Abstracts of Doctor Thesis 2002

平成14年度 情報科学研究科 博士学位論文内容梗概


9961206 森正人

「全ディジタル医用画像管理システムの開発研究
  −セキュリティ通信機能の実装とシステムの評価および
   最適画像ハンギングプロトコルの開発−」

 近年、厚生労働省によって保険医療分野情報化のためのグランドデザインが策定され、平成18年度までに全国400床以上の病院の60%に電子カルテを中心とした医療情報システムを普及することが目標に掲げられている。地域における病診連携と、医療情報の共有を目的とした広域電子カルテの実現には、医療施設間相互のデータ交換が必要となる.現在は独立したシステムでセキュリティの問題がなくても、対策が十分でないと、広域ネットワークに接続された段階でセキュリティホールとなってシステム全体の信頼性を低下させる恐れがある。
 広域電子カルテシステムの重要な要素に医用画像管理システム(PACS)がある。現状では、セキュリティ通信機能をもった実用的な医用画像管理システムはほとんど普及しておらず、この点の対策が緊急の課題である。普及が進まない原因として、セキュリティ対策に必要なコストと現場スタッフの電子化への抵抗感があげられる。
本研究では、財団法人医療情報システム開発センターによるセキュリティシステムガイドラインに準拠して、セキュリティ通信機能を備えた全ディジタル医用画像管理システムを設計・開発し、実際の健診センターに実装し、システム導入の効果と使い勝手について評価した。このシステムは、医用画像の発生・取得から画像観察診断、伝送、保存までを、すべてフィルムレスでディジタル画像として管理する、我国においてはあまり前例がない総合的なシステムである。さらに、このシステムには画像診断コンサルテーションのために他医療機関へ画像を伝送する機能(画像連携)や検査結果説明のための画像参照機能も含まれている。
 本論文では、まず、セキュリティ通信機能を付加したシステムの仕様と構成について述べた後、システムの画像検査処理時間短縮など健診センター業務の生産性向上に及ぼす影響を、業務フローの分析と稼働システムの実測結果、ならびに利用者に対する質問票によって評価する。ICカードによる鍵の管理と並行処理などシステム構成上の工夫によって、また、日常的な操作と頻度の少ない特殊な操作のそれぞれに対してキーとマウスを使い分けるユーザインタフェースを採用することによって、セキュリティ通信機能を付加したシステムであっても従来のフィルム運用に比較して十分な作業時間短縮効果があることを示した。
 次に、従来のフィルム運用に馴染んだ放射線技師や医師など健診センタースタッフのディジタル画像観察(診断)装置に対する拒否反応を解決するために、ディジタルX線(DR)画像を例にとって最適画像ハンギングプロトコルを提案した。数面のシャゥカステンの上に、同一患者に関するサイズや分解能の異なる多数のフィルムを診断しやすいように順序良く掲示することをハンギングという。このプロトコルでは、複数画面の画像観察装置に同一患者の多数の画像を提示する際に、できるだけ画面切り替え操作が少なく、かつ、表示面積を最大限に利用して見渡しのよいハンギングを自動的に構成することができる。
 このセキュリティ通信機能を付加した全ディジタル医用画像管理システムは、現在も実際に健診センターにおいて稼働中で、保険医療分野情報化に適合した医療情報システムの先駆として、グランドデザインの実現に寄与するものである。


0161035 山口賢一

「階層BISTのためのテスト容易化設計に関する研究」

 近年における半導体技術の向上に伴って大規模な論理回路をVLSIとして製造することが可能となった.しかし論理回路の大規模化に伴ってVLSIの信頼性を保証するテストに要する費用の増加が問題となっている.この問題を解決する方法として,テスト系列生成と応答解析をVLSI上で行なう組込み自己テスト法(Built In Self Test, BIST) がある.さらに,回路速度の高速化に伴い,テストの際に実際の回路の動作速度でテストを行なう実動作速度テストが重要になってきている.実動作速度テストが可能なBISTとして,回路内の一部のレジスタをテストパターンの発生や応答の観測を行うレジスタに設計変更するテスト容易化設計(DFT)が提案されている.しかし,このDFTに伴うハードウェアオーバヘッドは非常に大きく,実用に適したものではない.
 ハードウェアオーバヘッドを削減する手法として,単一制御可検査性に基づく手法が既に報告されている.この手法は,階層BISTに基づいている.階層BIST とはゲートレベルの各組合せ回路要素の入出力にテストパターン発生器(TPG)と応答解析器(RA)を直接配置し,故障検出率等を評価し,レジスタ転送レベルにおいて,TPGからのパターンの印加と,RAでの応答の観測を行なう経路を探索する手法である.この手法では,組合せ回路毎にテストを行なうので故障検出率が高く,レジスタを設計変更しないためハードウェアオーバーヘッドは小さい.しかし,組合せ回路要素を つずつテストするためにテスト実行時間が大きく,対象となる回路がレジスタ転送レベルのデータパス部のみという問題点がある.
 そこで,本論文ではこれらの問題点を解消する階層BISTとして,レジスタ転送レベルデータパスに対して単一制御並行可検査性および時分割単一制御並行可検査性というテスト容易性を提案し,これらの可検査性に基づくDFTを提案する.単一制御並行可検査性は,複数の組合せ回路要素を同時にテストするように単一制御可検査性を改善したものである.これによって,単一制御可検査性に基づく手法と同様に高い故障検出率を達成し,テスト実行時間を削減を実現する.また,時分割単一制御並行可検査性に基づく手法では,同時にテストする組合せ  回路要素を決定する際に,各組合せ回路要素のテスト実行時間を考慮に入れることによって単一制御並行可検査性に基づく手法によりもさらにテスト実行時間を削減する.また,$% からのパターンの印加と,応答の解析を行なうための経路の条件を緩和することで,単一制御可検査性や単一制御並行可検査性に比べて故障検出率を低下させることなく,ハードウェアオーバヘッドの削減も実現する.また,データパスの単一制御可検査性,単一制御並行可検査性および時分割単一制御並行可検査性を実現するためのアーキテクチャを提案し,コントローラを含めたレジスタ転送レベル全体のBIST法も提案する.これらのテスト容易化設計法では,非常に高い故障検出率を実用的なテスト実行時間で実現することができ,また,テスト容易性を実現するためのハードウェアオーバヘッドも小さい.


