科学技術振興調整費プログラム中間成果報告資料 課題名:奈良先端大蛋白質機能予測学人材養成ユニット 平成15年9月26日(金) 様式1 人材養成計画の趣旨・概要 【人材養成計画の趣旨】  バイオインフォマティクス分野等の新たな研究領域を担う研究者、技術者の養成のため には、主導的な研究教育機関を機動的に整備することが重要である。奈良先端科学技術大 学院大学は、先端科学技術分野における高度な基礎および応用研究を推進するとともに、 先端科学技術分野の研究開発に携わる人材を組織的に育成することを使命としている。ま た、学部を持たない大学院大学であるという組織の機動性を生かし、先端科学技術分野間 の融合領域の教育研究に積極的に対応していくことも本学の重要な課題である。こうした 背景の下、バイオインフォマティクスの教育研究を推進するために、情報科学研究科及び バイオサイエンス研究科の組織を再編し、平成14年度に情報科学研究科内に情報生命科学 専攻を設置し、博士前期課程および後期課程の教育を開始した。  情報生命科学専攻は、ゲノム情報科学、ゲノム機能解析、蛋白質構造機能解析の3つを 研究教育の柱としている。その組織は大講座制であり、2基幹講座(教育研究領域)、すな わちバイオ情報学領域および構造機能ゲノム学領域、さらに1客員講座、すなわちゲノム 情報学講座より構成されている。バイオ情報学領域は、3つの教育研究分野、すなわち、ポ ストゲノム研究を支える基盤技術である「データベース学」分野、生命体の様々な現象を 情報システムとして研究し、システム生物学への展開を図る「論理生命学」分野、ミクロ からマクロまでの生命現象の計測手法の開発から医療面への応用を図る「生命機能計測学」 分野から構成される。また、構造機能ゲノム学領域は、蛋白質構造機能解析を行う「構造 生物学」分野、ゲノム機能解析から細胞システムの解明を目指す「システム細胞学」分野、 ゲノム・遺伝子の進化・多様性の原理の解明を進める「比較ゲノム学」分野から構成され る。  一方、バイオインフォマティクス分野は現在急速に発展している分野であり、1大学のス タッフのみでは必要な全分野の教育をカバーすることが困難であることも否めない。その ため、客員講座に加えて、学内措置で運営している「民間機関等との連携による大学院教 育」(連携講座)、すなわち生体膜情報学講座(産業技術総合研究所との連携)、計算神経科 学講座(国際電気通信基礎技術研究所との連携)、などを活用し、基幹6講座ではカバーで きない研究分野については学内外の関連研究者との連携による教育を推進している。  こうした本大学院大学におけるバイオインフォマティクス教育研究体制の整備の一貫と して、ゲノム創薬などの産業応用を考える上でも重要である蛋白質機能予測に関する教育 研究の充実を図るために、科学技術振興調整費による人材養成ユニット設置の申請を行い、 採択されたものが、「蛋白質機能予測学」講座である。本講座はその設置主旨から、情報生 命科学専攻の教育研究体制の迅速な立ち上げへの寄与が第一の責務である。また、蛋白質 機能予測学に関する専門的な教育を講座において行い、修士及び博士を養成することが第 二の責務である。大学院学生の教育において研究室での研究活動が大きな比重を占めるた め、質の高い教育を行うためには、高レベルのアクティビティーを有する研究室を整える 必要がある。そのためには、教授・助教授の人材だけではなく、現場での研究を遂行しつ つ、大学院学生の指導するための博士研究員も雇用することとした。一方で、特に国内で はバイオインフォマティクスの博士の取得者の数が少ないということから、関連分野で学 位を取得している研究者、あるいは海外の研究者を積極的に博士研究員として雇用し、彼 らを本ユニットにおいて再教育することで、より短期でバイオインフォマティクスの独立 した研究者に育てあげることも推進している。   