Abstracts of Doctor Thesis 1998

平成10年度 情報科学研究科 博士学位論文内容梗概


Last Update : 1999.1.29.Fri 

9661011 甲本卓也 「Study on Iterative Soft-Decision Decoding Algorithms for Binary Linear Block Codes」

For iterative soft-decision decoding algorithms for binary linear block codes,error performance and computational complexity are very important factors. In this thesis, sufficient conditions of the optimality of decoded codeword and a sufficient condition which is used for ruling-out some useless iterations of bounded distance decoding which reduces the computational complexity of iterative soft-decision decoding algorithms are shown. New iterative soft-decision decoding algorithms which uses the sufficient conditions of the optimality of decoded codeword to achieve good error performance with small computational complexity are also shown.


9761008 須増淳 「偏波直交性を用いた 高速直交周波数多重ディジタル変調方式に関する研究」

直交周波数多重 (OFDM) 伝送は複数の狭帯域サブチャネルを直交する周波数により周波数多重し,伝送を行うことにより,マルチパス伝送路において高速ディジタル伝送を行う方式である.しかし,OFDMでは,サブチャネル数の増加につれて隣接サブチャネル間隔が狭くなるため,ランダムFM雑音や周波数オフセットによる隣接サブチャネル干渉 (ICI) が大きくなり,伝送特性が劣化する.

そこで,偏波直交性を用いた直交周波数多重 (OPFDM) 方式を提案する.この方式は,隣接するサブチャネルを直交する2つの偏波で別々に伝送することによって,OFDMの周波数利用効率を保ったままでICIを減少させることができる.

さらに,OPFDM信号のシンボル波形の前半部と後半部の波形が同一となっている特徴を用いて周波数オフセットを推定して補償する半シンボル遅延相関を使用した周波数同期(HSD-OPFDM) 方式を提案する.この方式では,OPFDM信号のシンボルの前半と後半の波形の位相変動を比較することにより,特別なトレーニング系列を付加することなく,周波数オフセットを推定して補償する.

提案方式であるOPFDM,及びHSD-OPFDMの伝送特性を理論解析,及び計算機シミュレーションによって求め,従来のOFDMと比較し,その有効性を示す.


9761028 Hashmani Manzoor 「Traffic Management for the Available Bit Rate(ABR) Service in Asynchronous Transfer Mode(ATM) Networks」

Asynchronous Transfer Mode (ATM) networks can be used for a variety of bit rate transmissions, from the order of kilo bits per second up to mega and giga bits per second. Statistical multiplexing, unpredictable statistical fluctuations of traffic flows or fault conditions within ATM network may lead to excessive cell losses or unacceptable end-to-end cell transfer delays. This situation is called as congestion.

We first present a comprehensive study of the most of the congestion control schemes and the issues of the Available Bit Rate (ABR) service of ATM networks which must be considered when designing a new algorithm or modifying an existing algorithm. We find Enhanced Proportional Rate Control Algorithm (EPRCA) as particularly interesting due to its low implementation complexity.

We then state the problems of EPRCA which lead to substantial unfairness in bandwidth utilization by the end-to-end traffic and propose our own modifications to solve these problems. We call the new algorithm as Modified Enhanced Proportional Rate Control Algorithm (EPRCAM). We show that after some further modifications, EPRCAM is robust in terms of fairness and throughput performance even when substantial amount of bandwidth is used or relinquished by the background VBR/CBR traffic.


9561206 斉藤典明 「情報ネットワークにおける知識共有方式の研究」

人間の知的活動は個人で完結するのではなく、様々な人達との協調活動で成り立っている。そこで、ネットワーク上の情報がグループの知識として活用される過程を支援する事を狙った知識共有を提案する。ここでは、共有する情報によりメンバーが知的触発を受け、これにより新しい情報が交換され、共有される情報が次第に体系化されるプロセスを支援するアプローチである。このアプローチでは、共有される情報がグループにおける情報活用の実体に応じて柔軟に活用できることを狙い、情報の組織化により実現した。そこで、この情報組織化方式を次の3つの視点から検討を行った。共有されている情報がメンバーに認知され効果的に活用される仕組み。取得した情報により触発されグループの中へ新しい情報が提供されることを支援する仕組み。長期間の情報の共有によりグループで蓄積した知識の全体像を把握できる仕組み。この視点に基づきシステム化及び運用実験を行い本方式の有効性を確認した。