0061020 永井慎太郎

「階層テスト生成に基づくレジスタ転送レベル回路の
 非スキャンテスト容易化設計法に関する研究」

 近年の半導体産業の進歩により,VLSIの大規模化,高集積化,高性能化が進み,VLSIのテストの費用が増大している.テストは製造されたVLSIに故障があるかどうかを調べることをいい,テスト生成とテスト実行からなる.テスト生成では故障を検出するための入力系列[テスト系列]を求め,テスト実行ではテスト系列に対する出力応答を期待値と比較し,回路に故障があるかどうかを調べる.テストの費用は,テスト生成時間やテスト実行時間で評価できる.テストの質は故障検出効率などで評価できる.故障検出効率とは,回路中のテスト生成の対象となるすべての故障数に対する,テスト生成アルゴリズムによって生成されたテスト系列で検出可能な故障数と冗長と判定された故障数の和の割合をいう.テストの費用の削減およびテストの質の向上を達成するために,回路をテストの容易な回路に設計変更するテスト容易化設計法が提案されている.ゲートレベルでのテスト容易化設計では,回路の大規模化に伴い,扱う回路要素数が多くなるという問題や,論理合成ツールに入力した回路設計者の設計制約をテスト容易化により満たさなくなる可能性がある.そのため,近年,レジスタ転送レベル回路を対象としたテスト容易化設計が行われている.レジスタ転送レベル回路は一般に,データの演算処理を行うデータパスとそれを制御するコントローラで構成される.データパスは演算モジュールやレジスタなどの回路要素と信号線で記述され,コントローラは状態遷移図で記述される.代表的なテスト容易化設計法としてスキャン方式がある.スキャン方式は回路中のレジスタをスキャンレジスタに置き換え,回路をスキャンモードに切り替えてスキャンシフト動作を実行することでレジスタの値を外部から直接制御および観測を可能とするテスト容易化設計法である.しかしスキャン方式では,面積オーバーヘッドが大きくなるといった問題,テスト生成時間やテスト実行時間が長くなるという問題,回路の実動作速度でのテスト実行が困難であるという問題がある.
 そこでこれらの問題を解消するために,非スキャン方式が提案されている.非スキャン方式は回路の通常動作時に用いるデータ転送経路上にテスト系列の印加,出力応答の伝搬ができるように回路を設計変更するテスト容易化設計法である.したがって,非スキャン方式では,スキャン方式に比べてテスト実行時間が短くなり,回路の実動作速度でのテスト実行が可能となる利点を持つ.また,テスト生成時間を削減するための手法として,階層テスト生成法が提案されている.階層テスト生成法は2段階からなる.はじめにゲートレベルにおいて演算ジュールやマルチプレクサなどの組合せ回路要素単体に対してテスト生成を行う.次にレジスタ転送レベルにおいてテストプランを生成する.テストプランは,テスト系列および出力応答を伝搬できるための制御ベクトル系列をいい,一般にテストプランでの制御ベクトルは時刻ごとに変化する.階層テスト生成法では,組合せ回路要素単体に対して短いテスト生成時間で100%の故障検出効率を達成できる利点を持つ.しかし一般に,各組合せ回路要素に対してテストプランを生成するのは困難である.
 そこで本論文では,はじめに階層テスト生成が容易な回路構造の性質であるデータパスの固定制御可検査性を導入し,固定制御可検査性に基づくレジスタ転送レベルデータパスの非スキャンテスト容易化設計法およびテストアーキテクチャを提案する.提案手法では,データパスの組合せ回路で構成される各モジュールに対するテストプランをデータパスへ供給するためのテストプラン生成回路を付加する.固定制御可検査性を満たすデータパスでは,各テストプランでの制御ベクトル系列をたかだか3個の制御ベクトルで構成できるため,テストプラン生成回路を組合せ回路で実現できる.また提案手法では,100%の故障検出効率を達成でき,テスト生成時間やテスト実行時間がスキャン設計法に比べて短い利点を持つ.また実動作速度でのテスト実行が可能である.さらに提案手法の有効性をベンチマーク回路および実設計回路を用いた実験によって評価する.次に,データパス中の各組合せ回路要素に対するテストプランを,オリジナルコントローラが出力する制御ベクトル系列を用いて構成できるためのデータフロー依存型回路の非スキャンテスト容易化設計法を提案する.データフロー依存型回路では,オリジナルコントローラはリセット入力のみ持ち,ステータス信号線を持たない.この手法では,テストプランをオリジナルコントローラからデータパスへ伝搬するので,固定制御可検査性に基づく非スキャンテスト容易化設計法に比べて面積オーバーヘッドを削減できる.さらにこの手法では,固定制御可検査性に基づく非スキャンテスト容易化設計法と同じ利点を持つ.


0061028 Md. Altaf-Ul-Amin

「Studies on Hierarchical Two-Pattern Testability of Controller-Data Path Circuits」

  Two-pattern test is required to identify delay faults in a circuit. The importance of delay fault testing is increasing gradually because of the fact that traditional stuck-at fault testing is failing to guarantee an acceptable quality level for today's high-speed chips. Some defects and/or random process variation do not change the steady state behavior of a circuit but affect the at speed performance. Any degradation in at speed performance is detected by delay testing and it is likely to become industrially accepted in near future. A straightforward solution to two-pattern testability is the enhanced-scan design. But this incorporates very high area overhead and long test application time. In this thesis we present a hierarchical testability technique for delay faults. There are a number of delay fault models. Among these, the path delay fault model is more general and can overcome the limitations of other models. Our approach is developed on path delay fault model. The design hierarchy we consider is (Register Transfer Level) RTL, where the number of primitive elements in the circuit is greatly reduced. At RTL a circuit can be divided into two parts: a controller and a data path.
  Firstly, we consider the data path as a separate entity. We introduce the concept of RTL paths in a data path. Based on this we develop the definition of hierarchically twopattern testable (HTPT) data path. The advantages of an HTPT data path are (i) the data path can be tested using any delay fault model, (ii) combinational (Automatic Test Pattern Generation) ATPG can be used and (iii) the same faultcoverage can be obtained as with the enhanced scan approach. We also point out some necessary and sufficient conditions to support the propagation of two-pattern vectors via two or more control paths ina data path. We present these conditions as theorems together with proofs.
  Secondly, a design for testability (DFT) method is formulated that can be applied to augment a data path to an HTPT data path. We propose a special type of DFT element called rotating enhancedflip-flop (REFF) that consists of two latches and a multiplexer. AnREFF can hold two-bit data for as many cycles as it is required. Other DFT elements we use are multiplexers and thru functions. Our DFT method incorporates a graph-based analysis of an HTPT data path and makes use of some graph algorithms such as breadth first search and finding shortest paths between nodes etc. We have conducted experiments by applying our method to several benchmark circuits and a RISC processor provided by a semiconductor industry. Through ourexperiments we have showed that our method can achieve similar advantages to the enhanced scan approach at a much lower hardware overhead cost and test application time.
  Thirdly, we extend our approachfor a complete circuit consists of both controller and the data path. We propose a DFT scheme for two-pattern testability of a controllerdata path circuit. The scheme makes use of both scan and non-scan techniques. The data path is first transformed into an HTPT data path. Then an enhanced scan chain is inserted on the control linesand the status lines. The enhanced scan chain is extended via the state register of the controller. In some cases, the data path is further modified by adding test multiplexers. Then a test controller isdesigned and integrated to the circuit. In this scheme, we test multiplexer select lines and register load lines as RTL segments. To test these RTL segments we propose some techniques that are compatible to overall operation of a controller data path circuit. For a given circuit, the area overhead incurred by our scheme decreases reasonably with the increase in bit-width of the data path of the circuit. The proposed scheme substantially lowers the test application time, supports hierarchical test generation and can achieve fault coverage similar to that of the enhanced scan approach.


0061019 綴木 潤

「パターン認識の統計力学的手法」

パターン認識の歴史は長く,コンピュータのめざましい発達に伴い,近年その技術は急速に高 まりつつある.本論文では,パターン認識の統計力学的手法と題して,統計力学に関連するパ ターン認識,特にベイズ推定による画像修復問題と神経回路網による連想記憶モデルについて 述べる.

まず,本論文ではベイズ推定を用いた画像修復を取り扱う.これまでのベイズ推定に基づく画 像修復の枠組では,画像に重畳されるノイズは画素毎に独立であると仮定されており,空間的 相関を持つようなノイズを取り扱ったモデルはなかった.しかし光学系の特性等を考慮するれ ば,重畳されるノイズに空間的相関が発生すると考えるのは自然である.そこで本論文では, 空間的相関を持つノイズで劣化した画像の修復モデルを提案し,その提案モデルの定性的な解 析を行う.

原画像の生成モデルとノイズの生成モデルは多次元ガウス分布に従うとする.さらに並進対称 な相関行列を仮定することで,これらのモデルにフーリエ変換を用いることが可能にする.こ のフーリエ変換の利用により,修復誤差等の系の性質の解析的な計算をすることが可能にな る.本論文では,この計算により得られた解析結果と人工画像を用いたシミュレーション結果 が一致することを示す.さらにハイパーパラメーター推定を行うことで,人工画像と自然画像 の画像修復を行う.ハイパーパラメータ推定には修復誤差最小化基準と周辺尤度最大化基準を 用いる.そして,既存の空間的相関を持たないノイズモデルがどの程度,空間的相関を持つノ イズに対処できるかを見せる.実験として,空間的相関を持つノイズモデルによって生成され たノイズを,あえて既存の空間的相関を持たないノイズモデルを用いて修復を行った.そして 既存の空間的相関を持たないノイズモデルでは,空間的相関を持つノイズをうまく修復できな いことを示す.特に周辺尤度最大化を用いる場合は,上記のように生成用のノイズモデルと, 修復用のノイズモデルが一致していなければ修復が非常に困難になることを示す.

