「中枢神経系におけるトランスポーターの多様な機能」
トランスポーター(膜輸送蛋白)は、細胞膜に存在する膜蛋白で、単細胞生物においては栄養分の吸収、老廃物の排泄などの細胞膜の内外での選択的な物質の輸送機能を担ってきた。多細胞生物に進化していく際、それぞれの器官が役割を分担していく過程でトランスポーターも様々な役割を担うようになった。本講義では中枢神経系におけるトランスポーターの機能について解説する。神経系には様々な種類のトランスポーターが存在し、数種類の遺伝子ファミリーを形成している。これらのトランスポーターの機能としては、シナプスにおいて神経終末から放出された神経伝達物質を再取り込みして、神経伝達を終了させる機能、細胞外のグルタミン酸の濃度を興奮性神経毒性の生じないように調節する機能、細胞外の浸透圧変化に応答して細胞内の浸透圧を調節する機能等が存在する。この様なトランスポーターの機能は精神・神経疾患とも密接に関わっている。トランスポーターはうつ病の治療薬である三環系抗うつ剤や麻薬のコカインの脳内の標的分子でもある。また、神経変性疾患を引き起こす選択的神経毒素の標的分子でもある。さらに、脳浮腫、脳虚血、腎障害、肝障害等様々な疾患において脳の浸透圧が変化に曝される際に、神経細胞を保護する機構として、細胞内外の浸透圧バランスを保つトランスポーターが存在する。本講義ではこれらのトランスポーターの様々な役割を、我々の研究データを交えて紹介する。
(キーワード)ドーパミントランスポーター、コカイン、MPTP、ミオイノシトールトランスポーター