Abstracts of Doctor Thesis 1997

平成9年度 情報科学研究科 博士学位論文内容梗概


最終更新日:1997年12月18日

9661020 中平 佳裕

「光スイッチング技術を用いたネットワークの構築に関する研究」

本論文に於いては、近未来の基幹通信網の物理層の機能を提供する装置として 期待される、光クロスコネクトと光ATMスイッチのシステム構成と運用方法に 関して検討している。 具体的には、必要な機能・性能の条件を定め、これを満たすシステムを構築す る際に、装置に実装すべき光スイッチング素子数を評価している。提案する構 成は単に部品数が少ないだけでなく、過去に提案された様々な方式の長所を取 り込むことも目標としている。光クロスコネクトに関しては、網に設定する光 波パス(2ノード間に設定される光信号によるコネクション)の配置を工夫し、 波長変換器数と波長合分波器数を最小とすることを目指している。光ATMに関 しては、スイッチ形式、セル方路切替え手段、メモリの実現方法をパラメータ として複数設定し、比較検討している。

9561002 荒木 昭一

「複数物体の輪郭抽出・追跡を目的とした分裂・統合型動的輪郭モデルとその応用」

画像の認識・理解には,画像からの対象物の抽出・追跡処理が不可欠 である.本研究では,複数物体の抽出・追跡技術の確立を目的として, エネルギー最小化原理に基づく輪郭抽出・追跡の手法である動的輪郭 モデルの機能を拡張する.第1に,面積項の最小化による収縮型の輪 郭モデルが自己交差を起こす挙動に着目し,輪郭モデルを自己交差部 分で分裂させる分裂型輪郭モデルを提案する.第2に,複数の移動物 体にオクルージョンが起こるような場合にも追跡が可能な手法として, 輪郭モデルの相互交差を検知して統合する分裂・統合型輪郭モデルを 提案する.提案手法の有効性を示すため,DSPボードを用いた複数移 動物体の実時間追跡結果および2つの応用例を示す.

9661028 村山 公保

「TCPの性能評価・実装検査・性能改善に関する研究」

TCP (Transmission Control Protocol)は,インターネットでもっとも重要な トランスポート・プロトコルに位置付けられている.しかし,TCPはあらゆる ネットワーク環境に適応できるような完全なプロトコルではない.そのため, 数多くの研究が行われ,プロトコルや実装の修正や拡張が行われてきた.本発 表では,現在のTCPプロトコルに残されている重大な問題であるTCP短期デッド ロック問題を中心に議論する.これは,TCPの確認応答処理に不備があるため に発生する.この問題が連続的に発生すると,セグメントが間欠的にしか転送 されなくなり,スループットが極端に悪化する.しかし,現在までに,副作用 のない解決策は提案されておらず,早急な解決が望まれている.本研究では, 従来の改善策とは異り,TCPのデータ転送モデルを重視することで,副作用の ない改善策を提案する.さらに,本提案を実装し,検証実験を行った結果につ いて述べ,本研究の提案の有効性を証明する.

9561026 知念 賢一

「Internet における大規模情報提供と情報取得の高速化に関する研究」

Internet が広く普及し、新たな通信基盤として注目されている。Internet を 利用することで世界の多くの利用者への情報提供が可能となる。そして、他の 通信基盤と同様に、Internet における情報提供では、同時に多数の利用者へ 提供を行う大規模情報提供や、高速な情報取得の実現が望まれている。 本研究では、最初にマルチメディア情報の大規模提供として、全国高等学校野 球選手権大会をライブ中継するシステムを構築し、Internet における大規模 情報提供の可能性を模索した。次に高速な情報取得を実現するために先読み代 理サーバを開発した。 本発表では、情報提供からみた Internet の問題点、大規模情報提供実験、そ して先読みによる情報取得の高速化について報告する。

9561029 土居 元紀

「顔画像照合による解錠制御システム」

本論文は,実用的な顔画像照合による解錠制御システムの実現を目的に, 解錠制御システムに適応するように,顔に生じる各種変動を考慮して顔 画像照合処理を構築し,実際にシステムを試作した成果をまとめたもの である.顔画像照合処理では,目頭検出による精度の高い顔領域の大き さ・傾きの正規化を行い,また,目・鼻・口といった特徴的な顔部品を 照合対象として,変動しやすい部分や偽証しやすい部分を照合領域から 排除した.本人か他人かを決定するしきい値は統計的に決めた.照合性 能の評価実験を行った結果,本人の入室許可が92.2%,他人の入室拒否が 99.6%という照合成功率を得た.そして,実証実験では,経年変化や化粧 などの影響および使用感などを検討した.

