平成15年度 情報科学研究科 博士学位論文内容梗概



0061210 中村 文一

「同次系の安定性解析と同次制御系設計に関する研究」

概要:同次システムは,近年制御理論において非常に重要な役割を果たしているシス テムである.同次システムは非線形システムではあるが,線形システムと同様に,局 所的な性質が大域的な性質と一致するという非常に良い性質をもっているうえに,線 形システムにはない,有限時間整定制御器が構成できる,あるいは制御器を設計する ことが非常に困難なシステムとして知られている非ホロノミックシステムに対する制 御則の設計にも適用可能などといった良い性質を持っている. 同次システムには不連続なものも数多く存在する.例えば,スライディングモード制 御器のロバスト性を維持しながら有限整定性を有する高次スライディングモード制御 器や,特定の条件下で厳密に信号の微分を求めることが可能な厳密微分器などが不連 続な同次シス テムである.ところが,不連続な同次システムについてはほとんど研究がなされてこ なかった.また,非ホロノミックシステムに対する時不変同次制御器についてはこれ まで議論がされていなかった. 本論文では,最初に基本的な概念である連続な同次システムの持つ性質について説明 し,同次性の非常に有用な応用例である同次有限時間整定制御について考察する.次 に,不連続な同次システムに対し,ディファレンシャル・インクルージョンを用いて 安定性解析を行う.まずこれまでに得られてている2つの安定なディファレンシャル ・インクルージョンに対するLyapunovの定理の逆定理を整理し,ディファレンシャル ・インクルージョンの平衡点に関して議論する.その後,同次ディファレンシャル・ インクルージョンを新たに提案し,同次ディファレンシャル・インクルージョンに対 するLyapunovの定理の逆定理を与え証明する.さらに,同次Lyapunov関数を用い漸近 安定なディファレンシャル・インクルージョンの収束性能と同次ディファレンシャル ・インクルージョンのロバスト性を明らかにする.続いて,不連続な同次システムの 代表例である高次スライディングモード制御器と厳密微分器について安定性の解析を 行う. 非ホロノミックシステムは連続な時不変状態フィードバックでは安定化できないこと が知られている制御器の構成が難しいシステムである.本論文では,そのような非ホ ロノミックシステムに対し新たに時不変の不連続同次制御器を提案する.そして代表 的な非ホロノミックシステムであるチェインドシステムとマルチジェネレータの非ホ ロノミック間整定制御器を設計し,安定性を証明する.本論文で提案する手法は,こ れまで提案されている手法と異なり,有限時間で整定し,制御則の構築が簡単で,制 御入力が無限大に発散する特異点を持たないという優れた性質を持つものである.



情報科学研究科 専攻長