次に,本論文では神経回路網の最も代表的なモデルの一つである連想記憶モデルについて述べ る.連想記憶モデルは,相互結合型ネットワークの荷重結合行列を決めることで実現する.本 論文では特に,連想記憶モデルの能力向上をめざして,隠れ素子の付いた連想記憶モデルを提 案する.隠れ素子を導入することにより,ヘッブ型学習と誤差逆伝播法の二つを用いたハイブ リッド型の教師なし学習を用いることが可能になる.一般に,相互結合型の神経回路網を用い た連想記憶モデルでは多数の偽記憶に収束する現象が生じるが,本論文のモデルはより広い引 き込み領域を持ち,偽記憶に収束しにくいモデルであることをシミュレーション結果により示 す.


0061009 佐々木 博史

「ウェアラブルコンピュータに適した
 手を用いたデバイスレスインタフェースに関する研究」

 コンピュータを場所や時間にとらわれず,いつでも好きな時に利用したいという 願望は,パーソナルコンピュータの登場と同時に始まった.当時は運ぶことさえ 困難であったコンピュータ・周辺機器も近年の技術進歩により, ハードウェアの小型軽量化が進み,今や腕時計型でVGAスクリーンと近距離無線 LANシステムまで備え持つ超小型のウェアラブルコンピュータが試作されるまでに 至っている.
 一方,ウェアラブルコンピュータの実現の為には,ハードウェアのみならず, ユーザとウェアラブルコンピュータを仲介するインタフェースの役割が重要である.
 ウェアラブルコンピュータの特徴は, 場所や状況に関わらず,いつでもどこでも自由に利用できる点にある. また,ユーザが常に装用することから,ユーザに装着による拘束感を 与えることなく利用できる必要がある.従って,ウェアラブルコンピュータの 入力インタフェースにも,ユーザに拘束感を与えず,「いつでも」「どこでも」 利用が可能で,「誰でも」が自由に操作可能な直感的な操作の行える インタフェースが望ましい.
 本研究の目的は,人間の入力情報である「五感」を利用し, 「いつでも」「どこでも」「誰でも」が自由に利用可能であるという ウェアラブルコンピュータの特性を活かした,ウェアラブルコンピュータ用 入力インタフェースを構築することである.
 本研究では,「五感」の内,「視覚」及び「触覚」情報を利用し, AR技術と画像認識技術によって,「視覚情報」と「手」による直感的操作を 実現する『てのひらいんたぁふぇいす』を提案,構築した.
 『てのひらいんたぁふぇいす』はカメラを用いてユーザの手振りを計測し,透過型 HMDを用いて入力補助情報,入力確認情報を手の上に重畳表示することで, 手を用いた直感的な入力をウェアラブルコンピュータ上で実現するものである. 『てのひらいんたぁふぇいす』は既存のウェアラブルコンピュータ用入力機器の様に 入力専用の機器を装用することなく,指に提示されたメニューの選択,手をパッドに 見立てた手書き入力などの様々な入力インタフェースを提供することができる, デバイスレス入力インタフェースである.
 このうち「てのひらめにゅう」を例にとって,『てのひらいんたぁふぇいす』 実現のための主な技術要素となる画像認識について,開手動作と メニュー選択動作の認識精度評価を行い,室内の環境下で実用に充分な 認識精度を実現出来ることを示した.また,入力操作における ユーザビリティ評価を行い,提案したデバイスレス入力インタフェース 『てのひらいんたぁふぇいす』の有用性を確認した.
 さらに,「てのひらきゃんばす」「てのひらかめら」などの 『てのひらいんたぁふぇいす』を利用したアプリケーションを試作し, デバイスレス入力インタフェースがウェアラブルコンピュータの適 用範囲を広げる可能性が高いことを示した.


0161034 向田 茂

「ヒューマンコミュニケーションのための顔画像合成に関する研究」

人と人とのコミュニケーションにおいて,顔が重要な役割を果たしていることは経験的にも明らかである. 年齢,人種,性別,表情など,顔から多岐にわたる情報が得られることからも,その重要性を伺い知ることができる.

コンピュータによるコミュニケーションを考えたとき,自由に顔画像を操作し,提示することができるならば,言葉だけでは誤解を生じる場合や,あるいは伝えにくい微妙なニュアンスがある場合にも,伝えたいことをうまく伝えることができる.

一方,顔が表出する多くの情報に対する認知的研究が行われている. 特に,コンピュータグラフィックス技術の進歩とともに,合成顔を用いた心理実験が盛んになった. しかし,心理実験のための刺激画像生成を目的とした合成ツールは,これまで見当たらなかった.

本研究では,まず心理実験の実験刺激として用いる顔画像の生成を目的とした顔画像合成システムを提案する. 本システムでは,2枚あるいはそれ以上の画像を,モーフィングおよびその拡張技術を用いて任意に合成することができる. また,顔の特徴を規定する上で重要となる特徴点についても,操作者の作業負担を軽減させる方法を提案する. その結果,顔パーツの入れ替え,平均顔,カリカチュアなど心理実験で頻繁に用いられる合成顔を容易に生成することが可能となった.

次に,顔が伝える情報のうち年齢に着目し,顔画像合成による年齢操作について検討する. まず,年齢に関わる形状特徴を,複数の顔画像から統計手法である主成分分析を用いて抽出する手法を提案する. その後,複数の顔画像から,提案手法を用いて年齢特徴を抽出する. 得られた年齢特徴を個人の顔画像に適用し,本顔画像合成システムにより顔画像の年齢操作を行う. ただし,本提案手法による年齢特徴抽出では,肌のきめやしみ・しわといったテクスチャ情報は扱いにくいことから,テクスチャ情報,しみ・しわを個人の顔より抜き出す方法を検討する. そして得られた情報を年齢に関わるテクスチャ情報と位置づけ,年齢形状情報とともに適用することで年齢操作を行う.

本研究で提案した顔画像合成システムにより,心理実験において実験刺激画像の作成にかかる労力は飛躍的に軽減され,容易に様々な実験,研究を試みることが可能となった. また,年齢操作をはじめとする顔画像生成手法は,モニタを媒介としたコミュニケーションの場面への応用が期待される.


0161018 佐藤 智和

「複数の動画像を用いたカメラパラメータ推定に基づく屋外環境の三次元モデル化に関する研究」

動画像からの屋外環境の三次元モデル化は, 物体認識, 景観シミュレーション, ナビゲーション,複合現実感など,様々な分野への応用が可能である.しかし, 現在このような分野で用いる三次元モデルは主として手動で作成されるため, 作 成コストが高く自動化が求められている.
これらを自動化するための試みとして, 従来から動画像を用いる三次元復元手法 に関する研究が盛んであるが, 復元範囲や復元精度に問題があるために, 広域で 複雑な屋外環境を精度良く復元するには至っていない.
そこで本論文では,複数の動画像と三次元位置が既知の基準マーカを入力として 用いることで, 広域で複雑な屋外環境を精度良く復元する手法について述べる. 1章では, 現実環境の三次元モデル化に関する従来研究を概観し, 本研究の位置 づけと研究方針を明確にする.
2章では, 三次元位置が既知の基準マーカと自然特徴点を画像上で追跡し, カメ ラの移動パラメータを精度良く推定する手法について述べる. また, 現実環境を撮影した動画像を入力とし, 評価実験を行うことで提案手法の 有効性を確認する.
3章では, カメラパラメータが推定された複数の動画像系列を用いて, 拡張マル チベースラインステレオ法により, 各フレームでの奥行き情報を密に推定し, そ れらをボクセル空間に統合することで, 三次元モデルを復元する手法を提案す る.
また, 実際に屋外環境の三次元モデル化結果を示す. 最後に,4章で本研究を総 括する.