情報生命科学専攻の基幹講座と客員講座 領域名 講座 教員 教育研究分野 バイオ情報学領域 データベース学分野 教授  植村俊亮 助教授 宮崎 純 助手 天笠 俊之 助手 波多野賢治 データベースシステム、 データ工学、生命科学デ ータベース 論理生命学分野 教授 石井 信 助教授 柴田智広 助手 作村勇一 助手 大羽成征 生命と知性のモデル、適 応学習システム 生命機能計測学分野 教授 湊小太郎 助教授 杉浦忠男 助手 菅 幹生 助手 佐藤哲大 生命機能計測、バイオメ ディカルイメージング、 医療情報学 構造機能ゲノム学 領域 構造生物学分野 教授 箱嶋敏雄 助手 岡田健吾 助手 北野 健 細胞内シグナル伝達、X 線構造解析、構造ゲノム 学 システム細胞学分野 教授 小笠原直毅 助教授 守家成紀 助手 小林和夫 助手 石川周 枯草菌のゲノム生物学、 細胞増殖の必須遺伝子 システム 比較ゲノム学分野 助教授 渡邊日出海 助教授 金谷重彦 助手 小柳 香奈子 ゲノム比較解析と解釈 客員講座 ゲノム情報学 (併)教授 浅井潔 (併)助教授 五斗進 ゲノム情報、確率モデ ル、データベース 人材養成ユニット 蛋白質機能予測学 客員教授 郷信広 客員助教授 川端 猛 客員助教授 Gautam Basu 客員教授 土居洋文 客員助教授 川端 猛 蛋白質の配列及び立体 構造データの情報解析 【人材養成計画の概要】 (1) 情報生命科学専攻の教育体制の整備に寄与すると共に、情報生命科学専攻における 教育活動に参加し、バイオインフォマティクス分野の研究者・技術者として、修士及び博 士の学位取得者を養成する。 (2) 教育・養成する大学院学生の目標人数として、計画当初においてはユニットとして 「各年度、修士課程学生6名程度、博士課程2名程度を選考し、学位取得のための専門教 育を行う」と設定した。しかし、その数値目標は制度上可能な上限が設定されており、現 実には初年度の学生の受け入れが事実上不可能であったこともあり、平成15年度の計画 からは以下のような形で目標人数を設定した。 a) 情報生命科学専攻全体として、各年度修士学位取得者40名程度、博士学位取 得者10名程度を養成する。専攻設置より現在2年目であるので、3年目までに、 修士学位取得者40名、5年目までに、修士学位取得者120名、博士学位取得 者20名が数値目標となる。 b) 蛋白質機能予測学講座として専門的教育を行い、5年目までに修士学位取得者 計20名程度、博士学位取得者計5名程度を民間企業、国公立機関に供給するこ とを目標とする。この目標からは、3年目までには、修士学位取得者6名の養成 が数値目標となる。 (3) 蛋白質機能予測学講座さらに情報生命科学専攻全体における人材養成の補助と専門 研究を推進するために、博士研究員を雇用する。 【人材養成ユニットの実施体制】 項  目 担当機関 担当者 1.養成業務従事予定者の招聘 奈良先端科学技術大学院大学 ◎鳥居 宏次 2.養成対象者の選考 奈良先端科学技術大学院大学 石井 信 3.講義・研究開発  (1)学生に対する専門講義・研究指導 奈良先端科学技術大学院大学 郷 信広 奈良先端科学技術大学院大学 土居 洋文 奈良先端科学技術大学院大学 Gautam Basu 奈良先端科学技術大学院大学 川端 猛 奈良先端科学技術大学院大学 土井 晃一  (2)学生指導補助と専門研究 奈良先端科学技術大学院大学 松田 敬子 奈良先端科学技術大学院大学 中村 建介 奈良先端科学技術大学院大学 Saharuddin Bin Mohamad 奈良先端科学技術大学院大学 GONG Xiujung 奈良先端科学技術大学院大学 Jitender Jit Singh Cheema 奈良先端科学技術大学院大学 三森智裕 奈良先端科学技術大学院大学 Fation Sevrani  (注)全体計画の代表者には◎を付す。 【所要経費一覧(平成13年度、14年度は決算額、平成15年度は予算額を記入)】 平成13年度 平成14年度 平成15年度 111百万円 123百万円 135百万円 【所要経費の内訳(平成13年度、14年度は決算額、15年度は予算額を記入)】 (単位:百万円) 13年度 14年度 15年度 調整費充当計画 1.人件費 (1)非常勤職員 (教授相当) (2)非常勤職員 (助教授相当) (3)非常勤職員 (助手相当) (4)非常勤職員 (技術補佐員) 2.試験研究費 (1)備品費 (2)消耗品費 (3)賃金 (4)社会保険料 (5)その他 3.