ゼミナール発表

日時: 11月15日(水)3限 (13:30-15:00)


会場: L1

司会:奥田 助手
冨本 隆 応用システム科学講座 杉本 謙二
発表題目:論文紹介 "Turning Heterogeneity into an Advantage in Overlay Routing" (Z. Xu, M. Mahalingam and M. Karlsson, INFOCOM2003)
発表概要:分散ハッシュテーブル(DHT)を用いたP2Pネットワークは,自律的かつ耐障害性のあるアプリケーションレベルネットワークを提供する.DHTは従来のフラッディングを用いた検索手法と比較して検索効率は高いが,物理ネットワークを考慮しないため転送遅延が増加してしまう.本論文ではDHTの転送遅延を減少させるために,高性能なノードのみが参加する補助ネットワークを構築して,DHTと併用する手法を提案している.本論文でのアプローチを踏まえ,今後の研究方針について述べる.
 
足立 直樹 情報コミュニケーション講座 岡田 実
発表題目:マルチホップ無線ネットワークにおける複数経路を用いたスループット向上に関する研究
発表概要:近年、パケットをリレー式に伝送していくマルチホップ無線ネットワークが注目を浴びている。携帯端末における大容量データ通信の需要が高まる中、現在のセルラーシステムでは端末の消費電力や収容ユーザ数などの点で実現が困難だと考えられている。そこで、移動体通信へマルチホップ通信を適用することを検討しており、現在までさまざまな研究が行われている。マルチホップ通信は、パケットの中継により到達距離は伸びるがパケットを中継する度に遅延が発生するため、結果としてスループットが低下するという問題がある。本研究では、複数経路を用いたパケット伝送により、マルチホップ通信におけるスループット向上を実現するために、経路数、ホップ数が他ユーザの通信に与える影響を考慮した複数経路生成手法について検討する。
 
石田 達也 情報コミュニケーション講座 岡田 実
発表題目:論文紹介“A Framework for Software-Defined Digital Terrestrial Television(DTTV)”
発表概要:近年のDSP,FPGAやA/D,D/A変換器などのデバイス技術の発展に伴なって、従来の無線信号処理装置をソフトウェア的に実現するソフトウェア無線技術の研究が盛んに行われている。この論文では、米国の地上波デジタル放送規格(ATSC)において、無線伝搬環境の厳しい室内と移動体の受信環境を考慮していない問題点があることを述べている。また、この問題点を解決するためにソフトウェア無線技術を利用したATSC信号の受信機及び、受信したATSC信号を室内や移動体向けに効率良く再送信する中継機を実装するアイデアが提案されている。本発表では、論文紹介に加えて、今後研究として進めていく車載用ソフトウェア無線機の研究・開発との関連性について述べる。
 
小松崎 洋輔 情報コミュニケーション講座 岡田 実
発表題目:OFDM受信機におけるガード区間を越えるマルチパス波のキャンセル機能を有するダイバーシチ受信手法
発表概要:地上デジタルテレビ放送の移動受信では、マルチパスフェージングが受信品質に大きく影響する.受信品質改善の一手法としてダイバーシチが用いられている.ダイバーシチ受信は、マルチパスフェージングによる受信信号レベル低下により、受信品質が劣化する問題を解決する有効な方式であるが、OFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplex)のガード区間を超えるマルチパス遅延広がりによる波形ひずみに対する補償効果は無い。本研究では、長距離からの到来波による波形ひずみを補償するために、OFDM信号の周期定常性を用いてダイバーシチ重みを導出する方法を検討する。
 
勝間 亮 ソフトウェア基礎学講座 伊藤 実
発表題目: 可動ノードの導入によるセンサネットワークの省電力ルーティング方式の提案
発表概要: 近年,広域に設置された多数の小型センサノードが無線通信により相互通信する ことで環境情報の収集やオブジェクトの追跡などを行うワイヤレスセンサネット ワーク(WSNと呼ぶ)およびそのアプリケーションが注目されている.一般に, センサノードはバッテリー駆動で長期間の動作を要求されるため,計算パワーは 貧弱であり,また,センシング,通信のための電力も限られていることが多い.WSN のより長期間の動作を可能にするために,これまで様々な省電力化方式が提案さ れている.本研究では通常用いられる静止ノードに加え,駆動系を備えた可動ノー ドを一部導入し,可動ノードを適切な位置に移動させることで,既存方式より広 いセンシングエリアとより長期間のWSNの動作を実現する方法を提案する.最適 な可動ノードの移動先とデータを収集する際の経路を求める問題は組合せ最適化 問題であり,大規模WSNに対し最適解を実用時間で得ることは不可能である.発 表では,本問題を定式化し,近似解を遺伝的アルゴリズムやSimulated Annealingなどの近似的手法で計算する方法について述べる.
 
