株式会社)
 コンピュータの大衆化に伴ってますます重要となっているヒューマンインターフェース技術につき研究を行う。特に,ビジョンや画像処理をベースとした先進進的なヒューマンインターフェース技術につき研究する。
マルチメディア移動通信
 客員教授 安達文幸
(連携機関名:NTT移動通信網株式会社)
 次世代の移動通信として,マルチメディアに対応できる移動通信方式の研究を行う。特に,広帯域なマルチメディア情報が伝達できる通信方式であるCDMA方式を中心に研究を進める。
光センシング
 客員教授 金山憲司
 客員助教授 緒方司郎
(連携機関名:オムロン株式会社)
 高度情報システムの入力装置として重要度が高まっているセンシングの研究を行う。特に,パターンや立体の認識及び光波や光走査を応用した光デバイスなどで人間の視覚に迫るセンシングの研究を進める。

2.2 基幹講座,客員講座,連携講座の役割
(1)基幹講座
 総合的及び体系的な情報科学に関する教育研究を実施するため,情報科学の基礎となる学問分野から17分野が選ばれている。各講座は,教授1,助教授1,助手2の定員をもっている。
(2)客員講座
 学術研究の速い進展に対応した柔軟な教育研究を行うため,現在,言語科学,認知科学,並列分散システムの3分野について,基幹講座に準ずる教育研究活動を行う客員講座を設置している。助手以外の教官を,本学以外の教官等が兼任している。
(3)連携講座
 教育研究を応用開発の側面から充実・補完するため,民間企業等の協力の基に運営されている。配属に当っては,基幹講座及び客員講座と同じように,受入れ学生数の上限を申告してもらって,学生の希望に基づいて配属を行っている。学内措置であるが,機動的な役割を評価するため定期的な見直しを行い,産学協力の新しい形として効果を上げている。

2.3 教官の特徴
 創設時以来,教官の採用については,教授,助教授の全てを,広く公募によって行っている。その結果,先端的研究実績のある若手研究者が,大学若しくは国立及び民間企業の研究所などから採用されている。専任教官の前任機関は表2.3のようになっている。なお,教授,助教授,助手の平均年齢は全国平均より6〜7歳若い。

 表2.3 採用教官の前任機関一覧表(平成10年5月1日現在) 
職名・機関 教 授 助教授 助 手
国・公・私立大学 12 13 30
研究所等
その他(新卒等)     21 21
15 17 27 59
平均年齢 48 37 30 36
全国平均年齢 54.2 43.9 37.3 45.2
 (注) 全国平均年齢は平成8年度「人事院国家公務員給与実態調査報告書」による。

2.4 教官の流動性
 開学当初からの教官の転出状況(停年退官及び研究科内異動を除く)をみると,すでに教授4名,助教授4名,助手15名が異動している。年度毎の転出者数の一覧を表2.4にまとめた。特に若手教官については,異動に伴いほとんどが昇任しており,他大学における大学院重点化に伴う教官の補強等に貢献している。これは若手教官の教育研究活動が順調に行われている結果と考えられる。一方,教官の補充は本学の活性を維持するための最重要課題の一つである。このためには他機関との人事交流を積極的に進める必要がある。講座別の教官の在籍状況を表2.5(章末)にまとめた。

 表2.4 教官の転出一覧表(平成10年7月1日現在)
年 度 転出者数 転  出  先
 平成6年   2名  国立大学1名,私立大学1名
 平成7年   1  国立大学1名
 平成8年   4  国立大学4名
 平成9年   6  国立大学4名,公立大学1名,その他1名
 平成10年  10  国立大学5名,公立大学3名,私立大学1名,その他1名
 23  

2.5 教官の任期制
 機動性を重視する客員講座の助手について任期を5年と定めた(平成10年6月教授会)。
また,再任は一回に限り,任期は2年とした。任期制を真に意義あるものとするためには,研究費の重点配分や学務の軽減など,研究に専念して,一定期間内に成果を上げることができるような具体的な配慮が必要である。

2.6 今後の課題
 本研究科が我が国の社会において教育研究機関としての役割を十分に果たすため,教育研究組織は最も基本的な要素である。このことからも,今後各事項について次のような課題を解決していく必要がある。
 講座の編成及び講座の改廃については,時代の変化を先読みして行う必要があるが,社会変化の激しい昨今では将来を長期的な視野に立って予測することは非常に難しい。現実的には,比較的無理なく講座の改廃のできる,教授停年退官後の講座の教育研究分野及び教官の決定に際しては,将来の科学技術の発展に対応できる人材を養成できる分野及びそれにふさわしい教官を見つけなければならない。
 基幹講座,客員講座,連携講座については,それぞれの役割は明確である。特に基幹講座がその役割を十分発揮しているか否かのチェックは最も重要である。また機動的な役割が重視されている客員講座及び連携講座についても,年度毎にその活動状況をみて,柔軟で適切な対応をとらなければならない。
 教官の特徴についてみると,教官がただいろいろな機関から来ているというのではあまり意味がない。各々の出身機関での経験をいかして,各教官が特色ある教育研究活動を行い大学の活性化に貢献しているかどうかが大切である。実際にどのように活性化につながっているのかについて調べてみることも意義があることと思われる。
 流動性については,本研究科では伝統的な大学に比べてこれまで教官の異動が多くあった。教官の異動に伴なって,それまでうまく維持されてきた研究活動が低下してしまう側面があるが,新しい教官が加わって活性化される側面を最大限活かさなければならない。
 任期制については,すでに一部実行しているが,残りのすべての教官についてもどうするかを議論して決めなければならない。任期制は計画的に流動性を作る手段と考えられるが,長所,短所をよく考えて決定しなければならない。
 各項目についてみてきたが,すべてについて言えることは,中長期的(5〜10年)にみたとき,本研究科の教育研究活動の力を弱めるような制度等の変更であってはならないということである。