旅費 (1)招聘旅費 (2)外来研究員等旅費 (3)外国旅費 9 2 (2名) 6 (3名) 0 (0名) 1 (1名) 98 47 49 0 1 1 4 0 2 2 57 3 (2名) 22 (3名) 30 (12名) 2 (1名) 57 30 19 0 6 2 9 0 8 1 75 4 (2名) 21 (3名) 50 (9名) 0 (0名) 52 35 5 3 8 1 8 0 8 0 計 111 123 135 様式2 成果の概要 【人材養成計画の進捗状況】  平成13年度は、10月に郷信広博士、土居洋文博士を非常勤の客員教授として、川端猛博 士、土井晃一博士を常勤の客員助教授として招聘し、人材養成ユニットの研究環境の整備 を行うと共に、情報生命科学専攻の授業カリキュラム整備等の新専攻の学生受入準備に参 画し、今後の研究・教育活動のための準備的な活動を行った。3月にはGautam Basu博士を 常勤の客員助教授として招聘した。平成14年度は、情報生命科学専攻が正式に設立され、 47名の前期課程学生と8名の後期課程学生が配属され、情報生命科学の人材養成を目指し た新しいカリキュラムによる授業も開始された。人材養成ユニットで雇用されたスタッフ による蛋白質機能予測学講座も本専攻の研究室として積極的に教育・研究に参加した。また、 専攻配属学生のうち、3名の前期課程及び1名の後期課程の学生が蛋白質機能予測学講座に 配属され、このうち1名はこの年度に博士前期課程を短期修了した。平成15年度は、4月 に30名の前期課程学生と14名の後期課程学生が新たに情報生命科学専攻に入学・進学し、 その中から蛋白質機能予測学講座にも3名の前期課程学生が配属された。また、前年度に おける専攻での教育システムの評価を行い、一層の教育体制の充実を図った。10月にも2 名程度、専攻に配属が行われる見込みである。なお、15年度末には、45名が前期課程を修 了見込みであり、その進路は就職・復職など29名、後期課程進学16名の予定である。人 材養成ユニットは、こうしたバイオインフォマティクス分野の研究者・技術者の組織的な 養成という、我国で最初の取り組みに大きく貢献している。また、修士の学位を持つもの を社会に輩出するという点でも、情報生命科学専攻全体としては目標を上回ることができ、 また短期修了制度により即効的な人材供給も実現した。人材養成ユニットとしては、かな らずしも当初の数値目標を達成できていないが、今後、目標の達成に迫ることができる体 制が整備された。  一方、この間12名の博士研究員を雇用し、教育の補助を行いつつ、バイオインフォマ ティクスの研究に従事させることにより、独立した研究者として養成することを進めた。 この点は当初計画には明示されていないが、バイオインフォマティクス分野での短期的な 人材養成という意味で、多大な意義があったと評価できる。 【目標に対する達成度】 (1)情報生命科学専攻における教育活動への貢献  平成14年度から情報生命科学専攻が正式に設置され、情報科学と生物科学の融合領域 の教育を目指す新しいカリキュラムによる授業が開始された。人材養成ユニットの教官も 多くの講義・演習を担当しており、専攻の教育活動に大きく貢献している。以下にその概 要と、人材養成ユニットの教官が担当した科目を示す。 情報生命科学専攻の基礎科目 担当教官 授業回数 内容 情報科学基礎 情報生命科学専攻教官 16回。うち2回の講義と演習 の監修を土井晃一(人材養成ユ ニット)が担当。演習の補助と して博士研究員のFation Sevraniと三森智裕が参加 情報理論、計算機の構 造、プログラミング言 語、オペレーティング システム、UNIXの基 礎 バイオサイエンス 基礎 情報生命科学専攻教官 及びバイオサイエンス 研究科教官 16回 細胞を構成する分子、 遺伝情報、細胞の構 築、細胞のダイナミク ス 情報生命学概論 情報生命科学専攻教官 16回。うち3回を川端猛(人 材養成ユニット)が担当 遺伝子配列解析、相同 性配列解析と比較ゲ ノム、構造ゲノム、遺 伝子発現解析 バイオインフォマ ティクス演習 情報生命科学専攻教官 16回。うち4回を川端猛(人 材養成ユニット)が担当。演習 の補助として博士研究員の中 村建介、松田敬子が参加 アセンブル演習、 BLAST演習、モチー フ解析演習、遺伝子発 現解析演習  情報生命科学専攻の専門科目 担当教官 授業回数 内容 機能ゲノム学 小笠原直毅、 守家成紀 8回 微生物ゲノムの構造、ゲノム 配列決定、トランスクリプト ーム解析、質量分析法 構造ゲノム学 箱嶋敏雄、 Gautam Basu 8回。うち4回をGautam  Basu(人材養成ユニット)が担 当。 