9661023 林 邦彦 「グラフの描画問題の計算複雑度に関する研究」

グラフを視覚化すること,つまり平面上に描画することは,その構造を理解するために有効な手段であるが,人手によるグラフの描画はグラフの規模の増大に伴って困難となるため,グラフを自動的に描画する手法が必要とされている.本論文では,いくつかのグラフ族に対する描画問題を定式化し,その問題に対する計算複雑度およびアルゴリズムについて考察する.まず,静的描画問題である2つの根付き木の描画問題について考察する.本論文では,木構造図の描画問題に対する効率的な木構造図の描画アルゴリズムの提案及び根付き非順序木に対する最小幅描画問題に対するNP完全性を示す.次に動的描画問題として,予め配置されている矩形の集合に対して,直交順序を保存し,矩形同士が交差しない,という制約の下で,面積最小の再配置を求める問題について考察する.まず,ある面積以下で再配置可能かどうかを判定する問題がNP完全であることを示す.更に,面積最小の再配置を求める発見的アルゴリズムを与え,矩形数が多い場合にこのアルゴリズムが非常に有効であることを計算機実験で示す.


9561006 今田 彬 「Associative Memory Model under Artificial Evolution」

Dynamical behavior of fully-connected neuralnetwork model of associative memory is strongly dependent on synaptic weights between neurons. Some of the weight configurations are known to be the solutions that give a network a function of associative memory. The number and distribution of these solutions, however, are still one of the open issues. To address the issue, we employ evolutionary algorithms in this thesis. The emphasis is put on methods to visualize the solutions in weight space of high dimensionality.

9661024 伴好弘 「強調現実感による工業作業支援システム*」

工場などで日常的に行われる、装置の検査や生産工程においては多数の部材と様々な治具とを組み合わさなければならない。このような作業ではマニュアルの参照が必須のものである。このような作業に対して、AR技術を利用すると、操作対象などの操作の方法を対象の上に重ねて文字情報のみならずグラフィカルな情報も作業者に提示することが可能になり、作業者は作業対象から視線を逸すことなく、的確な作業を進めることができる。また、非熟練作業者から熟練作業者まで、その熟練度に応じて適切な支援が行なわれることで、ヒューマンエラーの低減された確実な作業が実行できるものと考えられる。

本発表ではまず始めに、AR技術を基にした作業支援について述べ、電子部品の検査システムについて報告する。続いて工業プラントを巡回しながら行われるフィールド作業への適用について報告する。


9561205 北原英雄 「景観シミュレーションのための 実写画像を用いた建物データ合成に関する研究」

都市計画を進める上で、魅力のある都市創りという観点から、新たな計画が都市景観に与える影響を検討することが必要である。そのため、計画を事前に景観的な側面から検討するためのツールとしてCGを利用した景観シミュレーションが利用される機会が増えてきている。ところが、CGで都市景観を表現するために必要な都市部の既存建物は、従来限られた制作時間や資料の集めにくさなどから、簡単な建物ボリュームとして表現されることが多く、都市景観を構成する建物壁面情報が欠落するため、空間スケールの把握や都市内の視点位置の把握が難しいという問題がある。本研究では、景観シミュレーションに必要な画像生成を可能とする周辺建物データを作成するために、対象建物の現地写真を元にした建築物の実写画像をそのまま用いるのではなく、実写画像に対して画像処理を行なうことで壁面構成要素の配置情報などを抽出し、高品質な壁面データを合成する手法について提案する。また、本手法にもとづき、御堂筋を対象に壁面合成、CG画像の作成を行ない、提案手法の有効性について報告する。