0061029 金 銀花

「心身状態を考慮したオペレータモデルの開発」

プラント運転において、コンピュータと自動制御技術の進歩によって、人間が行っていた多くの作業を機械が代行して行うようになってきた。しかし高度な判断が必要な局面や柔軟な対応を必要とする局面では、依然として人間が監視操作を行っている。オペレータはCRT画面上でプラントの状態を常時監視し、異常を発見した場合は、異常原因を突き止め、適切な対応処置を取らなければならない。システムが巨大化した現在では、事故が起こるとその被害と損失は測れきれないほど大きい。本研究では、異常時に発生しやすいヒューマンエラーのメカニズムを、プラント運転を行うオペレータモデルを用いて考察する。

オペレータモデルは人間のある限られた特性を形式的に表現したものであって、使用目的によって多様なモデルが提案されている。本研究では、Card らのスタティックな人間情報処理モデルを基本として、オペレータの行動をシミュレーションできる認知情報処理モデルを構築した。まず、オペレータの情報処理モデルを知覚、思考、運動の三つのプロセッサと作業記憶、長期記憶の記憶領域から構成した。このオペレータ情報処理モデルをPC上に実装したあと、運転訓練用ボイラープラントシミュレータと結合してプラントシミュレータに発生する標準的な異常に対応できることを確かめた。また、人間オペレータの時間特性が本オペレータモデルによって再現できることも確認した。

オペレータの思考や行動、オペレータの心理状態、プラントの状態は互いに複雑に影響を及ぼしあう。それゆえプラント運転におけるヒューマンファクターの問題を考えるうえで、これらの要素を個別に解析するだけではなく、時々刻々と変わる動的な情況の中で各々の要素がどのように影響を及ぼしあうかを解析することが必要である。この知見をシミュレーションするため、オペレータの情報処理モデルにオペレータの心理状態、注視点と認識可能な領域の情報を追加して、心身状態を考慮したオペレータモデルを開発した。特に、ヒューマンエラー発生のメカニズムをシミュレーションによって考察するため、各プロセッサや記憶のパフォーマンスを表すパラメータを導入した。作成したモデルをPC上に実装し、ボイラープラントシミュレータと結合して、いろいろな情況で起こるヒューマンエラーのシミュレーションを行い、ヒューマンエラー発生のメカニズムを考察する。特定の要素が直接エラーを引き起こす場合はもちろんのこと、いろいろな要素が複合してエラーが発生するメカニズムを解析する。本研究では、現場で共有されている定性的な知見を、モデルを用いたリアルタイムシミュレーションで再現することを目標としている。

論文は7章から構成されている。第1章では、いくつかの典型的なオペレータモデルを紹介した後、異常対応訓練において観察されたオペレータの行動の特徴まとめ、本研究の目的を明らかにする。第2章では、プラント運転におけるヒューマンエラーの発生要因とヒューマンエラーの事例をまとめる。第3章では、本研究のため構築したプラントオペレーションのシミュレーション環境を説明する。第4章では、最初に作成したオペレータの情報処理モデルの構成と、このモデルがボイラープラントシミュレータに起こった異常にリアルタイムで対応できたことを述べる。第5章では、心身状態を考慮したオペレータモデルの構成と、このモデルが標準的な異常に対応できたことを述べる。第6章では、本研究で作成したオペレータモデルを使って、ヒューマンエラー発生のシミュレーションを行い、ヒューマンエラー発生のメカニズムを考察する。またヒューマンエラーの対策についても検討する。第7章では、本研究の結論と今後の課題をまとめる。


0061012 鈴木亜香

「Theoretical Classifications of Security Notions on Public-key Cryptosystems」

(公開鍵暗号における安全性指標の定式化について)

公開鍵暗号の安全性は、攻撃者が攻撃目標を達成するために必要となる計算量に より評価される。 Bellareらは、公開鍵暗号で重要とされる「頑強性」と「識別不可能性」と呼ば れる2つの性質につ て、3種類の異なる攻撃者モデルを想定し、暗号が安全であるということの形式 的な定式化を行なった。また、その定式化に従い、異なる性質・攻撃者モデル間 の相対的な強弱関係を明らかにした。一方、Goldreichは「一方向性」と呼ばれ る性質について、同様の定式化を与えている。 しかしながらBellareらの結果とGoldreichの結果は独立に与えられており、 両者の定式化がどのような関係にあるかは不明である。 また、上記3種類以外の性質について言及した研究は、今のところ見当たらない。

本論文ではBellareらの結果とGoldreichの結果の統一と一般化を行なう。 第一に、等価判 定不可能性と検証不可能性と呼ばれる2つの性質について、定式化を行 これら2つの性質とも公開鍵暗号では重要な性質であるが、これまでの研究では 議論の対象となっていないかった。 これらの性質に適切な定式化を与え、両者とも識別不 可能性と等価であることを示す。 第二に、頑強性と一方向性についてより詳細な定式化を行ない、既存の定式化と の関係を明白にする。 本研究が立脚している粋組では、攻撃者自身が平文の部分集合を指定し、指定さ れた平文の中の一つを暗号化することで攻撃対象となる暗号文が構成される。 攻撃者が指定する平文集合の大きさにより、攻撃自体の難易度が変化する。 本論文では、平文集合の大きさを3段階に分類し、それぞれに対して頑強性、一 方向性の定式化を与える。 これら新しい定式化の一部はBellareやGoldreichの定式化と等価であり、その意 味でも、従来の結果の自然な一般化となっているといえる。


0061006 大平雅雄

「対面異文化間コミュニケーションにおける相互理解構築とアイデア創発の支援に関する研究」

本論文は,異なる文化に属する者同士のグループミーティングにおける協調作業を,対面コミュニケーションによる相互理解の構築と,異文化間コミュニケーションによるアイデア創発という同時進行する二つのプロセスとして捉え,それぞれのプロセスを統合的に取り扱うための枠組みを構築し計算機システムによって支援することを目的としている.

HCI (Human-Computer Interaction) や CSCW (Computer Supported Cooperative Work) の分野では,計算機を用いた発想支援,意思決定・問題解決支援など,複数人の人間同士による協調作業を支援するために様々なアプローチが提案されている.異なる分野や組織に属する者同士が協調作業を行う際に生じる言葉や表現の解釈や視点の違いは,異文化間コミュニケーションに起因する「克服すべき課題」とされてきた.本論文では,異文化間コミュニケーションを「克服すべき課題」としてではなく,むしろ「アイデア創発の機会」として捉える立場をとる.本論文での「異文化」とは分野や組織の違いにとどまらない.年齢,性別,社会的地位などの違いも含め,広義の意味において「異文化」という言葉を使う.研究者らによる研究ミーティングや製品開発におけるコンセプトデザインミーティングなど,我々が日常の業務の中で行うグループミーティングを対面異文化間コミュニケーションと見なし,「アイデア創発の機会」とするための理論的枠組みと支援環境の構築を目指すものである.

対面異文化間コミュニケーションによる協調作業支援環境構築へ向け,対面コミュニケーションにおける相互理解構築のための理論的枠組みと,異文化間コミュニケーションによるアイデア創発のための理論的枠組みを構築した.前者では,人が日常の認識の中では明示的に意識してこなかった物事の存在や属性を気付かせるトリガーであるブレークダウンという現象に着目し,ブレークダウンを利用した知識共有と相互理解構築のプロセスをモデル化した.後者では,異文化に属する者同士がコミュニケーションを行う際の共通言語基盤として必要であるとされる境界オブジェクトに着目し,計算機システムによって表現・共有するための枠組みを構築した.

二つの枠組みを統合しシステムの設計を行うために,まず,対面異文化間コミュニケーションにおいて,参加者PがオブジェクトOをIであるとする(考える・感じる),といった参加者が外部的に表す情報をアソシエーションと定義し利用することとした.アソシエーションは,境界オブジェクトを計算機システムによって表現・共有するための一手法として利用し,また,アソシエーションの違いをインタラクティブに可視化することによってブレークダウンを促進させるためのメカニズム構築のために採用した.アソシエーションの可視化を提供するインタフェースの設計では,「マップ」「視点」「二次元空間配置」を採用しシステムのインタラクティブ可視化モデルとした.構築した EVIDII (an Environment for VIsualizing Differences of Individual Impressions) は,「人」「画像」「印象語」の3者の関係を可視化し画像に対する印象を可視化するインタラクティブシステムである.