構造生物学の実験的方法、細 胞内シグナル伝達、分子シミ ュレーション データベース学 植村俊亮、 宮崎 純 8回 データベースモデル、XMLと データベース、データマイニ ング、生命情報データベース 比較ゲノム学 金谷重彦、 渡邊日出海 8回 ゲノム進化学、ヒト遺伝学、 生命システム解析 論理生命学 石井信、 柴田智広 8回 統計的学習理論、遺伝子・蛋 白質機能解析、神経細胞・脳 機能のモデル 生命機能計測学 湊小太郎、 杉浦忠男 8回 生体イメージング、分子・細 胞イメージング 情報生命科学特別 講義 情報生命科学 専攻教官 8回。うち2回を郷信広(人材 養成ユニット)2回を土居洋文 (人材養成ユニット)が担当 蛋白質のフォールディング、 ゲノム創薬、テキストマイニ ング (2)情報生命科学専攻及び人材養成ユニットでの大学院学生の養成    以下に現在の情報生命科学専攻の学生総数を示す。学生の出身は情報系とバイオ系の双 方からであり、人材養成ユニットに所属された学生はうち博士前期1年が3人、博士前期 2年が4人、博士後期2年が一人である。 情報系 バイオ系 人材養成ユニット(内数) 合計 博士後期2年(14年度配属) 6 2 1 8 博士後期1年(15年度配属) 10 4 0 14 博士前期2年(14年度配属) 29 18 4(内1名短期修了) 47 博士前期1年(15年度配属) 19 13 3 32 (博士前期1年については、平成15年度10月入学者における見込み数を含む) これらを、目標との関連で整理すると以下のようになる。 養成する人材 のレベル 情報生命科学専攻全体の 実績(目標) うち蛋白質機能予測学講座 実績(目標) ・博士前期課程 ・博士後期課程 46名(3年目までに40名) 0名(3年目までは0名) 4名(3年目までに6名程度) 0名(3年目までは0名) (実績は15年度までに当該課程を終了または終了見込みの者を記載)  情報生命学専攻全体としては3年目までの目標を達成しているが、人材養成ユニットの 蛋白質機能予測学講座については、博士前期課程は目標6人に対し、4人の修士学生の養 成にとどまっている。今後目標達成のために一層努力したい。 (3)博士研究員のバイオインフォマティクス研究者としての養成  質の高い大学院教育を行うためには、高レベルのアクティビティーを有する研究室を整 える必要があり、そのためには、教授・助教授の人材だけではなく、現場での研究を遂行 し、大学院生の指導を行う博士研究員も雇用することとした。しかし、実際には、バイオ インフォマティクスの博士取得者の数が特に国内では少なく、適当な人材を集めるのが困 難な状況であった。そこで、関連分野で学位を取得している研究者、あるいは海外の研究 者を積極的に博士研究員として雇用し、彼らを本ユニットにおいて再教育することで、バ イオインフォマティクスの独立した研究者に育てあげ、もって教育・研究に当たらせるこ とにした。様々な関連分野の学位取得者を博士研究員としてのべ12人雇用し、7人は現 在も在職中である。残りの5人は本ユニットを転出し、その多くは本ユニットでの経験を 生かし、バイオインフォマティクス分野の研究者として学内外で活躍している。 【養成された人材の概要】 ○情報生命科学専攻によって教育された大学院学生の人材の概要  平成15年度末には、情報生命科学専攻の第1期学生45名が前期課程を修了見込みであ り、その進路は就職・復職など29名、後期課程進学16名の予定である。その就職内定先 には以下のようなものがある。 ソニー NEC 2名 日立製作所 三洋電機 NTT西日本 リコー トヨタテクノサービス デンソー 日立ハイテクノロジー 日立システムアンドサー ビス 日立公共システムエン ジニアリング NECソフトウェア キャノンシステムソユーション エスエムジー ベネッセコーポレーション 東京化学同人 野村不動産 ミツカングループ シスメックス タカラバイオ タカラベルモント インテックウェッブ&ゲノム ノボノルディスクファーマ アボットジャパン  従来の情報科学研究科における主要な就職先である電気系・通信系・機械系メーカに加 えて、ソフトウェア系、出版系、バイオ系など多彩な企業に人材を輩出していることが分 かる。