観光客の個人特性と観光地の動的コンテキストを考慮したオンサイト観光スポット推薦に関する研究

日高 真人


観光客が快適に観光を楽しめるスマートな観光サービスの提供が求められている.その一つとして,ユーザの観光履歴や嗜好に基づく推薦システムが多く提案されている.満足のいく体験を提供するには,観光客の好みやプロフィールなどの静的な情報に加え,目的地の現在の混雑情報やルート情報など,時間とともに変化する動的な情報を考慮して,タイムリーに観光情報を提供することが望ましい.しかし,既存システムの多くは,(1)現場での利用が想定されていない,(2)動的な情報が考慮されていない,(3)観光客に大きな負担がかかるなどの問題がある.

本論文では,観光スポットの観光計画をタイムリーに提供できるオンサイト観光推薦システムを提案している.提案システムは,2つの要素技術:(A)嗜好情報取得機構(B)オンサイト観光キュレーション機構で構成されている.提案システムの有効性を検証するため,実際の観光スポットを巡る観光実験とコンピュータ上で行う疑似観光実験により評価実験を行った.その結果,(1)観光前に詳細な観光計画を立てていない観光客にはオンサイト観光ス推薦が有効である,(2)参加者の嗜好情報を観光スポットの推薦に反映させると同時に参加者の負担を大幅に軽減する,(3)観光でよく使われるモデルコースよりも高い満足度を得ることができる,ことを明らかにしている.

また,マーケティングの分野では,近年,パーソナリティや動機などの心理的要素に着目した推薦の研究がなされているが,観光分野では少ない.しかし,Big5などで表現されるパーソナリティによって,観光の傾向が異なることは示唆されており,観光分野においても,観光客のパーソナリティ・観光動機などの個人特性は,観光行動と関係があると考える.

そこで,本論文では,どのような特性のユーザにどのような推薦をすべきかを明らかにするため,観光客の個人特性と観光行動との関係性を分析している.具体的には,「観光客の個人特性(パーソナリティ・観光パーソナリティ・観光動機)の違いによって観光行動(観光行動エリア・観光行動カテゴリ)が異なるか」という問いに基づく6つの仮説を設定し,検証を行う.仮説検証のため,1,000人に京都観光を想定したアンケート調査を実施している.検証の結果,協調性が高い観光客は,人気のある観光エリアに行きやすいなど,観光客の個人特性の違いによって観光行動が異なることを確認している.また,それらの結果に基づいて,協調性の高い観光客に対して,観光スポットの人気度を示したり,他の観光客からのレビューを表示したりするなど,個人特性に合わせた観光推薦について考察している.