9561021 高田司郎 「メモリ・コンシステンシ・モデルの形式的仕様記述と 検証に関する研究」

本論文では,田口と荒木が提案した形式的技法を用いて,分散共有メモリシステムの振る舞いを定義したメモリ・コンシステンシ・モデルとそれら実現の形式的な仕様記述とその検証を行う.
メモリ・コンシステンシ・モデルは,プロセスが分散共有メモリシステムからデータを読み出すとき,多くの書き込まれた値の候補のなかからどれを返すかを決定するモデルである.分散共有メモリシステムの性能は,これらモデルに強く依存するため,多くのモデルが提案されている.
これらモデルは,ストア命令やロード命令などに諸々のプログラム順序を定義してメモリアクセスを制約するもの,または,いつどのようにこれら命令の同期を取るべきかというプログラマの指定によりメモリアクセスを制約するものに大別される.そこで,本論文では,前者の代表としてコーザル・コンシステンシ・モデルを,後者の代表としてリリース・コンシステンシ・モデルを取り上げる.
この形式的技法では,Z 表記法と value-passing CCS(Calculus of Communicating Systems) の統合,プロセスの展開と状態遷移とが同時に記述できる状態遷移に基づく CCS 意味論(S-CCS) や遷移規則などが提案されている.この S-CCS を用いて記述された一つの操作に関する遷移関係を複数の操作を持つトレースに関する遷移関係に自然に拡張して,分散共有メモリシステムの逐次実行列上の操作に関する遷移関係を表現している.また,トレースは遷移規則を用いて展開され,検証に利用される.
まず,これら二つのメモリ・コンシステンシ・モデルを S-CCS を用いて記述する.次に,それらモデルの分散共有メモリの機能的な仕様は Z を用い,並行性の仕様は value-passing CCSを用いて分離して記述する.また,因果先行関係の比較には弱ベクトル時計を,メモリアクセスの同期にはセマフォを用いている.次に,分散共有メモリシステムが,それぞれのメモリ・コンシステンシ・モデルを満足しているかどうかを検証する.
これらの代表的な二つのモデルとそれら実現の形式的仕様記述と検証を示すことで,この形式的技法のメモリ・コンシステンシ・モデルに対する有効性を確認した.


9561027 張 漢明 「システム仕様記述のための変換技術に関する基礎的研究」

本研究の目的は,ソフトウェア開発におけるシステム仕様記述の作業を支援することである.信頼性の高いシステム仕様記述を効率良く構築するためには,対象システムのモデル化,およびシステム記述の分析を支援するための技術の開発が求められる.本研究では,システムの最適なモデルと仕様記述は試行錯誤の結果得られることに着目し,仕様記述の試行錯誤の過程を変換と捉えその過程を定式化することにより,システムのモデル化支援および記述の分析支援を図る.本論文では,形式仕様記述言語Zを用いて,(1)2項関係モデルにおける変換(2)階層的機能分割(3)システム状態不変条件の変換(4)図式表現から形式的な表現への変換について議論する.本変換技術は,仕様記述を変換の観点から整理し,仕様記述を変更する意義を明確にすることにより,変換技術が仕様記述を構築するときの指針となることが期待できる.変換技術の蓄積は,仕様記述者が仕様記述を構築する上で本質的なシステムの意味を考えるための開発環境の基礎づけを与える.


9761026 山本英里 「Hidden Markov Model-Based Estimation of Lip Motion from Audio Signals」

本論文の目的は、聴覚障害者が発話内容を読み取れるような自然で正確な動きの唇動画像を合成することである。本論文では、音声入力により唇動画像を合成する方法として、隠れマルコフモデルを用いた2つの合成手法を提案する。1番目の提案手法は、調音結合の問題を解決するために音素環境が独立な音声HMMを用いてHMMの状態系列を先読みしながら音素環境依存の画像パラメータを生成する。この提案手法は、決定論的な音声認識処理を含むので、合成された画像パラメータは、認識間違いを起こしたフレームで正しくない口形をつくる可能性がある。そこで2番目の手法は決定論的な音声認識の過程を含まずに、期待値最大化アルゴリズム(EMアルゴリズム)を基に音声・画像HMMを使って画像パラメータを推定する方法を提案する。唇動画像の合成実験では、1番めの提案合成法で認識間違いを起こしたフレーム中、特に両唇子音に相当する所で、EMアルゴリズムを用いた提案合成法が有効であることが示される。

9661031 山田 武志 「Hands-free Speech Recognition Using a Microphone Array」

(マイクロホンアレーを用いたハンズフリー音声認識に関する研究)
自然で使い勝手の良い音声インタフェースを実現するためには,実環境下でのハンズフリー音声認識の技術が必要不可欠である.本論文では,マイクロホンアレーを用いたハンズフリー音声認識についての研究成果をまとめる.マイクロホンアレーを音声認識に適用する際には,発話者の方向に正確に指向性ビームを向けることが極めて重要となる.しかし,従来の発話者方向検出法には,雑音や残響が存在する環境下では十分な精度が得られないという問題がある.本論文では,マイクロホンアレーの処理と音声認識の処理を確率的な枠組の中で統合することを考え,3次元ビタビ探索に基づく音声認識法を提案する.3次元ビタビ探索法では,フレーム毎に指向性ビームを対象とする方向に順次向け,特徴ベクトルの方向・フレーム系列を求める.そして,この系列と音声の確率モデルとの間でパターンマッチングを行うことにより,発話者の移動軌跡と発声内容を同時に推定する.

