脳波・脳活動に基づくプログラム理解遂行の困難さ測定

中川 尊雄 (1461007)


本研究では,プログラム理解を試みる開発者が作業に難航している度合い(理解困難度)を,脳波・脳活動によりリアルタイムに測定する手法を提案する. プログラム理解は,プログラムの機能や実現方法を知るため,一定の時間をかけてプログラムを読み進める作業である. プログラム理解は人間が頭の中で行う作業であるため,理解に難航したり,内容を誤解することによって品質の低下やコストの増加が問題となる. 仮に,ある時点で理解作業が難航しているかどうかや,難航の理由を特定できれば,理解作業に困難を抱える開発者に対して上司や熟練者による介入を行うことができ,問題を解決できる. しかし,既存研究で提案されている困難さの計測手法はいずれも,リアルタイムに開発者の状態を知るため作業に割り込まなくてはならないという問題があった.

本論文では,理解作業に難航しているときの開発者は,許容範囲を超えて認知機能を酷使していると仮定する. その上で,脳波・脳活動計測装置を用いて思考を構成する認知プロセスの量や質を調べ,間接的に理解困難度を計測することを目指す. 提案手法は,(a) 近赤外分光法 (NIRS) による脳活動計測に基づく理解困難度の測定,(b) 脳波の周波数解析に基づく理解困難の原因(理解に必要な認知プロセスの種類)測定からなる.

20名の被験者を対象とした手法(a)の有効性検証実験の結果,極端に理解困難なプログラムの理解を試みるとき,前頭前野の活動が有意に活発化することが示された (20人中17人, p<0.01). 13名の被験者を対象とした手法(b)の有効性検証実験の結果,数値や言語に関する作業記憶のような認知機能を強く要する課題と,そうでない課題の遂行中,脳波の特定周波数成分が有意に異なることを示した.

本論文の具体的な貢献は次のとおりである. (1) 安価かつ非侵襲な計測装置を用いて,開発者が数十行のプログラムを理解する際に困難を抱えているかどうかを判別できると示した. (2) 安価かつ非侵襲な計測装置を用いて,プログラムの理解に要求される知的作業の種類が特定できる可能性があるが,適用可能な困難さの種類に限界があることを示した.