二種類の利用観察実験を行いプロトコル分析によりEVIDIIの有用性を検証した.まず,共有情報空間として用いるデバイスの違い(垂直設置型ディスプレイと垂直設置囲み型ディスプレイ)によるコミュニケーションへの影響を調べることを目的とした比較対照実験を行い,EVIDIIの利用状況を詳細に観察した.水平型共有情報空間を使用した場合には,指示語やジェスチャを使いながらコミュニケーションを巧みに調整し議論を行っている様子が観察された.一方,垂直型では発言の重複が見られるなどの状況が多発したが,デザインラショナルの分野では重要とされる言葉による明示的な発言が水平型に比べて非常に多い結果となった.次に,観光旅行のプランニングという意思決定を伴うような具体的なタスクを与えた場合にもEVIDIIが有効に機能するかどうかを検証するために,EVIDIIを用いた場合と用いない場合とで比較対照実験を行った.EVIDIIを利用しない場合にはアソシエーションとして共有された情報を有効に活用せずに議論が行われてしまうこと,EVIDIIを利用した場合には議論が停滞した場合のアイスブレーカーとしてもEVIDIIが機能することがわかった.

利用観察実験の結果から,EVIDII利用時の相互理解とアイデア創発のプロセスをモデル化するとともに,「異文化」を形成している人と人との関係,ドメイン知識とアイデア創発との関係,アソシエーションの制約によるアイデア創発への影響,使用デバイスのコミュニケーションへの影響について考察する.最後に,対面異文化間コミュニケーションによる協調作業支援環境 EVIDII の意義を,今後ますます重要となるであろう異文化間協調作業の社会的必要性の観点から考察し本論文をまとめる.


0061003 和泉 順子

「インターネットにおける実空間情報の流通管理に関する研究」

近年、電子化した情報を流通させる手段、つまり、情報通信基盤として、 インターネットが広く利用されるようになった。 学術分野に限らず行政や金融、医療、交通、各種メディアなどの 情報をも流通させる、社会基盤としての役割を担っている。 しかし、情報流通基盤の整備とは対象に、 その情報の流通制御に関しては、対応が遅れ気味である。 インターネット上でのプライバシ情報の取り扱いは、 実世界のプライバシ侵害の問題と比較して複雑化しており, 実世界のエンティティに帰属した情報の流通制御および管理が必要である。

そこで、本研究では、 情報通信基盤としての社会性を持つインターネット上のサービスと そこで扱う情報流通の検討を通じて、 インターネットにおける実空間情報の流通制御を提案する。 たとえば、実空間の物理的な位置情報をネットワーク上で扱う際に、 計算機を特定可能なIDを用いることは、 インターネット上への個人情報の流出につながる。 そこで、システム上で疑似識別子(puseudo ID)を導入し、 蓄積する個人情報は暗号化により保護した 地理的位置情報管理システムの一提案とプロトタイプの設計を行った。 また、 実空間に存在するエンティティとして 世界中に数多く存在し、広範囲に移動する自動車を考えた場合、 自動車に搭載されたセンサデバイスから実空間をプローブすることにより、 情報価値の再認識と新たなサービスの発現が期待されている。 このように自動車がインターネットを介して外部社会と常時接続され、 実空間の自動車のセンサデバイス等の情報がインターネット上で 取り扱われる場合の個人情報保護などを考慮した流通管理を検討する。 次に、実空間におけるエンティティ、特に個人の 認証および委譲情報の連続性についてを検討し、 実空間における個人情報とサービス提供の在り方について議論を行った。 具体的には、自己を証明する機構とサービス委譲の機構を分離し、 運用ポリシとの動的な折衝をサービス提供者が行うモデルを提案した。 これにより、 異なる運用ポリシ間を移動した場合でも 提供者のポリシに沿った形でサービスの連続性を保つことが可能となり、 実空間の情報流通とサービス提供・享受に対する 動的な情報流通の制御が可能となる。 このモデルの具体的な実装として、X.509個人証明書をもちいた枠組みを検討し、 モデルの実現可能性を検証した。


9961032 張舒

「ドメイン内経路の不安定性に関する研究」

(Studies on Intra-domain Routing Instability)

日本語内容梗概

現在、インターネットの信頼性を損なう問題の一つとして経路の不安定性があ る。経路の不安定性とは、何らかのネットワーク障害が原因で頻繁に経路が変 更し、または消滅する現象を指す。これによりパケット破棄、ルーティングルー プが発生し、さらにルータの負荷が増加し、ネットワークの信頼性が著しく低 下し問題となる。本論文ではまず WIDE Internet における経路の不安定性の 調査を通じ、現在の経路の不安定性の発生頻度を定量的に評価し、分析する。 これにより、エンドユーザが普段ほとんど気づいていないにも関わらず、経路 の不安定性が日常的に生じていることを示す。

経路の不安定性が頻繁に起こりうる以上、その悪影響を最小限に抑える必要があ る。本論文の後半ではキャッシュ型最短木によって、経路の不安定性による悪影 響を最小限に抑える Cached Shortest-path Tree (CST)手法を提案する。CSTの 基本的な考え方は、ルーティングが不安定な状態において、頻繁に出現するネッ トワークトポロジおよびその最短木をキャッシュし、ネットワークトポロジがキャッ シュされたものと同一になった時、保存された最短木を使って経路表作成時 間を短縮することである。これによって経路の収束時間を短縮することできる上、 計算負荷の大きい Dijkstra アルゴリズムの実行回数を大幅に削減できる。WIDE Internet で計測した経路制御情報の履歴データを用いたシミュレーション評価 により、CST 有効性を明らかにし、また最短木のキャッシュ数の最適値が 30 に なることを示す。

英語内容梗概

Routing instability is one of the problems that affect the Internet's reliability because it greatly degrades the efficiency of data transmission over the Internet. In this thesis we first present the result of a routing instability investigation on WIDE Internet to show how frequently routing instability can occur on a daily-used network. The result tells us that although most end-users don't notice, routing instability can occur frequently.

In the next part of this thesis, we discuss how to minimize the influence of routing instability. Currently, as most of Internet Service Providers(ISP) uses link-state routing protocols to do intra-domain routing and link-state routing protocols calculate routes using Dijkstra algorithm, which suffers scalability problem, it is often the case that implementors introduce artificial delay to reduce the number of route calculation. When routing instability occurs, this delay can lead to complete loss of IP reachability for the affected network prefixes during the unstable period. For the purpose of quickening intra-domain routing convergence, we propose Cached Shortest-path Tree(CST) approach which doesn't need extra execution of Dijkstra algorithm even if the routing for a network is quite unstable. The basic idea of CST is to cache the Shortest-Path Tree(SPT) of network topology that appeared frequently, and use these SPTs to instantly create routing table when the topology changes to one of the cash. We show CST's effectiveness by a trace driven simulation and find that thirty pieces of SPT caches is the proper number to use on WIDE Internet.


9961007 大江 将史

「分散型サービス妨害攻撃における攻撃ノード追跡手法に関する研究」

(Studies on technique for tracing attack nodes under Distributed Denial of Service Attack)

 インターネットにおける脅威の一つである分散型サービス妨害攻撃とは,インターネット上 に分散配置された攻撃ノードから,大量のパケットで構成された攻撃フローを被害ノードへ向 けて送ることによって,ネットワークやサーバの資源を消費させる攻撃手法である.これによ って,被害ノードにおけるWorld-Wide-Webといったサービスを妨害するすることができる.
 分散型サービス妨害攻撃への被害を最小限にするためには,攻撃パケットの通過した経路を 特定し,攻撃ノードの位置を明らかにする技術が必要である.しかしながら,攻撃パケットの 発信元アドレスは,無作為に選択されたアドレスによって詐称されているために,traceroute といった発信元アドレスや経路情報を元にした攻撃ノードの特定は不可能である.このため, ルータのフィルタリング機能やサービス妨害攻撃検知機能などを使い手作業によって, 攻撃フローと攻撃ノードの特定をおこなっている.しかし,インターネットは,国際的な通 信インフラであり,商用ISPや,企業,研究・学術機関といった様々なポリシーをもった機 関が相互に接続して成り立っている.このため手作業による追跡では,その境界を越えた 追跡を行う際のコストや国際的な協力が必要となり,追跡時間の短縮に対する大きな障壁 となっている.
 この問題の解決策として,IPトレースバック技術が提案されている.IPトレースバックは, 偽装された発信元アドレスを伴う攻撃フローの真の発信元を特定する技術である.そして, さまざまな手法が提案されている.しかしながら,すべての手法は,インターネット全体で の同一手法が適用されることを前提としているため,さまざま運用ポリシーを持った組織の 集合で成り立っているインターネット上での運用を考慮していない.また,スケーラビリテ ィや追跡精度が低いといった分散型サービス妨害攻撃に対する効果が不十分な手法などもあ る.