3次元ビタビ探索法の初期評価を行うために,自由空間上で生成したデータを用いて認識実験を行った.その結果,指向性ビームによるSN比の改善量が不十分な場合,認識精度が低下することが分かった.本論文では,この問題に対処するために,音声らしい特徴を有する方向へ重み付けする方法と適応型アレーを用いる方法を導入した.実際の環境で収録したデータを用いて認識実験を行った結果,発話者の位置が固定の場合,発話者が移動する場合共に,高い認識精度が得られることが示された.



9661018 中川雅通 「人物像とパノラマ画像を用いた 実世界情報に基づいた仮想世界の構築に関する研究」

近年、仮想現実感の技術が活発に研究されており、現実の世界を仮想環境に反映させることは、その重要な課題の一つである。

本論文では、実世界の対象の仮想世界への取り込みと、仮想世界での合成、操作に関する研究について報告する。対象として、仮想環境の重要な要素である人物像と背景を考える。人物像に関しては、仮想世界でのコミュニケーションにおいて重要となる顔に重点を置き、顔画像と、その3次元形状を用いて、仮想世界で表情変化、年齢変化等のシミュレーションを行った。

背景に関しては、利用者を取り囲む全周囲のパノラマ画像を、複数台のカメラの画像を接合することにより高解像度で動画のパノラマ背景の取込を行いった。また、背景の形状として全周囲型レーザレンジファインダによりパノラマ距離画像を計測することにより、形状情報を持つパノラマ背景の構築を可能とした。

最後に、人物像と背景のインタラクションを実現するために、画素処理に基づく新しい衝突判定方式を提案し、人物像と背景の融合した仮想環境を構築し、その有効性を検証した。


9661003 大隈隆史 「3次元ユーザインタフェースと拡張現実感を用いた 情報ブラウジング手法に関する研究」

本発表では計算機内のデータやファイルといった情報をブラウジングする環境を構築するために検討した3つの手法について述べる.まず,順序付き階層構造情報を3次元的に視覚化してブラウジングする手法として,階層を3次元の円錐で表現して,各階層のノードを螺旋状に配置するSpiral Treeを提案し,この手法を評価するために行なった実験の結果について述べる.次に,3次元視覚化の提示領域に関する問題をCRTと透過型HMDの併用により解決する重畳表示環境と,この手法の評価実験結果について述べる.最後に,重畳表示環境で問題となった拡張現実環境の位置ずれの問題を解決するための手法として,複数のカメラパラメータ推定手法を切り替えて用いるビデオシースルー型拡張現実環境の実装手法について述べる.


9661006 加藤弘之 「構造化文書データベースの モデルと問合わせに関する研究*」

本発表では,
構造化文書をデータベースで管理する際の以下の二つの点に着目した研究について発表する.
(1) データベースビューとしての構造化文書の構築.
(2) データベースで管理されている他の型の値との統合利用.

(1)に関しては,以下のことについて発表する.
伝統的なデータベース同様,論理的データ独立性維持のため応用に対して,構造化文書をデータベースビューとして定義できる必要がある.よって,この構造化文書ビューの定義手法を論じる.また,ビューに対する問合せ処理について,伝統的な最適化手法が構造化文書固有の選択条件に対してどのように適用されるかを考察する.

(2)に関しては,以下のことについて発表する.
文書中の文字列とその文字列が表すデータベース中の意味データ間に構築されるオブジェクトレベルのリンク機構を有する構造化文書データベースモデルと,そのようなデータベー スに対する問合せについて提案する.このリンク機構を有する文書の概念モデルは,表記文字列が保持される表記層と,表記層における部分文字列が表す意味データが保持される参照層の二つの層から構成されている.このリンク機構により,我々の提案する概念モデルを管理する構造化文書データベースに対して,文書の文字列のみならずその意味に基づく問合せが可能となる.