高道 慧 情報コミュニケーション講座 岡田 実
発表題目:衛星通信用P-P形伝送信号重畳における拡張マッチドフィルタを用いた伝搬遅延時間高精度推定方式
発表概要:衛星通信の周波数有効利用効率を大幅に改善する手法として、Inbound信号とOutbound信号を同じ周波数帯域に配置し、受信機で自局が送信した干渉をキャンセルする伝送信号重畳方式が有効である。しかし、本方式では、送信信号が衛星を経由して受信されるまでの伝搬遅延時間を極めて高い精度で推定する必要があり、実現が困難であった。特に、自局と相手局の受信信号レベルがほぼ同じレベルであるP-P形(Peer-to-Peerコネクション)衛星通信システムでは、自局の信号を復調した後に、送信信号と比較して伝搬遅延時間を推定する従来手法を適用することができない。そこで送信信号レプリカと受信信号との短区間相互相関関数を測定し、そのピークを検出することで自局の信号を復調することなく伝搬遅延時間の高精度推定を行う方法を提案する。提案方式では、拡張マッチドフィルタ(EMF:Extended Matched Filter)を用いて効率的に相互相関を求めることを可能にしている。本発表では、提案方式の動作原理を明らかにする。
 

会場: L2

司会:井村 助手
太田 久美 音情報処理学講座 鹿野 清宏
発表題目:声質表現語に基づく固有声変換法の提案と予備的検討
発表概要:ある話者の声質を別の話者の声質へと変換する技術として,声質変換(VoiceConversion: VC)がある. VCの新しい枠組みとして,戸田らは固有声変換法(Eigenvoice Conversion: EVC)を提案した. この手法では,声質を制御するベクトルの重み付けを変化させることにより,出力声質を制御することが可能となる. 本研究では,ある特定の話者から任意の話者へと変換する際にEVCを適用する. EVCでは,声質を制御するためのベクトルとして固有ベクトルを用いているため,どのような声質を示すのかわからないという問題点がある. そのため,男性的,女性的や澄んだ,かすれた等の声質を表す表現語(声質表現語)を用いることで,ユーザにわかりやすい指標で制御できるようにする必要がある. そこで,本研究では,声質表現語に基づく固有声変換法を提案する. 提案手法では,初めに,種々の声質表現語のスコアを各学習話者に対して設定しておく. 次に,全学習話者のスコアが声質表現語を示すベクトルで表現されるように,ベクトルを推定する. これにより,声質表現語を示すベクトルの重み付けで所望の声質が制御可能となることが期待される. 本発表では,予備実験として提案手法による合成音の作成を行ったため,その結果を報告する.
 
太田 ふみ 自然言語処理学講座 松本 裕治
発表題目:敬語表現の認識・分類の自動化
発表概要:日本語において,待遇表現は大きな特徴の一つである.待遇表現とは,場や人間関係に配慮した表現のことであり,話し手は,常に状況に合わせた表現を選択する.中でも敬語は,社会生活に不可欠であり且つ運用が難しいため人々の関心は高く,自然言語処理技術の応用による敬語学習支援システムの実現や,翻訳・言い換えでの敬語文生成が期待される.また,敬語表現には,話し手の立場や感情,主体情報等の多くの情報が内在しており,これらの情報を抽出できれば有用であると考えられる.このような敬語処理のためには,まず,敬語表現を認識し分類する必要がある.本発表では,敬語表現の適切な分類とその自動化を提案し,試作中のシステムを紹介する.また,今後解決すべき課題に注意を向ける.
 
大西 良明 自然言語処理学講座 松本 裕治
発表題目:含意関係認識に向けての動詞句分類
発表概要:「会議を開く」と「ミーティングを始める」のように、表層的には異なるにも関わらず同一の表現をもっているものを「同義性がある」という。この同義性を認識することは情報検索をはじめとする、自然言語処理のあらゆる分野で必要とされている。本研究では「AをBする」のような、名詞と動詞の組み合わせを一つの単位とし、それらを含意する上位概念を獲得し、それにより同義性の認識を目指す。本発表では、その予備実験として、辞書の定義文を用いて動詞の語レベルでの分類を行っての含意関係獲得を紹介する。
 
岡本 英樹 音情報処理学講座 鹿野 清宏
発表題目:非可聴つぶやきを用いた話者照合の高精度化についての検討
発表概要:身体的特徴によって本人確認を行うバイオメトリクス認証技術は近年,あらゆる場面で実用化され始めている.その中でも音声による話者照合はユーザーの心理的な負担も少なく手軽な個人認証手段として,またセキュリティを少しでも高めたい場合の補助手段としてその需要は今後ますます高まっていくと考えられている.しかし,通常の音声でパスワードを発声すると周囲に漏れ聞こえてしまう恐れが懸念される.そこで本発表では他人には聞こえない非可聴つぶやき(Non-Audible Murmur:NAM)を入力音声とする話者照合についてその手法や今後の課題について述べる.また,時間経過に伴う音声の変動への対処に関する実験結果も報告する.
 
笠井理恵 システム制御・管理講座 西谷 紘一
発表題目:プラントアラームシステム評価のためのオペレータモデルの開発
発表概要:近年,工業過程の複雑化に伴い,プラントの自動化が進んでいる.そのためプラント運転では,普段は多くの作業を機械が行い,オペレータはそれを監視するという形態であるが,異常が発生した場面での判断は依然人間のオペレータが行っている.そこで,人間のオペレータへ状態量の異常を警告するプラントのアラームシステムが,適切に設定されているかを評価することが必要となる.本研究ではアラームシステムの評価を目的として,既存のオペレータモデルを基に,異常発生時における状態の時間的変化を考慮したオペレータの判断を模擬するモデルの開発を行う.本発表ではオペレータモデル開発を行った先行研究を紹介し,今後の研究予定を述べる.
 