9661009 黒田 知宏

「アバター型手話伝送に関する研究 --- 手話伝送システム S-TEL ---」

現在各家庭まで敷設されている電気通信ネットワークは音声の伝送を主な目的として いるため、健聴者と聴覚言語障害者がこれらから受ける恩恵の差はますます開いてき ている。そこで、本論文では各種動作技術とVR技術を利用し、遠隔地間での手話会話 を媒介する、全く新しい手話伝送方式を提案した。本方式では、人体計測技術を用い て計測した発話者の骨格情報を伝送し、受話者側に発話者と全く同じ動作を行うアバ ター(avatar)を提示することで、手話会話を実現する。これにより、手話の言語・非 言語情報を損なうことなく情報量の削減を実現すると同時に、受話者に不快感を与え ることなく送話者のプライベートな生活情報を隠蔽することが出来る。本論文では、 このアバター型通信方式の三つの要素技術について述べた。また、衛星通信を使った 遠隔地間手話会話実験を行い、本方式を用いたシステムが、テレビ電話と比較して充 分少ない通信量でより高品位な手話を伝送できることを実証した。

9561207 庄境 誠

「加法性雑音および乗法性歪みが存在する自動車環境下でのロバストな音声認識に関する研究」


9561210 H. Singer

「Acoustic Modeling for Speech Recognition」


9561043 R. I Azam

「Studies on Quasi-Newton Methods for Nonsmooth Convex Optimization」

We study the optimization of a nonsmooth convex function and propose an implementable BFGS method for solving a nonsmooth convex optimization problem by converting the original objective function to a once continuously differentiable function by way of Moreau-Yosida regularization. The proposed method makes use of approximate function and gradient values of the Moreau-Yosida regularization instead of the corresponding exact values. We prove global convergence of the proposed method under the assumption of strong convexity of the objective function. We also report the results of some numerical experiments with the proposed algorithm.

9561032 丹羽 忠夫

「バッチ生産システムのインテリジェント化に関する研究」


9561010 大森 洋一

「オブジェクト指向に基づく並列化コンパイラフレームワークの研究」

オブジェクト指向設計法 OMT の並列化コンパイラへの応用を試みた. フロントエンドに関しては,従来の設計法と互換性を保つように, データフローの一種である,ストリームを用いて分析した. また,並列化のための基盤として,階層的タスクグラフと抽象化された アセンブラの組合せによる中間表現を提供する. 内部フェーズは,テンプレートの利用により,可読性と保守性の向上を 図った.%37 プログラムの並列度に関する情報は,並列性についての階層に依存しない クラスとして抽出した. この中間表現を利用して,ループ並列化を中心としたバックエンドを 作成し,設計の妥当性を検討し,フェーズの実行順序や並列化アルゴリズムの 追加が容易にする手順を示す. さらに SUIF コンパイラ (スタンフォード大学) と比較した結果,クラスの 独立性やモジュール化の面での向上がみられた. 最後に,こうした結果を有効に活用するためのフレームワークを提案する.

9561030 中西 恒夫

「分散メモリ型並列計算機のための自動並列化コンパイラに関する研究」

本論文では,現在の自動並列化コンパイラの標準的な中間表現である依 存グラフに,データの格納先たるプログラム中の変数とそれらへのアク セスを表す節点と枝を追加した,有向グラフによる自動並列化コンパイ ラ中間表現,データ分割グラフを提案する.また,データ分割グラフを 中間表現として用い,データの分割配置とプログラム分割を同時に最適 化するアルゴリズム,$CDP^2$ アルゴリズムを提案する.データ分割グ ラフと $CDP^2$ アルゴリズムにより,いわゆる超並列計算機の主流で ある分散メモリ型並列計算機において重要なデータの分割配置ならびに 転送の最適化を行うプログラム変換手法と,依存グラフを中間表現とし て用いてきた既成プログラム変換手法との統合が可能となり,両者の間 でしばしば生じる干渉の問題が解決されることが示された. さらに,本論文ではループの最小並列実行時間を算出する手法を提案し, その実装と評価を行う.並列性が多く検出されるループには様々のプロ グラム変換手法が施され,しばしばそれらは干渉する.個々の,あるい は一連のプログラム変換手法の適用効果を一元的かつ定量的に評価する 本手法により,プログラム変換手法の干渉を回避することができる. Livermore ベンチマークを用いた提案手法の評価では,提案手法は DEC3000 において 1 秒前後でその処理を完了する実用的なものであっ た.

9561009 大石 亨

「Semantic Structures of Japanese Verb Phrases --- Acquisition, Representation and Use --- 」

This dissertation attempts to enlarge the scope of the lexicon so as to contain large number of constructions with specialized meaning, which we call Semantic Structure. In particular, we explore semantic structures of verb phrases because they play a central role in understanding simple sentences. We discuss three topics on semantic structures of Japanese verb phrases: -- How to acquire the relevant knowledge automatically -- How to represent the acquired knowledge systematically -- How to use the represented knowledge effectively

