近接光源を対象とした照明環境の推定に関する研究

青砥 隆仁 (1261001)


照明環境の推定は, 写実的な画像を生成するフォトリアリスティックレンダリングや画像から物体の形状や反射特性を推定するインバースレンダリングに必要不可欠であり, コンピュータグラフィックスやコンピュータビジョンの分野において重要な課題の一つである. 従来, シーンから十分遠方に存在する光源を対象として, 様々な照明環境の推定が行われてきた. しかし, 光源が十分遠方にない近接光源を対象とした場合, 照明の大きさや照明に付随するレンズやリフレクターなどにより生じる照明の非等方な放射輝度分布の影響や, 物体上の位置によって変化する照明からの距離と入射方向の変化の影響をを考慮する必要が生じ, このような単純なモデルでは適用できない. そこで本発表では近接光源を対象とした場合における, 照明の内部パラメータである非等方な放射輝度分布および照明の外部パラメータである位置・姿勢を含む照明環境を正しく推定する手法を提案する.

照明の内部パラメータである非等方な放射輝度分布を取得するために, 本発表では参照物体上で観測された輝度情報を光線強度情報に分離することで放射輝度分布を推定するインバースライティングに基づく手法を提案する. インバースライティング問題は, 不良設定問題と成り易いことが知られている. しかし, 提案手法では放射輝度分布に関する物理的な制約を視体積制約や光線強度に対する非負値制約として導入することでこの問題を解決している. 実験では, 提案手法の有効性を示すために, シミュレーション環境および実環境で定量評価を行った. 実験の結果, 放射輝度分布を精度よく推定可能であることを確認した.

また, 照明の外部パラメータである位置・姿勢を推定する手法として, 本発表では, 球体内部が中空の透明物体である中空透明球体を用いる手法を提案する. 提案手法では, 中空透明球体の内部と外部で反射した二種類の鏡面反射光がカメラ上で観測されるため, 単一の参照物体のみで三角測量の原理に基づき照明の位置を推定可能である. また, 照明が大きさを持つ場合には, 中空透明球体の照明, カメラの光学中心および透明球の中心の3点で構成されるエピポーラ平面上に必ず反射光が存在するという性質を用いることにより照明の位置と姿勢を推定可能である. 実験では,まずシミュレーション環境において中空透明球体を用いた光源位置推定を行い, 様々な光源位置に対する推定誤差の分布を調査した.また, 実環境においても三次元位置推定精度を評価し, 加えて線光源に対する三次元復元実験を行うことで, 本手法による対応点の決定が容易であることを確認した.