倉持 雄一 ロボティクス講座 小笠原 司
発表題目:レーザー距離センサ、ステレオ・単眼カメラの統合による人の発見・姿勢検出・状態解釈の研究
発表概要:自律移動をするロボットが人の行動・状態解釈を行うためには、 まず人の発見と位置・姿勢の推定が必要となる。これに関する先行研究例 として、ステレオカメラを用いた三次元ブロブ検出、レーザスキャンを 用いた歩行者追跡、およびPIAconsortium(People Image Analysis ,CMU)による人の姿勢推定がある。本研究では、これら先行研究の統合から問題解決を目指す。本発表では、先行研究の概要と、それらを踏まえた今後の予定について述べる。
 

会場: L3

司会:小林 助手
浅野 卓也 生命システム学講座 作村諭一
発表題目:論文紹介 Guy C. Brown, Boris N. Kholodenko. "Spatial gradients of cellular phospho-proteins", FEBS Letters 457 (1999) 452-454
発表概要:膜付近に Kinase がリクルートされるなどして局在化しているとき,リン酸化されることで活性化するシグナル分子は,空間的な gradient(勾配) をつくる. Michaelis-Menten式(Temporal dynamics)に拡散(Spatial dynamics)を加えた偏微分方程式によりこの酵素反応をシミュレーションすると,この仮定に従う,リン酸化シグナル分子の時空間的な挙動がプロットできる. これによると,リン酸化シグナルの空間的な gradient は非常に急になりうることが分かった. ここでは,この gradient の意味,そして現在の研究テーマであるシグナル分子の specificity(特異性) との関連性について議論する.
 
山尾 将隆 生命システム学講座 作村諭一
発表題目:論文紹介 "A bio-chemo-mechanical model for cell contractility", Vikram S. Deshpande, Robert M. McMeeking, and Anthony G. Evans, Proc Natl Acad Sci, (2006)
発表概要:細胞移動や軸索伸長のモデル研究では,生化学反応系(signal cascade)を用いてその多くがなされている.しかしながら,細胞体−細胞外基質の接着部位や一部のイオンチャネルなどは機械的刺激に応答し,signal cascadeの活性化やチャネルコンダクタンスの変化をもたらす.このため物理的な要因を無視してモデルをたてることは得策ではない.細胞骨格の粘弾性等,力学的な側面からモデルを作る手法も提案されているが,それら双方を包含したモデルは未だ見あたらない.ここでは,細胞の収縮に関して化学シグナル及び力学的特性を含むモデルを提案している論文を紹介する.
 
佐藤 友美 論理生命学講座 石井 信
発表題目:他者の行動予測を用いた意志決定モデルの提案
発表概要:近代経済学では,取引に関与する全ての主体は合理的であると仮定することで経済現象を説明する.すなわち,各行動主体は自身の利得を最大にするよう 行動するため,外部からの拘束なしに最も合理的な平衡状態が達成される.合 理性の仮定と市場原理に基づく理論は,大局的な経済現象や人間の振る舞いを うまく説明するモデルとして長く支持されてきた.一方で,個々の人間は必ずしも 合理的な行動を取らないことが,行動経済学の分野において示唆されている.近 年,神経科学の手法を用いて人間の非合理行動を解明しようという試みがなされ ている. 本研究では,従来の理論では非合理的とされる人間の意思決定は,協調・競合 する相手へ適応した結果であるという仮説を検証する.人間は,日常的に他者 の心情を推し量ることで自身の行動を適応的に変化させ,多様なコミュニケーシ ョンを成立させている.先行研究で行われた認知実験により,ヒトは未知である 環境モデルを学習によって獲得し,そのモデルを用いた予測に基づいて行動 選択を行うことが示されているが,複雑な人間同士の関わり合いの中で適応的 な行動を取るために,ヒトは個別の他者についてのモデルも獲得していると考 えられる. 本発表では,研究背景や動機について詳しく述べ,関連する先行研究を紹介し, 行動実験およびfMRIを用いた脳画像解析を含めた今後の研究方針を報告する.
 
竹田 和博   論理生命学講座 石井 信
発表題目:ドーパミン細胞の活動とそのモデルの研究
発表概要:大脳基底核は報酬に基づく行動学習に関係する事が古くから知られており、中でも、ドーパミン(DA)細胞の活動が報酬予測誤差に対応していると言われている。この事は、サルに学習タスクを行わせている際のDA細胞の活動が、サルの学習に対応して発火率が変化することから明らかであり、この現象が強化学習理論の1つの学習法であるTD誤差を用いて説明出来る事が示唆されている。しかし、ドーパミン細胞の活動はTD誤差では説明できないという主張もされている。本研究では、新しいモデルの提案を目的とする。