また、バイオインフォマティクス分野に事業展開を行っている、あるいは計画中と 思われる企業も見られることから、バイオインフォマティクス分野に関わる高度専門技術 者を即効的に供給するという情報生命科学専攻および人材養成ユニットの当初目標は、順 調に達成しつつあると考えられる。  一方で、情報生命科学専攻および人材養成ユニットは、新興分野における研究・教育を 推進していることから、研究志向の強い学生が多いことも特徴である。実際に、現在の博 士前期課程2年生45名中16名は博士後期課程への進学が内定あるいは受験準備中であり、 これは情報科学研究科全体の進学率(平成15年度は約29%の見込み)よりも高い。このこ とは、本プログラムの継続にしたがって、バイオインフォマティクス分野の研究者の養成 が大いに期待できることを意味している。 ○人材養成ユニットによって教育された大学院学生の人材の概要    人材養成ユニットの教官は「蛋白質機能予測学講座」という名の講座を構成しており運 営上、二人の客員教授を代表として、「郷グループ」と「土居グループ」に分かれている。  郷グループでは、蛋白質立体構造データを中心としたインフォマティクス研究を進めて いる。「構造ゲノミクス」プロジェクトの進展に伴い、立体構造データの数は現在より大き く増大することが予想され、膨大な立体構造データを生かすための情報学的研究が望まれ ている。具体的には (A)蛋白質の立体構造分類と機能との相関、 (B)蛋白質の立体構造予測、 (C)膜蛋白質の構造解析、 (D)蛋白質-リガンド相互作用、 (E)蛋白質-蛋白質間相互作用の5 つの分野に取り組んでいる。土居グループでは、製薬業界で要求の強いゲノム創薬におけ るインフォマティクスの研究を念頭において、ゲノム情報・蛋白質アミノ酸配列や文献情 報などをベースとした情報科学的解析による蛋白質機能予測方法の研究開発を進めている。 具体的には、土井客員助教授を中心に大腸菌や枯草菌などに関する微生物文献アブストラ クトから蛋白質相互作用に関する情報を抽出するためのシステムの開発を開始し、その第 一歩として文献から蛋白質名を抽出する機械学習システムの開発を行っている。  本講座は平成14年度から学生の受入を始めた。平成14年度は3人の博士前期課程学 生と1名の博士後期課程学生が郷グループに、平成15年度は2名の博士前期課程学生が 郷グループに、1名の学生が土居グループに配属された。また、平成15年度に博士前期 課程2年の学生が、他研究室から本講座に転配属し、郷グループに配属された。学生の学 部での専攻は様々であり、配属された博士前期課程の学生7人のうち、情報系が3人、生 物学系が2人、化学系、応用物理系がそれぞれ一人ずつとなっている。研究室内において は、情報系の学生には生物学の知識の取得を、バイオ系の学生にはプログラミング等の情 報科学の技術など関連分野の知識を取得するよう指導を行っており、実際に幅広い分野の 授業を積極的に履修している学生が多い。また、郷グループにおいては、英語は研究者と して必要不可欠なスキルであるとの考えから、研究室の全てのセミナーを英語で行ってい る。当初、英語での意思疎通に困難を伴う学生が多かったが、2年を経過した現在、その 多くは英語でのディスカッションに慣れ、確実な英語力の向上が見られた。  配属された学生は各グループの研究方針にそって、主に蛋白質立体構造データを生かし たインフォマティクスについての研究活動を行っている。平成14年度に入学した4人の 学生の修士研究のテーマは、それぞれ、「2次元構造予測等を利用した蛋白質間の弱い相同 性を認識する手法の開発」、「表面アミノ酸分布に基づく蛋白質間相互作用部位の予測」、「膜 に対する傾きを考慮した膜貫通ヘリックス予測の試み」、「モチーフ情報を用いた蛋白質間 弱相同性認識法の改良」であり、いずれもポストゲノム配列時代における重要な課題であ る。4人の学生の一人は修士課程を1年間で短期修了し、情報生命科学専攻からの最初の 博士前期課程の修了生となった。彼は博士前期課程を終えたあと特許庁に戻り、現在「生 命工学」という、微生物、酵素、遺伝子工学の特許を扱う部署に配属となり、本学で学ん だバイオインフォマティクスの知識を勤務に生かしている。また別の一人は博士後期課程 に進学予定であり、本年度生物物理学会年会でポスター発表を行うなど、研究者として自 立するための訓練を積極的に受けている。   ○人材養成ユニットにおいて雇用し再教育を受けた博士研究員の人材の概要      人材養成ユニットでは、バイオインフォマティクス以外の他分野の背景を持つ博士研 究員に対して必要なスキルを与えることで、バイオインフォマティクス分野への展開を奨 励し、かつそうした研究を核として、大学院教育を実施している。本ユニットではのべ1 2人のポスドクを雇用し、現在7人を継続雇用中である。雇用した12人のうち5人が外 国人であり、優秀な人材であれば外国人も積極的に雇用する方針である。5人の国籍も中 国、インド、マレーシア、アルバニアと多彩である。郷グループではセミナーを英語で行 うなど外国人を受け入れやすい環境作りを心がけた。   12人の博士研究員のうち、学位取得時の専攻は、化学、数学、生化学、免疫学、原 子核物理、画像情報処理、パターン認識、機械学習など極めて多彩である。彼らは雇用後、 教官の指導のもとバイオインフォマティクスのスキル習得を行い、彼らの本来の専門の分 野を生かしながら、この分野の研究を進めている。   情報系の専門で学位を取得した博士研究員は、自らが専門とする手法やアルゴリズム の生物学の研究課題への適用、あるいはそのためのさらなる手法・理論の開発を目指す研 究を行っている。例えば、統計的学習理論を用いた遺伝子発現解析法の研究、土居グルー プの博士研究員が行っている教師あり分類器(サポートベクターマシン)を応用した生物 学の文献から蛋白質名の抽出などの研究がこれに相当する。これらは、「アルゴリズム志向」 あるいは「手法開発志向」の研究であり、バイオインフォマティクスの発展には情報処理 技術の革新が不可欠であるため、重要な研究の方向性である。もちろん、そのためには対 象となるデータの理解が不可欠であり、情報系出身の研究員は、本ユニットで生物学の基 本知識の学習を行っている。   一方、化学、生化学、免疫学で学位を取得した研究者には、既存の標準的なバイオイ ンフォマティクスの手法を生物学データに適用し、その幅広い生物学的知識を生かし、そ こから生物学的な意味を読み取る研究を行っている。例えば、化学系の研究員が行った「ゲ ノムからの新しい型の銅結合蛋白質の発見とその進化系統解析に関する研究」は、標準的 なデータベースと配列解析ソフトウェアを使いながらも、無機化学に関する豊富な知識か ら、銅結合蛋白質に対する新たな知見が得られている。また、生化学系の背景を持つ研究 員が行った「立体構造の大域的類似と酵素の化学反応に関する研究」では、抽象的な酵素 の立体構造比較の結果に、豊富な生化学的知識を生かした考察を加えることで、独自性の 高い研究となった。これらは「マテリアル志向」あるいは「データマイニング志向」の研 究であり、新たな手法の開発よりはデータから生物学に興味深い事実を読み取ることが主 たる関心になる。もちろん、標準的なソフトウェアの操作も、実験系の生物学者にとって は困難である場合が多く、その教育においては情報系の研究員も大きく貢献した。   これら「アルゴリズム志向」、「データマイニング志向」の二通りのアプローチはどち らも重要であり、幅広い背景の博士研究員を雇うことで、お互いに刺激しあい協力しあう ような研究環境が実現しつつあるといえる。   現在在職中の博士研究員の一人は、バイオインフォマティクス分野の研究実績を評価 され、近隣の大学からの要請を受けて、毎土曜日に非常勤講師としてバイオインフォマテ ィクスの講義を担当している。       【想定外の成果、困難について】  当初の計画では、人材養成ユニットの教官で構成される「蛋白質機能予測学講座」にお いて5年間で修士取得者20名、博士取得者5名を養成することを目標とした。しかし、 実際には、本講座に大学院学生を集めることは予想外に難しいことがわかった。理由の一 つとして、新設の研究室は先輩学生等が不在なため、一般に学生が敬遠する傾向があるこ とがあげられる。もう一つの、より大きな理由として、特に後期課程への進学可能性を考 える前期課程学生にとって、期限付きの研究室には不安を覚えることが挙げられる。通常、 博士前期、後期を通じた教育には5年が必要だが、本ユニットには形式上4年の教育期間 しか確保できていない印象がある。本大学院大学としては、そうした形式にとらわれず、 課程途中のユニット終了で所属学生が不利益をこうむることのない方策を採ることにして いるが、十分に不安感を払拭しきれていない。