 そこで,本研究では,さまざまな組織で構成されるインターネット上での運用を前提とし た「階層型トレースバック機構」を提案した.本提案は,インターネットでの経路制御が, AS (Autonomous System)間とAS内にわけて,EGP (Exterior Gateway Protocol)とIGP (Interior Gateway Protocol)の二つに階層化されいる点に着目し,攻撃フローの通過する ASの特定を行う「Exterior IP (eIP)トレースバック機構」とAS内部において攻撃フローが 通過するルータの特定を行う「Interior IP(iIP)トレースバック機構」の2つに分離したア ーキテクチャとなっている.
 eIPトレースバックは,攻撃フローのASを短時間に特定することを目的とする.ASの特定 は,フィルタリングなどによる大まかな分散型サービス妨害攻撃への対策を可能とする. また,iIPトレースバックは,AS内における攻撃ノードの特定を目的とする.これより,攻 撃ノードの分離や対策が可能となり,攻撃の被害を収束させることを可能とする.
 提案手法は,分散型サービス妨害攻撃に対して,攻撃ノードのASを特定するeIPトレース バックから,攻撃ノードの特定をおこなうiIPトレースバックへと2段階に分けてIPトレース バックを行うことで,既存の手法では出来なかった実インターネット上での分散型サービス 妨害攻撃に対する効果的な対策を実現する.
 本研究では,本提案手法の実現可能性を明らかにするために,1.アーキテクチャの定義と 必要な技術の特定と評価.2.実インターネットでの提案手法の実現可能性を明らかにするた めに実装を用いた検証を行った.
 1段階目では,実インターネットでの本提案手法を用いた追跡過程とその目標条件を定め た.そして,既存技術をiIPトレースバック機構としての組み込むために必要な要件の調査 を行ない.その要件を明確にした.また,eIPトレースバックは,既存研究の枠組みでは存 在しないため,eIPトレースバック手法として,IPオプション・トレースバックを提案した.  そして,シミュレーションの結果から,30分以内での追跡が可能であることが明らかと なった.これは,攻撃が約30分で収束するというCAIDAによる分散型サービス妨害攻撃の調 査結果から,十分効果的な値であった.
 以上の検証を経て,2段階目では,実証実験に向けてのプロトタイプ実装についてのアー キテクチャ設計,通信プロトコルの定義,連携に必要なAPIを定め提案手法の実装を行った. そして,実装は,10程度のAS規模をシミュレートした環境上で動作可能であることを確認し た.

以上の2段階の結果より,本提案手法は,分散型サービス妨害攻撃に対して有効な手法で ある点と実インターネットにおける運用へ向けての大規模な検証を行うことが可能である点 が明らかになった.

KEYWORDS: インターネット,セキュリティ,IPトレースバック,IPv6

Distributed Denial of Service (DDoS) attacks are one of the threats on the Internet. In DDoS attacks, the attack nodes are widely set up in the Internet, and transmit a large number of packets to the victim's node. These packets consume network resources and server resources, and obstruct network services like World-Wide-Web in the victim's node. In order to keep this damage to a minimum, the technology that identifies attack nodes and the paths of attack packets is required to be as fast as possible.

However, the source address of the IP packet for DDoS attack is spoofed to a random address. Therefore, investigating an attack node using TRACEROUTE, which depends on a source address, is not effective. For this reason, tracking the attack flow is done by hand using a filtering function, a DDoS attack detection function, (which each router has), etc. The Internet, as an international communications infrastructure, is constructed by various organizations connecting each other with various policies, such as ISPs, companies, research institutes, universities, etc. When tracking attack flows, a lot of time is wasted getting cooperation between organizations on attack paths. Tracking by hand is a big barrier to the reduction of time. IP traceback methods are proposed as solution to this issue. IP traceback detects the attack paths and specifes the true origin of an attack flow with a spoofed source address.

In this paper, we propose a hierarchical IP traceback architecture, which decomposes Internet-wide traceback procedure into interdomain traceback and intradomain traceback. Our proposed method is different from existing approaches in that our method is independent from single IP traceback mechanisms, and domain decomposition is based on the existing operational model of the Internet.


9961027 森島 直人

「インターネットにおける要求駆動型通信品質制御サービスに関する研究」

本研究は、インターネットの利用者からの要求によって駆動する、 通信品質制御サービスの実現を目指している。 このようなサービスを実現するためには、 制御対象となるネットワーク領域内で処理内容や資源管理等の一貫性を保持して制御する必要がある。 しかし、 従来のインターネットはデータ転送に関する制御機構と転送機構が密接に組み合わされて自律分散的に動作するため、 このような処理をおこなうことが難しかった。 本研究では、制御層と転送層の分離モデルを立脚点とし、 サービスを実現するためにそれぞれの層で必要となる機能の検討した。

制御層としては集中ネットワーク制御システムの設計と実装をおこなった。 また、実利用者を収容する仮設ネットワークを対象とした、 上記システムの運用に関して報告する。この運用経験を通じて、 特に利用者の視点から要求駆動型通信品質制御サービスの可能性と問題点を検討した。 転送層としては、MPLSにおけるLSP確立の高速化のために、 あたらしいラベル配布方式の提案とプロトタイプ実装による評価をおこなった。 さらに、転送層における通信識別の一貫性を確保するために、 二段階分類方式を提案した。 この方式では、通信の識別を規則からの必然的な決定と、 サービス提供者の定義する条件からの決定の2段階に分離する。 これにより、 一貫性の喪失などの原因箇所の特定が容易になることが期待される。

以上のように、 本研究では要求駆動型通信品質制御サービスを実現するための要素技術を、 さまざまな方面から検討・評価した。


9961033 Vasaka Visoottiviseth

「Sender-Initated Multicast for small group communications」
(少人数グループを対象としたマルチキャスト通信機構の開発)

英文概要:

Current IP Multicast offers efficient multipoint-to-multipoint data delivery for large group communications. Nevertheless, it suffers from deployment issues such as configuration complexity, lack of sufficient group management, and global address allocation. IP Multicast also suffers from a scalability problem because the router has to maintain forwarding states for all multicast distribution trees passing through it. Thus, the number of forwarding entries increases with the number of groups. While IP Multicast was designed for large group communications, we learned from various statistical studies on how multicast communications are under way, which are publicly available on many web pages, that most multicast sessions presently are relatively small and consist less than 50 receivers. Therefore, supporting small multicast group should be appropriate for the present applications.

In this dissertation, we propose Sender-Initiated Multicast (SIM) as an alternative multicast forwarding scheme for small group communications such as teleconferencing and file distribution. SIM eliminates the cost of allocating global multicast address, by routing packets according to receiver unicast addresses attached to packet headers. The key feature of SIM is in its Preset mode, which can lessen the cost of route lookups and provides cost-efficient packet forwarding by using a SIM Forwarding Information Base (FIB) maintained on routers. Moreover, a SIM tunnel will be automatically created between two routers that act as multicast branching points. Thus, SIM can gain scalability by maintaining FIB entries only on the branching routers.

Moreover, today all multicast applications use the connectionless and unreliable protocol such as the User Datagram Protocol (UDP) to achieve multicast communications. Developing reliable UDP is as complicated as developing TCP. To achieve reliability, we also propose the Multicast extension to Transmission Control Protocol (M/TCP), a TCP extension that enables multicast transmission to the existing TCP applications. M/TCP is designed based on SIM. M/TCP has the following features. First, M/TCP can be applied to those applications that a sender triggers data transfer (sender-initiated), for example, FTP and SMTP. Second, it requires implementation only on the sender. Third, it provides multiple transmission rates by re-classifying receivers in multiple multicast groups.

