エボラウイルス、MERSコロナウイルス、インフルエンザウイルスは、急速に突然変異する人獣共通RNAウイルスである。ウイルスは増殖の際、多くの宿主因子に依存するが、ヒト細胞は非ヒト宿主から侵入するウイルスにとって理想的な増殖環境であるとは思えない。ウイルスがヒト以外の宿主からヒト細胞内に侵入すると、ヒト細胞の中で効率よく増殖するために、ヒト細胞内のリソースを最大限利用しようとする。 このためウイルスは突然変異しながら環境に適応していくが、場合によってはヒトの免疫系により全滅させられることもある。しかし、ヒトの免疫系から逃れるようにゲノム配列を変化させて、ヒト細胞の中で増殖する道を探り当てる場合もある。 時間が経過して、再度このようなヒト以外の宿主からの感染が発生した場合、ウイルスがヒト細胞に適応するためにゲノムを改変していったプロセスに再現的なパターンが見いだせれば、このパターン変化を活用することで、効果の高いワクチンの開発など、有効な感染予防策を打ち立てられる可能性が見えてくる。
本研究では、ウイルスのゲノム中の短いオリゴヌクレオチド組成、および長いオリゴヌクレオチド組成の時系列解析を行うことで、ヒト以外の宿主からヒト細胞内にウイルスが侵入した後のウイルスのゲノム配列のオリゴヌクレオチド組成におけるパターンの変化を調べた。
最近の西アフリカのエボラウイルスの大流行においては、オリゴヌクレオチド組成における方向性のある時系列変化が、ギニア、リベリア、シエラレオネの3つの地域で共通して観察された。
中東から始まった最近のMERSコロナウイルスの流行においても、オリゴヌクレオチド組成における方向性のある時系列変化が観察された。
ヒトA型インフルエンザウイルスについては、数十年の間隔で、ヒト以外の宿主からヒト集団へと侵入した3つの亜型に関して、オリゴヌクレオチド組成に方向性と再現性のある時系列変化が観察された。この3つの亜型に共通して認められた明らかな方向性のある変化を示す20ヌクレオチド程度の長いオリゴヌクレオチド類は、ヒトA型インフルエンザウイルスのsiRNAターゲット配列のいくつかに対応していた。
オリゴヌクレオチド組成の方向性のある時系列変化や再発性を予測することは、診断RT-PCRプライマーの開発や、長い期間に渡って有効性を保持する治療用オリゴヌクレオチドのデザインにおいて必須の技術要素となる。