9661205 Michael Schuster 「On supervised learning from sequential data with applications for speech recognition」

Many problems of engineering interest like for example speech recognition can be formulated in an abstract sense as supervised learning from sequential data, where an input sequence
x_1^T = { x_1, x_2, x_3, ..., x_{T-1}, x_T }
has to be mapped to an output sequence
y_1^T = { y_1, y_2, y_3, ..., y_{T-1}, y_T }.
This thesis gives a unified view of the abstract problem and presents some models and algorithms for improved sequence recognition and modeling performance, measured on synthetic data and on real speech data.

A powerful neural network structure to deal with sequentialdata is the recurrent neural network (RNN), which allows to estimate P(y_t | x_1, x_2, ..., x_t), the output at time t given all previous input. The first part of this thesis presents various extensions to the basic RNN structure, which are

a) a bidirectional recurrent neural network (BRNN), which allows to estimate expressions of the form P(y_t|x_1^T), the output at t given all sequential input, for uni-modal regression and classification problems,
b) an extended BRNN to directly estimate the posterior probability of a symbol sequence, P(y_1^T|x_1^T), by modeling P(y_t|y_{t-1}, y_{t-2}, ..., y_1, x_1^T) without explicit approximations about the shape of the distribution P(y_1^T|x_1^T),
c) a BRNN to model multi-modal input data that can be described by Gaussian mixture distributions conditioned on an output vector sequence, P(x_t|y_1^T), assuming that neighboring x_t, x_{t+1} are conditionally independent, and
d) an extension to c) which removes the independence assumption by modeling P(x_t|x_{t-1}, x_{t-2}, ..., x_1, y_1^T) to estimate the likelihood P(x_1^T|y_1^T) of a given output sequence without explicit approximations.
The second part of this thesis describes the details of a fast and memory-efficient one-pass stack decoder for speech recognition to perform the search for the most probable word sequence. The use of this decoder, which can handle arbitrary order N-gram language models and arbitrary order context-dependent acoustic models with full cross-word expansion, lead to the best reported recognition results on the standard test set of a widely used Japanese newspaper dictation task.

- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - 

「情報系列からの教師付き学習とその音声認識への応用」

音声認識に代表される情報系列の認識問題は工学的に非常に興味深い分野であり、その多くの場合において、入力系列
x_1^T = { x_1, x_2, x_3, ..., x_{T-1}, x_T }
から出力系列
y_1^T = { y_1, y_2, y_3, ..., y_{T-1}, y_T }
へのマッピングを、情報系列データから教師付きで学習する問題としての定式化が可能である。本論文では、種々の問題を一般の情報系列認識問題として統一的に扱う視点に立ち、モデリング性能、及び認識性能を向上させるための枠組みとアルゴリズムについて述べるとともに、これらを擬似的に合成したデータと実際の音声データを用いて評価した結果を示す。

リカレント・ニューラル・ネットワーク(RNN)は、従来のニューラル・ネットワークに対して情報系列を取り扱うのに適した構造を持たせた強力なモデリング手法であり、これにより時刻tまでに与えられた全ての入力情報に対する出力情報出現確率 P(y_t|x_1, x_2, ..., x_t) が推定可能である。本論文の前半部では、基本的なRNNを以下に示す通り様々に拡張したものについて述べる。

a) 双方向リカレント・ニューラル・ネットワーク(BRNN): 最終時刻までの全ての入力情報に対する出力情報出現確率 P(y_t|x_1^T)を推定可能とするものであり、単峰形関数に 基づく回帰、及び識別問題に適用可能
b) 拡張BRNN:P(y_t|y_{t-1}, y_{t-2}, ..., y_1, x_1^T) をモデリングすることによって、出力情報系列の出現事後確率 P(y_1^T|x_1^T)を直接推定可能とするもの
c) 多峰形の分布に従う入力情報に対して、ある出力情報系列の 条件下での出現確率 P(x_t|y_1^T)を、隣接する入力情報 x_t, x_{t+1}が互いに独立と仮定して推定するBRNN
c) c)の拡張として、隣接入力情報間に独立性が仮定できない場合に、 P(x_t|x_{t-1}, x_{t-2}, ..., x_1, y_1^T)をモデリング することによって、P(x_1^T|y_1^T) を近似なしに推定可能なBRNN
また、本論文の後半部では、最も確からしい単語系列を高速に、かつ少ないメモリ量で探索可能な、音声認識用one-passスタックデコーダについて述べる。本デコーダは、任意次数のN-gram言語モデル、及び単語境界音素環境も考慮した任意次数の音素環境依存音響モデルが使用可能で、現在広く用いられている日本語新聞ディクテーションタスクでの評価により最高レベルの性能が示された。


