スマートフォンの急速な浸透を背景に,スマートフォンのセンサデータを活用して,最適な情報を,ユーザの注目を引きやすいタイミングで通知する,情報通知技術に関する需要が高まっている.この実現には,(1)対象者の注目を引きやすいタイミングを人の状況(コンテキスト)から推定し,(2)誰といるかを検出し最適な通知内容を判定する必要がある.(1)に関して,従来研究では,加速度,ジャイロセンサを利用し,立つ,座る,走る,歩くなどの単純な動作に対するコンテキスト推定が多くなされているが,これら単純な動作に紐付いた通知では,最適な通知内容を選択するのが難しいという問題がある.(2)に関して,位置情報や移動情報を利用して,最寄りで評価の高い飲食店を推薦したり,電車やバスの乗車に最適な時刻をユーザに知らせるサービスが提供されている.これらの通知内容はサービス利用者にとって便利であるものの,同伴者を考慮したものは存在しない。
本研究では,情報通知タイミングに関わるコンテキスト推定を可能にするための基盤システムの実現を目指し,汎用性を考慮してスマートフォン単一で実現可能な方法として,タッチパネルへの入力(タッチ操作)解析およびBLE(Bluetooth Low Energy)を用いたグループ推定に関する手法を提案する. タッチ操作からコンテキスト推定を可能にするため,タッチ操作挙動を統計情報へと変換し,分析可能とするシステムを開発した.本システムはOSが出力する低水準な情報を逆解析し,シングル(マルチ)タッチ,シングル(マルチ)スワイプ,ピンチイン(アウト),ローテートの検出を可能にする.同時に,スワイプ速度やタッチ挙動頻度,接地面積,圧力といった統計情報も取得する.また本システムを利用し,タッチ操作から得られるコンテキストの一つである,スマートフォンの操作形態(持ち方)推定を行った.Android端末上で一般的な8つの操作形態を推定する,機械学習アルゴリズムを開発し,16名の被験者で評価した結果,概ね90\%の確率で推定可能な事を確認した.
(2)に関して,BLEによるグループ検出を可能にするため,スマートフォンに搭載されたBLEのRSSI値を取得するシステムを開発した.開発システムを利用して,BLE伝播特性モデルを作成し,実験的に最適なしきい値を決定したうえで,グループ検出可能かをシナリオベースの実験により確認したところ,結果として,ほぼ正確にグループ検出が可能なことが分かった.