物体に光を照射した際に生じる様々な光学現象は,その物体の物理的な性質を反映している.そのため,物体に照射した光の波長軸または時間軸の変化を観察する方法が科学分野で幅広く利用されてきた.一般的に,光が示す応答を計測する手段として固体撮像素子が用いられる.固体撮像素子は,半導体の微細化と共に空間解像度や感度が向上したが,微細化の限界や撮像素子に利用される材質の制約により性能向上が困難であると言われている.しかしながら,科学分野での新たな発見のために撮像系の分解能や計測範囲,感度などの進歩が期待されているので撮像系の性能を向上させる必要がある.一方で,コンピュータビジョンの分野では低解像度な画像から高解像度な画像を復元する超解像と呼ばれる技術が存在する.超解像技術は少しずつ視点が異なる低解像度な画像を撮影し,画像から撮像系内部で生じる観測過程を除去することによって高解像度な画像を復元する.
本論文では,超解像技術を画像以外の多様な計測系に応用することで,既存の計測系に対する分解能の向上を実現する方法を提案する.画像の超解像技術から高分解能な計測に必要な要素を一般化し,多様な計測系に対する超解像計測モデルを提供する.一例として時間軸と波長軸に対するサンプリング方法と観測過程の推定手法を検討し,提案した超解像手法を実際の計測機器に対して実装することでその有効性を示す.時間軸の超解像手法として,遅延回路を用いて間接的に露光時間をずらす方法を提案し,Time-of-Flightカメラに提案手法を実装した.実環境での計測を実施し,20nsのサンプリング幅から250psの超解像を達成した.また,波長軸の超解像手法として,分散型分光器に二次元の撮像素子取り付け,それを少し傾斜させることにより各行で得られる観測を少しずつ変化させる方法を提案し,波長依存の観測過程を推定する方法として疎な原子輝線から補完する手法を提案する.分散型の分光器を構築し,計測した分光分布からボケ関数を除去することで約35倍の超解像を達成した.