9661015 滝口 哲也 「雑音・残響環境下でのモデル適応化法による ロバストな音声認識の研究」

雑音及び残響環境下においてマイクロホンから離れて発話した場合、音声認識精度は劣化してしまう。それらの影響に対処するために、本論文では従来の音声HMM(Hidden Markov Model)と雑音HMMの合成に加えて、音響伝達特性HMMの合成を試みる。このHMMの各状態を音源位置に対応させることにより、ユーザの自由な場所移動にも対処することが可能になり、ユーザインタフェースの向上が実現される。

音響伝達特性HMMを作成するためには、認識を行なう前にあらかじめ各場所からの音響伝達特性を測定しておく必要があった。しかしながら実際の環境において、あらかじめ音響伝達特性を測定しておくのは非現実的である。そこで本論文では、更にHMM分解法による音響伝達特性HMMの推定方法を提案する。HMM分解法では、ユーザの場所が既知である必要はなく、任意の場所から発話された観測データを用いて音響伝達特性HMMの推定が可能である。このHMM分解法により各々の場所からの音響伝達特性を推定し、HMM合成法により雑音HMM及び音声HMMと組み合わせることにより、対象とする雑音及び残響環境下での音声モデルを作成し、音声認識を行なう。提案手法の評価実験を実際に雑音及び残響環境下にて観測された音声に対して行ない、その有効性を確認した。


9661029 森多 俊之 「Efficient Access Control and Detection of Security Flaws under Authorizations in Object-Oriented Databases」

データベース管理システム(DBMS)においてアクセス制御を実現する方法として様々なアクセス権モデルが提案されている.一般に,アクセス権は「誰がどのデータに対してどのような操作を実行できるか」を表す組の集合として記述される.本研究では,オブジェクト指向データベース(OODB)に対するアクセス権を記述するために実用上十分な能力をもつアクセス権記述言語を定義し,アクセス制御を効率的に実現する方法を提案する.
一方,DBMSがアクセス権を用いてアクセス制御を実施していたとしても,セキュリティフローが起こる可能性がある.セキュリティフローとは「データベース利用者がアクセス権の下で許可された情報のみを用いて,アクセス権で禁止された情報を得る」ことである.本研究では,セキュリティフローを形式的に定義し,OODBインスタンスおよびOODBスキーマに対してセキュリティフローを検出する方法を示す.



9761202 今福 啓 「ハミルトン・ヤコビ方程式をもちいた 非線形制御系における特異性について」

本論文では、特異性をもつ非線形系にたいして、ハミルトン・ヤコビ偏微分方程式の解を必要とする制御系における、2つの特異性について考える。まず最初に、ハミルトニアンを入力に関して最小化できないという特異制御問題である、非線形非標準H∞制御問題を考え、問題が可解となるための十分条件を導く。次に、ノンホロノミックシステムに対して最適レギュレータを構成することを考える。この特異系においては、ハミルトン・ヤコビ偏微分方程式の解がなめらかとはならない。そこで、本論文ではノンホロノミックの一つとして三輪移動体をとりあげ、偏微分方程式の解の概念を拡張し、微分不可能点を持つ大域的な唯一解である粘性解を、動的計画法を用いて求める手法を提案する。粘性解の計算をより高速にするために、ランダム検索をもちいる手法についても提案する。そして、得られた粘性解を微分不可能点を考慮してスプライン関数で近似し、不連続フィードバック則を計算する手法を提案する。さらにこれらの手法を応用し、一つの制御則で障害物を回避するような粘性解の計算法と、外乱をもつ三輪移動体にたいして非線形H∞制御則を適用する際に必要な、ハミルトン・ヤコビ・アイザックス偏微分方程式の計算法についても述べる。最後に、本論文で提案する手法の有効性を、シミュレーションにより評価する。