一方で、本講座に所属している前期課程2 年の一人は、来年度からの後期課程への進学を決めている。質の高い研究をアクティブに 進め、実質上で魅力のある研究室運営を行うことで、より多くの博士後期課程学生を確保 する努力を継続する。 (参考) 養成された人材による研究成果 以下に本人材養成ユニットによって、教育・養成された大学院学生及び博士研究員の研究成 果をまとめる。 【研究成果発表等】 主に国内の学会発表を以下に記す。下線は人材養成ユニットで雇用した研究員および人材養成ユニット蛋 白質機能予測学講座所属の大学院学生を示す。〇は発表者を示す。 〇松田敬子(博士研究員)、川端猛、木下賢吾、西岡孝明、郷信広 「SCOPデータベースのスーパーファミリーを超えた進化的類縁関係- Fold-based Evolutionary Family-」  第2回日本蛋白質科学会年会 2002年6月13日−15日  名古屋国際会議場 ポスター発表 〇中村建介(博士研究員)、川端猛、由良敬、郷信広 「構造および機能からのCu-Oxidaseのドメイン進化過程に関する研究」 第3回日本蛋白質科学会年会、 2003年6月23〜25日 札幌コンベンションセンター ポスター発表 植原克典(博士前期課程学生)、〇川端猛、郷信広 「2次構造予測等を利用した蛋白質間の弱いアミノ酸配列相同性を検出する手法の開発」日本生物物理学 会第41回年会 2003年9月23〜25日 朱鷺メッセ新潟コンベンションセンター ポスター発表 〇福原直志(博士前期課程学生)、川端猛、郷信広 「表面アミノ酸分布に基づくタンパク質間相互作用部位の予測」日本生物物理学会第41回年会 2003年 9月23〜25日 朱鷺メッセ新潟コンベンションセンター ポスター発表 〇松田敬子(博士研究員)、川端猛、木下賢吾、西岡孝明、郷信広 「Superfamilyを超えた蛋白質構造の進化的類縁関係 -Fold-based superfamily-」 日本生物物理学会 第41回年会 2003年9月23〜25日 朱鷺メッセ新潟コンベンションセンター ポスター発表 〇吉岡琢(博士研究員)、 石井信 「制約付き混合主成分分析によるクラスタリング」 電子情報通信学会技術研究報告, NC2002-37, 43-48. 口頭発表 〇大羽成征(博士研究員)、佐藤雅昭、石井信 「混合主成分分析モデルによる欠測データ予測」. 電子情報通信学会技術研究報告, NC2001-191, 181-186. 口頭発表 菅幹生, ○田畑慶人(博士研究員), 湊小太郎, 大城理, 千原國宏, 永田啓 「没入型提示装置を用いた周辺視野計測システムの開発」, 第41回日本エム・イー学会大会プログラム・ 抄録集, 125-04, p.135,2002年5月9日、口頭発表 〇田畑慶人(博士研究員), 黒田知宏, 千原國宏 「指文字学習支援システムの構築」, 第41回日本エム・イー学会大会プログラム・抄録集, Vol.40, p.69  2002年5月9日、口頭発表 〇田畑慶人(博士研究員), 村上満佳子, 黒田知宏, 千原國宏 「視覚的メタファを利用した手話学習システムのための指導手法」,第27回教育システム情報学会全国大 会講演論文集, pp.311-312 2002年8月30日、口頭発表 〇田畑慶人(博士研究員), 湊小太郎, 松本圭一, 小久保雅樹, 千田道雄, 山本誠一 「胸腹部を対象としたCT画像とPET画像の位置合わせに関する一手法」,第22回医療情報学連合大会論文 集, pp706-707,2002年11月14日〜16日、ポスター発表 【特許等出願件数】 大羽成征(博士研究員)、石井信 欠落データ推定装置、欠落データ推定方法、欠落データ推定プログラム及び同プログラムを記録した記憶 媒体、特願2002-288607(平成14年10月1日) 【国際会議などでの発表実績】   下線は人材養成ユニットで雇用した研究員を示す。〇は発表者を示す。 9th International Conference on Neural Information Processing. 2002年11月, Royal Orchid Club (Singapore,Singapore) 口頭発表 〇Yoshioka, T.