日本整形外科学会腰痛評価質問票(JOABPEQ)の質問項目と身体的評価を関係づける回帰モデルの検討

石谷 勇人


日本整形外科学会腰痛評価質問票(JOABPEQ)は,質問25項目で構成され,回答から疼痛関連障害,腰椎機能障害,歩行機能障害,社会生活障害,心理的障害と5つの重症度をスコア算出できる.腰痛疾患は国民の自覚症状で第1位の部位であり,リハビリテーション等の保存治療が一般的である.JOABPEQの回答から重症度スコアの他に,痛みの程度や関節可動域等の身体機能の情報を定量的に関係づけられることができれば,リハビリテーションの検査・測定,評価に活用できると考える.本研究では,データサイエンスにおける回帰法を活用しJOABPEQの質問25項目の回答と身体機能評価を関係づける回帰モデルを検討した.

対象は腰痛疾患患者291名を対象とし,JOABPEQの質問25項目の回答および、その回答から算出された(1)疼痛関連障害,(2)腰椎機能障害,(3)歩行機能障害,(4)社会生活障害,(5)心理的障害の各重症度スコアを活用した.また,身体機能評価では,Visual Analogue Scale(VAS)を用いて,(6)腰痛の程度,(7)下肢痛の程度,(8)下肢の痺れの程度を測定した.さらに,関節可動域(ROM)として,股関節(9)屈曲,(10)外旋,(11)内旋および(12)下肢伸展挙上角度(SLRA)を測定した.統計学的解析として,まず,階層クラスター分析法のウォード法を用いて,全変数間の関連性を把握する.そして,部分的最小二乗(PLS)回帰分析では,JOABPEQの質問25項目の回答を説明変数とし,各重症度スコア(1)~(5)および各身体機能評価(6)~(12)を目的変数とする回帰モデルの構築を検討した.モデルの精度は,目的変数における実測値と推定値の相関係数,クロスバリデーションの一種であるリーブワンアウト法による予測精度,全データによる精度により検討した.

クラスター分析の結果は,大きく疼痛やROMなどの身体機能評価と,JOABPEQの質問項目および各重症度スコアに分かれた.PLS回帰分析の結果において,(1)疼痛関連障害,(2)腰椎機能障害,(3)歩行機能障害,(4)社会生活障害,(5)心理的障害の各重症度スコアは,JOABPEQの質問25項目の回答と高い相関関係を認め,良好な回帰モデルを構築した(Q2>0.9).(6)腰痛の程度,(7)下肢痛の程度,(8)下肢の痺れの程度,(12)SLRAは,JOABPEQの質問25項目の回答と相関関係を認め,回帰モデルを構築した(Q2>0.1).しかし,(9)股関節屈曲角度,(10)股関節外旋角度,(11)股関節内旋角度において,JOABPEQの質問25項目の回答と低い相関関係を認めたが,回帰モデルを構築できなかった(Q2<0.1).

本研究結果から,JOABPEQの質問25項目から算出される各重症度スコアは,それぞれ独立しており,腰痛疾患に対して多面的に評価できる.腰痛の程度は,痛みの状態だけでなく,日常生活動作や心理面など多面的に影響を受ける.JOABPEQは,関節可動域を関係づけられないため,臨床現場では,腰痛疾患に対してJOABPEQに加えて股関節可動域などの身体機能評価を実施する必要があると考える.