9561038 前田 晴美

「日常記憶の共有支援に関する研究」

本研究の目的は、人間が日常生活で思いついたことや、身のまわりにある情報 を整理して、他人と共有することを支援するシステムを構築することである。 本論文では、人間が日常生活のなかで出会う雑多なものごとの記憶を日常記憶 と呼ぶ。 本研究では、日常記憶を記述するために、「弱い情報構造」とよぶ、多様な情 報メディアを、関連の意味を定義することなく関連づける情報表現を提案する。 日常記憶の共有を支援するシステムCoMeMoの試作を行い、テストケースとして、 (1) 既存の情報源の情報整理支援と、(2) 国際会議における情報共有支援に適 用して実験的な評価を行った。また、(3) 人間がどのように弱い情報構造を生 成し、理解するか実験を行った。 この結果、弱い情報構造が、背景知識を共有する人間集団の間で、日常記憶を 共有するために記述しやすく理解しやすいことが示唆された。また、弱い情報 構造を用いて日常記憶の共有を支援するシステムを構築可能であることがわかっ た。

9561005 今一 修

「An Integrated Robust Parsing using Multiple Knowledge Sources」

自然言語処理システムを実用的なものにするためには,文法的に適格な文だけでは なく,文法的に不適格な文も処理できるようなシステムを構築する必要がある.こ れまでに文法的不適格文を処理するための様々な手法が提案されているが,それら の多くは,統語的な情報だけを利用したものや,意味的な情報だけを利用したもの など,一部の不適格性を対象にしたものがほとんどであった.より柔軟に文法的不 適格文を処理するためには,統語・意味・文脈情報を統合的に利用することが必要 である.これらの情報は言語情報に属するものであるが,近年では,大規模コーパ スの普及により,文法知識や語彙知識を統計的に獲得することが可能になっている. 本論文では,統語・意味・文脈情報などの言語情報だけではなくコーパスから獲得 される統計情報も利用する統合的な解析手法を提案する.

9561211 W. R. Hogenhout

「Supervised Learning of Syntactic Structure」

This thesis discusses methods for learning from natural language sentences that have been annotated with syntactic information by hand. We discuss methods for parsing (i.e., carrying out syntactic analysis automatically), for learning natural grammars and for word clustering based on syntactic context. In particular we look at how statistical parsing with a grammar can be improved, how automatic induction of natural language grammars can be carried out faster, how HMM models can be used to carry out parsing, how syntactic context can be extracted for clustering purposes and how this clustering can be used to improve parsing.

9561208 竹内 孔一

「Building Morphology-Based Statistical Models for Japanese Language」

英語のように単語間に空白を挿入する言語では、単語を基本とした統計的モデルを 構築し、有益な結果が得られている。しかし、日本語テキストのように、わかち書き されない言語ではこれらの手法を直接用いることはできない。そこで、 隠れマルコフモデルを用いた統計的形態素解析システムを構築して日本語テキスト における2つの問題に関して研究を行った。 1つは形態素解析の精度の向上に関する研究である。ここでは構築した統計的形 態素解析システムの精度が人手で整備されている形態素解析器の精度を上回る精度を 得たことを示す。もう一方はOCR誤り訂正に関する研究である。ここでは、 統計的形態素解析システムを利用した訂正システムが疑似誤りテストデータならびに 実際のOCRの誤りデータを改善することを示す。 これらの結果から、日本語のようにわかち書きされない言語において、 統計的形態素解析システムを適応したモデルが大変有効であることを示す。

9561019 鈴木 伸崇

「Specialization Constraints for Object-Oriented Databases Supporting Selective Inheritance and Backward Navigation」

オブジェクト指向データベースにおいて,SC(specialization constraint)と いう経路式に関する型制約が提案されている.本論文では,SCに関する3種の 問題,データベーススキーマの整合性,推論問題,および,経路式の航行可能 性,について考える.この3問題を,選択的継承を可能とした場合,および, 経路式が逆方向の航行を含むとした場合のそれぞれに対して考察し,以下の結 果を示す.まず,データベーススキーマの整合性を判定する多項式時間手続き を示す.次に,推論問題に対する完全な公理系,および,推論問題を解くため の多項式時間手続きを示す.最後に,経路式の航行可能性の決定に関する完全 な公理系,および,与えられたクラスに関して経路式が航行可能であるかどう かを決定する多項式時間手続きを示す.

9561025 田中 将義

「衛星通信システムの高性能化に関する研究」


9761007 佐和橋 衛

「ディジタル移動通信における広帯域・高能率信号伝送の研究」


9561024 田中 猛彦

「A Study on Security Verification of Real-time Cryptographic Protocols」

暗号プロトコルの安全性を,数学的,論理的に議論する方法として,形式的検 証法が提案されている.しかし従来の検証法では,タイムスタンプといった時 間の概念に対してほとんど注意が払われていない.本論文では,時間の概念を 含む暗号プロトコルを対象として,その安全性の形式的検証法を提案する.具 体的には,条件付き項書換え系を用いて,時間の概念を含む暗号プロトコルを 形式的に記述するための枠組と,その記述に対して安全性を判定する手続きを 与える.形式化において時間は定量的に取り扱われる.そのため,BAN 論理に よる検証法で安全であると判定された暗号プロトコルについて,提案する検証 法を用いて検証したところ,安全でないことをその攻撃方法とともに示すこと ができた.さらに,より実用的な認証プロトコル Kerberos を検証し,実際的 な使用環境の下で安全であることを示した.

情報科学研究科 専攻主任