In this dissertation, we describe the SIM mechanism in detail and present evaluated results through implemantation and simulation results. We show how SIM can achieve low cost of maintaining forwarding information, cost-efficient packet forwarding, and incrementally deployment. Moreover, we also implement M/TCP on FreeBSD kernel and evalute the performance from the implementation. We show through the evaluation that M/TCP can gain better performance than unicast in propertion to the number of receivers. Further, M/TCP is not limited to SIM, but also can be used with other network protocols, such as XCAST, which the receivers are explicitly knows by the sender.

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日本語概要:

IPマルチキャストは、インターネット上のグループ通信を実現し、かつ、効率の良いデータ配送を行う機構として開発されてきた。しかし、長年の研究開発にも かかわらず、IPマルチキャストの普及は進んではいない。この理由として、IPマルチキャスト機構で使われている経路制御におけるプロトコルの複雑さ、運用コ ストの高さ、さらに、ルータに対する高負荷などを挙げることができる。また、現在のIPマルチキャストは、単一のグループに属するメンバー数についての良好 なスケーラビリティを確保することについては研究開発が進められてきたが、グループ数そのものについてのスケーラビリティの検討は少なく、結果として、多 数の少人数マルチキャストグループが存在する場合、現在のIPマルチキャスト機構ではうまく機能しないことがわかっている。ところが、これまでに公開された 幾つかの統計結果から分かるように、現在のマルチキャストの利用状況では、50人を超えない程度の少人数間通信が大部分を占める。このことから、IPマルチ キャストにおいて、サポート可能なグループ数という面でのスケーラビリティ確保は必須である。

本研究では,少人数におけるグループ間通信に注目し,Sender InitiatedMulticast (SIM) という新たなマルチキャスト経路制御プロトコルを提案する.SIM は,Explicit Multicast (XCAST) と呼ばれるパケット転送方式を利用し,受信者アドレスリストをパケットに添付し,ユニキャスト経路情報に基づくパケット転送を行なう.また,XCAST の問題点であるルータ負荷を軽減するために,ルータ上に SIM Forwarding Information Base (FIB) として転送情報を保持する Preset モードを備えている.そのため,全パケットにアドレスリストを添付する必要がない.Preset モードでは,送信者アドレスとグループのマルチキャストアドレスの組を転送情報検索のハッシュキーとして利用することで,効率のよい経路表検索を実現している.また,自動的に分岐点ルータ間を結ぶ SIM トンネル機構により,転送情報の保持と全受信者に対する経路表検索を行うルータ数を減らし,パケット転送処理の高速化を図る.

また,現在の IP マルチキャストではグループに対する配送のため,TCP のような End-to-End のコネクションを確保するような配送ができず,信頼性を保証できない UDP のみで配送する可能である.そこで,本研究では多く使われている信頼性を保証するプロトコルであるTCP に注目し,SIM を用いた信頼性を保証するトランスポート層プロトコルである Multicast-extension to Transmission Control Protocol (M/TCP) を提案する.SIM は送信者が受信者アドレスリストを管理するという特徴があるため,TCP のように個々の受信者にコネクションを確立し,個々の通信状態に応じた通信を実現することが可能である.M/TCP は既存の TCP の拡張であるため,TCP と親和性の高く既存のネットワークに悪影響を与えない通信を実現でき,受信側では既存の TCP アプリケーションをそのまま利用できるという利点がある.

本論文では,SIM の有効性を証明するために,シミュレーションと FreeBSD 上の実装を用いて,SIM の総合的な評価を行なった.その結果として導入コストの高さが問題とされている小規模グループでのマルチキャスト配送においても XCAST 方式によるパケット処理効率の向上を確認した.また,M/TCP においては,UNIX カーネルに実装し,評価を行った.その結果,ユニキャスト通信に比べて受信者数が増加にするつれて,本提案方式が有効なことを確認できた.また,実装ではマルチキャスト経路制御プロトコルとして SIM を利用したが,同様に送信者が受信者アドレスを把握しているという特性を持っている XCAST を利用することが可能である.


0161027 戸田智基

「High-quality and Flexible Speech Synthesis with
Segment Selection and Voice Conversion」

 Text-to-Speech (TTS) is a useful technology that converts any text into a speech signal. It can be utilized for various purposes, e.g. car navigation, announcements in railway stations, response services in telecommunications, and e-mail reading. Corpus-based TTS makes it possible to dramatically improve the naturalness of synthetic speech compared with the early TTS. However, no general-purpose TTS has been developed that can consistently synthesize sufficiently natural speech. Furthermore, there is not yet enough flexibility in corpus-based TTS.
 This thesis addresses two problems in speech synthesis. One is how to improve the naturalness of synthetic speech in corpus-based TTS. The other is how to improve control of speaker individuality in order to achieve more flexible speech synthesis. To deal with the former problem, we focus on two factors: (1) an algorithm for selecting the most appropriate synthesis units from a speech corpus, and (2) an evaluation measure for selecting the synthesis units. Moreover, we focus on a voice conversion technique to control speaker individuality to deal with the latter problem.
 Since countless vowel sequences exist in Japanese, a longer unit cannot avoid V-V concatenation, which often produces auditory discontinuity. In order to address this problem, we propose a novel segment selection algorithm that does not avoid the concatenation in vowel sequences but alleviates the resulting discontinuity by utilizing both phoneme units and diphone units. The experiments on concatenation at vowel sequences clarify that better segment selection can be performed by using concatenations both at phoneme boundaries and at vowel centers. Moreover, the results of perceptual experiments show that speech synthesized with the proposed algorithm has better naturalness than that with the conventional algorithms.
 A cost is established as a measure for selecting the optimum waveform segments from a speech corpus. In order to achieve high-quality segment selection for concatenative TTS, it is important to utilize a cost that corresponds to the perceptual characteristics. We first clarify the correspondence of the cost to the perceptual scores and then evaluate various functions to integrate local costs for capturing the degradation of naturalness in individual segments. From the results of perceptual experiments, we find a novel cost that takes into account not only the degradation of naturalness over the entire synthetic speech but also the local degradation. We also investigate the effect of using this cost for segment selection and show that the naturalness of synthetic speech can be slightly improved by utilizing this cost.
 We improve the voice conversion algorithm based on the Gaussian Mixture Model (GMM), which is one of the conventional statistical voice conversion algorithms. The GMM-based algorithm can convert speech features continuously and accurately with the correlation between a source feature and a target feature. However, the quality of the converted speech is degraded because the converted spectrum is excessively smoothed by the statistical averaging operation. To overcome this problem, we propose a novel voice conversion algorithm that incorporates a certain spectral conversion technique. The experimental results reveal that the proposed algorithm can synthesize speech with a higher quality while maintaining equal conversion-accuracy for speaker individuality compared with the GMM-based algorithm.
 This thesis also describes the various techniques in each module of the corpus-based TTS and offers suggestions for future work.


0061001 池上大介

「An Algebraic Maximum Likelihood Decoding Algorithm and
a Sub-Optimum Decoding Algorithm for Linear Codes」

誤り訂正符号理論において、良い復号法を模索することは最も基本的かつ重要な
課題である。誤り訂正符号の復号アルゴリズムには、誤り訂正能力と計算量の
2 つの評価尺度があり、これらは一般にトレード・オフの関係にある。
最尤復号法は誤り訂正能力を極限まで追求するが、一方で、計算量は符号長の
指数オーダで増大する。しかるに、誤り訂正能力を犠牲にして計算量を削減する
ことが可能であり、そのような復号法は準最尤復号法と呼ばれる。
本論文の前半では、準最尤復号について議論する。これまで多数の準最尤復号法
についての研究が行われているが、中でも Fossorier と Lin によって提案された、
通信路の順序統計量に基づく準最尤復号法に注目する。この準最尤復号法は単純で、
かつ最尤復号法と極めて近い誤り訂正能力を持つ。本研究では、最尤復号法と 
Fossorier の復号法を組合せることで、新しいタイプの準最尤復号法を構成した。
一方、本論文の後半では、最尤復号の問題を 2 元整数計画問題に帰着させる
というアイデアに基づき、新しいタイプの最尤復号アルゴリズムを提案する。
近年、 Conti と Traverso はグレブナ基底を利用して、ある種の制約をみたす
整数計画問題を解くアルゴリズムを提案した。本論文では、Conti のアルゴリズム
を最尤復号に対応する整数計画問題のクラスに拡張し、これを適用することで
最尤復号法を実現する手法を示す。


0061014 高村大介

「Clustering Approaches to Text Categorization」

Abstract
The aim of this thesis is to improve accuracy of text categorization, which 
is a general framework for various applications, such as e-mail classificati
on and Web-page categorization. 
Among various approaches to this aim, two clustering approaches are discussed
in this thesis. 
Although clustering is usually regareded as an unsupervised learning method,
we show that clustering can be used to improve accuracy of text categorization.

