認知症および非感染性疾患予防につながる食品・食事要因の検討に対するデータサイエンスの活用

コ田 佐紀


これまで栄養素・食品摂取に関する研究は数多く実施されており,様々なレベルで健康との関連の科学的根拠として用いられている.しかしながら,個別の食品の摂取や食品に含まれる栄養素以外の成分の摂取については,科学的根拠が十分でないものも多い.食品・食品成分摂取と健康との関連を盲検化されたランダム化比較試験によって検討することは困難であることが多く,代わりに観察研究が広く実施されている.そのため,観察研究の弱みである対象者背景の不一致による交絡の影響,対象者の選択バイアス,測定項目の思い出しバイアス,対象者の意識・能力に依存した測定項目の調査方法,因果の逆転等の影響を受ける.その弱みの影響を低減させるため,この研究領域におけるデータサイエンス活用が重要となっている.

本研究の目的は,データサイエンスの活用により認知症を予防する可能性がある食品・食事要因を検討することである.まずは食品として茶摂取,アウトカムとして認知症・アルツハイマー病(AD)・認知機能障害・軽度認知機能障害(MCI)または認知機能に着目し,観察研究のシステマティック・レビューを行い,それらの関係を検討する.また別の検討として,インターネットを通じたデータ取得を活用し,認知症のリスク因子である非感染性疾患につながる過体重・肥満に対する効果的対策を検討するために,エネルギー摂取量と中医体質9分類の影響を検討した.

システマティック・レビューにおいては,現時点では研究間の異質性および高い質の研究数の少なさによりメタ・アナリシスは実施しないと判断した.緑茶摂取と認知症・AD・認知機能障害・MCIのリスクとの関係を検討した適格研究8研究のうち,緑茶摂取が有意にリスクを低下させることを示す結果を含む研究は6研究だった.この結果は,緑茶摂取が認知症・AD・認知機能障害・MCIを予防するかもしれない可能性を示唆すると考えられる.今後の研究領域の発展により,類似の方法で実施された研究数が増えれば,メタ・アナリシスまたはメタ回帰解析が可能となり,緑茶摂取の効果を定量的に判断することができるようになる可能性がある.また,携帯端末による写真撮影などを活用した飲料摂取記録法の活用や認知症患者登録システムの設立などにより,将来より質の担保された研究が実施できるようになることも考えられる.

中医体質9分類,エネルギー摂取量およびBMIに関する研究においては,クラウドソーシングを利用することで効率的にデータを取得することができた.日本では男性で中医体質によりBMIが異なる一方,女性においては中医体質によるBMIの有意差が見られないことを示した.また,男性,女性のいずれにおいても,中医体質によるエネルギー摂取量に有意な差がないことを示した.これらの結果から,日本の男性においては,エネルギー摂取量と独立して,中医体質はBMIに影響を及ぼすことが示された.日本人を対象とした中医体質研究の報告はまだ少ない中,本研究は,日本人の健康状態を把握するための中医体質研究の基礎となると位置づけられる.将来,多くの日本人を対象に中医体質9分類の割合や分布が調べられることで,様々な疾患リスクや生活習慣との関係が明らかになり,日本人の疾患予防や健康維持に役立つことが期待される.