シナプス可塑性における拡散に基づいたカルシウムシグナルの局所分子制御

本田直樹 (0351156)


脳における膨大な数の神経細胞は複雑な神経回路網を形成し、電気的な神経活動によって互いに相互作用している。神経細胞同士が結合しているシナプスでは、“シナプス可塑性”と呼ばれる電気信号の伝達効率の変化が起こる。海馬や大脳皮質でのシナプス可塑性は、NMDA受容体から細胞質へカルシウムイオン (Ca2+) が流入し、シグナル伝達経路に影響を与えることにより誘導される。そのシグナル伝達経路のタンパク質は細胞膜直下の領域に高密度に局在していることから、空間的な分子制御がシナプス可塑性の理解にとって重要である。しかしながら、シナプス可塑性とCa2+シグナルにおける空間局所的な反応や分子拡散の効果との関係については調べられていない。本研究では計算機シミュレーションを用い、Ca2+シグナルにおける空間的な効果がシナプス可塑性に与える影響について調べた。ここで明らかになった空間的効果により、様々な現象を統一的に説明することができる。さらに、従来仮説は空間的要素を無視しているため、副次的な現象しか見ていなかったことについても述べる。