The first approach is co-clustering of words and texts. 
In a number of previous probabilistic approaches, texts in the same category 
are implicitly assumed to be generated from an identical distribution. We 
empirically show that this assumption is not accurate, and propose a new 
framework based on co-clustering to alleviate this problem. In this method, 
training texts are clustered so that the assumption is more likely to be true, 
and at the same time, features are also clustered in order to tackle the data
sparseness problem. We succeeded in improving accuracy of text categorizati
on using the co-clustering method.

The second approach is constructive induction based on clustering. In this 
approach, Support Vector Machines (SVMs) are combined with the constructive 
induction using dimension reduction methods, such as Latent Semantic Indexing
 (LSI). New features derived by the clustering (dimension reduction) methods
are added to the feature space. Using this method, we succeeded in improving 
the performance of SVMs in text categorization, especially when a number of 
unknown examples exist.

The last topic is the use of kernel (similarity) functions based on probability 
models.
We assume that the probability distribution of the data is a mixture of probability 
models for categories. Creating a kernel function from this mixture is effective 
in categorization.

本論文の目的は、文書分類の精度を向上させる方法について書かれている。文書分類
とは、文書をその内容に従って分類するタスクで、電子メール分類やウェブページ分
類など実用上重要なタスクの一般的な枠組と捉えられる。この目的に対する様々なア
プローチのうち、本論文ではクラスタリングによるアプローチを論ずる。クラスタリ
ングは一般的には、教師無し学習の方法であるが、文書分類の精度を向上させるため
に利用できることを示す。
第一のアプローチは、単語と文書の共クラスタリングによる方法である。分類問題に
対する確率モデルのアプローチでは、一つのカテゴリに一つの確率分布を仮定する場
合が少なくない。このアプローチの動機づけとして、この仮定が正しいとはいえない
ことを実験的に示す。続いて、この仮定による確率モデルの乱れを是正する枠組を、
文書と単語の共クラスタリングに基づいた形で提案する。提案方法では、確率モデル
の是正のために文書がマージされるが、データスパースネス問題を軽減するために単
語のクラスタリングも同時に行う。この方法を用いて文書分類の精度を向上させるこ
とに成功した。
第二のアプローチは、クラスタリングに基づいた構成的帰納学習法である。本手法に
おいては、サポートベクターマシンと呼ばれる分類器が、潜在的意味解析(LSI)な
どのクラスタリングに基づいた構成的帰納学習法と組み合わせて使用される。クラス
タリングによって抽出された素性が文書の素性空間を拡張するのに使用される。この
手法は、テストデータ中の素性で訓練データに出現しないものが多く存在するという
文書データの性質を利用したものである。クラスタリングに使用できる未知データが
充分多く存在する場合に分類の精度が向上することがわかった。
最後に、確率分布に基づいたカーネル関数を文書分類に応用することを試みる。ここ
では、文書データが複数のカテゴリの混合であることを利用して確率分布を作る。二
値分類の場合においても、このような確率分布から構成したカーネル関数が有効であ
ることが示された。




0061023 村田佳洋

「マルチエージェント技術を用いた組合せ最適化問題に対する近似アルゴリズム」

概要: 

 NP困難のクラスに属する組合せ最適化問題は多項式時間で最適な解を導
くことができないと予想されており,従来から,現実的な時間でより良い
近似解を導くための様々な近似アルゴリズムが研究されている.一方,分
散計算技術の発達により,自律した複数の計算機もしくはプロセスが協力
して問題を解く,マルチエージェント技術が近年注目されるようになって
きた.

 本論文では,NP困難のクラスに属する問題を解くためのマルチエージェ
ント技術を用いた近似アルゴリズムに関して述べる.最初に,仕事への
エージェント集合割り当て問題(Task-Coalition Assignment Problem,
以下TCAP)ならびに1次元仕事へのエージェント集合割り当て問題
(1 dimensional TCAP,以下1-TCAP)がNP困難のクラスに属することを証明
する.また,1-TCAPに対する近似アルゴリズムを提案し,その近似解の値
$v$と最適解の値$v^*$の比率$v^*/v$が最悪の場合でも9/4未満であること
を示す.

 次に,より一般的な問題に対して,計算に必要なパラメータを自動的に
適応するエージェント指向自己適応遺伝アルゴリズム(Agent oriented
Self-Adaptive Genetic Algorithm,以下A-SAGA)を提案する.従来の適応
GAのほとんどは1ないし2つのパラメータしか適応させられず,多数のパラ
メータを適応させる適応GAであっても,そのほとんどが大きな計算量を必
要としていた.A-SAGAは,合理的な計算量で,多数のパラメータを同時に
適応させることができる.本手法の有効性を,メタGAとの探索効率の比較
実験により評価し,4つのパラメータが合理的な計算量で同時に適応させ
られることを示す.


0061025 吉田和子

「部分観測システム同定の応用と脳型情報処理に関する研究」

概要: 
ヒトを取り巻く自然環境は、直接観測できない事象を含み、時間と共に動的
に変化する。このような複雑な環境においても、ヒトは環境の特性を学習し、
その変動を予測することによって最適な行動を取る。つまり、部分観測環境
におけるシステム同定を行い、それに基づいて最適意思決定問題を解いて
いると考えられる。本研究では、部分観測環境におけるシステム同定問題
について、機械学習と脳型学習の両側面から議論する。

まず初めに、統計的手法による非線形力学系のシステム同定問題について
議論する。関数近似器としてニューラルネットワークを用い、オンラインEMア
ルゴリズムによってカオス力学系のダイナミクスの学習を行う。部分観測デ
ータから元の状態空間での位相構造を構成する手法として、2種類の埋め
込み法について検討する。初めに、従来の遅れ座標埋め込み手法を適用し、
部分観測においてもシステムを同定できることを示す。次に、この手法を発
展させた積分埋め込み法を提案し、従来のものと比べてさらにノイズに頑強
であることを実験により確認する。

次に、部分観測環境におけるシステム同定とそれに基づく意思決定法につ
いて議論する。本研究では、隠れ変数をもつ環境でのモデル同定強化学習
法を提案する。モデル同定強化学習は、過去の経験から環境を同定し、そ
れに基づいて意思決定を行う。本手法では、環境の同定に忘却効果を導入
したベイズ推定を用いる。また、動的に変化する環境を扱うため、環境の変
化を検出しそれに基づいて行動様式を変化させる手法を提案する。本手法
を隠れ変数を持つ迷路探索問題に適用した結果、従来の手法よりも環境の
変化にうまく適応できることが分かった。

最後に、モデル同定強化学習を実現する脳の情報処理モデルを提案する。
本研究では、モデル同定強化学習で用いる主な関数と、脳、特に前頭前野
の機能を対応付けることにより、強化学習脳内モデルを提案する。このモデ
ルでは、背外側前頭前野が環境モデルの保持と操作に、前部前頭前野が
観測不可能な環境の推定に関わるとみなす。また、行動選択を行う場として、
帯状回を想定する。このモデルを検証するために、核磁気共鳴画像によって
脳計測実験を行ったので、その結果に基づきモデルの妥当性を議論する。

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情報科学研究科 専攻長