高齢者に向けたスマート生活支援デバイスに関する研究

高橋雄太


サイバー空間とフィジカル空間を高度な技術によって融合させたシステムを用いることで社会課題を解決し生活の質を向上させた人間中心の社会Society 5.0に向けて新たなスマートデバイスが開発されている.しかしながら,既存のスマートデバイスは高齢者にとって煩わしさがあり,インタフェースも最適化されておらず十分な生活の支援が期待できない.本研究では,今まで通りの生活を送りながら自然に使えることを目指し,高齢者が抱える問題に特化した二つのスマートデバイスを開発した.日頃から常に支援を行えるようそれぞれのデバイスは屋外と屋内の二つの生活空間に対応している.

屋外においてはリハビリテーションの支援を行う.効果的なリハビリテーションを行うには歩行能力を正確に知る必要があるが,測定には時間的・身体的な負担が大きい.そこで杖にセンサを取り付け,日々の杖の使用の仕方から歩行能力を推定できるのではないかと考えた.杖の加速度・角速度データから一歩一歩杖を突く動作切り出すアルゴリズムを考案し,その区間の特徴から歩行距離を推定する重回帰モデルを構築した.歩行の区間と歩行距離を推定することで歩行能力の指標となる歩行速度も推定でき,リハビリテーションに役立てることができる.高齢者,片麻痺患者,健常者を含む16名に協力いただいた実験の結果,95.6%の精度で歩行を検出するとともに88.1%の精度で歩行距離を推定可能であることを明らかにした.

屋内においては家電操作の支援を行う.テレビ,エアコン,照明など様々な家電が一般家庭内に普及しているが同時にリモコンの数も増え,管理や操作を覚える苦労が増えてくる.この問題を解決するには全ての家電を操作できるデバイスを用意することだが,既存のスマートフォンやスマートスピーカは高齢者にとって易しいユーザインタフェースとは言えない.そこで普通のリモコンと同じ形状のスマートリモコンを開発した.リモコンの先端にはカメラが付いており,リモコンを向けると画像認識によって操作したい家電を認識する.認識には畳み込みニューラルネットワークを用いたモデルを使用し,汎用的な学習モデルを家電の画像でファインチューニングしている.家電の操作インタフェースはボタンであるため,利用者は操作したい家電にリモコンを向け,ボタンを押すだけで直感的に操作できる.評価実験の結果,5種類の家電を3カ所の位置から81.1%の精度で認識でき,認識時間が約2秒かかることを明らかにした.