9661002 大形明弘 「複数の仕様を満足する制御系のLMIを用いた設計法」

複数の仕様を満たす定数状態フィードバックゲイン行列を、LMIを用いて設計する場合、各仕様に対応したLMIの共通解を求めるのが普通である。これは、LMIの共通解を求める問題が凸計画問題に帰着できるためである。しかし、各仕様に対応したLMIが共通解をもつことは、複数の仕様を満たす定数状態フィードバックゲイン行列が存在するための十分条件にすぎない。複数の仕様を同時に満たす定数状態フィードバックゲイン行列が存在するための必要十分条件は双線形行列不等式 (Bilinear Matrix Inequalities) であらわされ、LMIに等価変換することはできない。

本研究では、複数の仕様を満たす定数状態フィードバックゲイン行列が存在するための必要十分条件を直接解くアルゴリズムを提案した。この問題の必要十分条件は、パラメータ空間(LMIの変数の空間)において、ゲイン行列に対応した線形部分空間(同一のゲイン行列を与える変数の集合)が、各仕様に対応したLMIの解集合と、それぞれ交わることである。提案したアルゴリズムは、ゲイン行列に対応した線形部分空間を、各仕様に対応したLMIの解集合と線形部分空間との距離に基づいて探索するものである。対象システムの状態数と入力数がともに1である特別な場合について、アルゴリズムの理論的な解析をおこない、アルゴリズムが必ず収束すること、初期値を解の十分近くに選べば必ず解に収束することを示した。

この結果から、対象システムの状態数と入力数がともに1である特別な場合については、このアルゴリズムによって、十分条件を満たす解が存在しないときにも、初期値を適当に選べば、必要十分条件を満たすゲイン行列を見い出すことができることがわかる。

提案したアルゴリズムが、制御系の設計法として有効であることを示すために、2つの制御対象について数値実験をおこなった。


9661004 岡田正浩 「Studies on Probabilistic Analysis of λ-opt for Traveling Salesperson Problems」

巡回セールスパーソン問題(TSP)は, 古くからよく知られた組合せ最適化問題の一つである. TSPは, NP-困難であることが知られており, 解法として局所探索法や構成的手法などのさまざまな発見的手法が提案されている. 一般に, これらの解法は最適解は保証しないが, 比較的短い時間で良い解を求めることが経験的に知られている. その解法の一つに λ-opt と呼ばれる局所探索法がある. これは各反復で λ 本の枝を入れ換える方法であり, 経験的には多項式程度の反復回数で比較的良い解を与えることが知られている. しかし, 理論的には, 最悪の場合指数回の反復が必要であり, 得られる解についても最適解に対する比が任意に大きくなり得ることが示されている. しかし, 実際の問題においてそのようなことが起こることは非常にまれである. そこで, 実際的な性能の解析を可能とする理論的な枠組みが求められている.

本論文では, 確率的手法を使い λ-opt の実用性を明らかにする. まず,2-opt の計算モデルを提案し, その解析を行なう. 提案する確率モデルにより, 2-optの平均的性能を表す理論的枠組が与えられ, また2-optの動的なふるまいの予測が可能となる. 次に, λ-opt の反復回数が高い確率で多項式となること, 反復回数の平均が多項式となることを証明する. 具体的には L1ノルムで定義されている問題に対する λ-opt, および3次元以上のユークリッド距離で定義される問題に対する 2-opt のそれぞれについて証明を行なう.


9661022 新妻弘崇 「非線形力学系による組み合わせ最適化問題の解法」

2次割当て問題は,非常に困難な組合せ最適化問題の1つである. 2次割当て問題は,その特殊な場合として巡回セールスマン問題,最大クリーク問題などを含んでいる. 2次割当て問題の良い近似解を得られる手法としては,タブーサーチや遺伝的アルゴリズムなどがある. 本研究では,これらの手法よりも良い近似解,または同程度の近似解を計算できる手法を提案した. この手法は,ニューラルネットワークとlambda-optヒューリスティクスと呼ばれる手法を融合した手法である.

また,カオスニューラルネットワークに基づく組合せ最適化問題の解法を線形な座標変換によって改良する手法も提案した. この手法を既に提案されているカオスニューラルネットワークに基づく手法に適用すると,カオスニューラルネットワークが,より多くの局所最適解を発見できるようになる.

情報科学研究科 専攻主任