(博士研究員), & Ishii, S., “Clustering for time-series gene expression data using mixture of constrained probabilistic PCA model” GIW2002 2002年12月16日−18日 恵比寿ガーデンプレース(東京) ポスター発表 〇Matsuda, K.(博士研究員), Yamaguchi, H., Ueno, Y., Soga, T., Fujita, Y., & Nishioka, T.,“Metabolome and Transcriptome Analysis of Bacillus subtilis Cells Grown on Different Carbon Source” GIW2002 2002年12月16日−18日 恵比寿ガーデンプレース(東京) ポスター発表 〇D. Shivanesan(博士研究員), G. Basu, & N. Go,“The Role of Electrostatics in Discrimination of Adenine and Guanine by Proteins” GIW2002 2002年12月16日−18日 恵比寿ガーデンプレース(東京) ポスター発表 ○Yoshioka, T.(博士研究員), Kawase, N., & Ishii, S. “Correlation-based cluster analysis using mixture of constrained PCAs” Pacific Symposium on Biocomputing (PSB) 2003. 2003年1月3日−7日 Kauai Marriott Resort & Beach Club (Lihue, Hawaii,米国) ポスター発表 〇Matsuda, K(博士研究員)., Soga, T., Fujita, Y., and Nishioka, T., “Metabolome and Transcriptome Analysis of Bacillus subtilis Cells Grown on Different Carbon Source” Pacific Symposium on Biocomputing (PSB) 2003. 2003年1月3日−7日 Kauai Marriott Resort & Beach Club (Lihue, Hawaii,米国) ポスター発表 〇Kensuke Nakamura(博士研究員), Takeshi Kawabata, Kei Yura, Nobuhiro Go “Classification of Copper Binding Sites in Proteins” Pacific Symposium on Biocomputing (PSB) 2003 2003年1月3日−7日 Kauai Marriott Resort & Beach Club (Lihue, Hawaii,米国) ポスター発表 D. Sivanesan(博士研究員), G. Basu, 〇T. Kawabata, N. Go “Electorostatic Discrimination of Adenine and Guanine by Proteins” NAIST Bio-COE International Symposium, 2003年1月15,16日, 奈良先端大ミレニアムホール、ポスタ ー発表. 〇Katsunori Uehara(博士前期課程学生), Takeshi Kawabata, Nobuhiro Go, “A development of a method for recognizing remote homologues using secondary structure predictions and in and out predictions”. The First Asian Meeting of Bioinorganic Chemistry (ASBIC) 2003年3月9日 岡崎国立共同研究機構 コンフェレンスセンター(岡崎) ポスター発表 〇Kensuke Nakamura(博士研究員), Takeshi Kawabata, Kei Yura, Nobuhiro Go “Evolution of Copper-Binding Sites in Cu-Oxidases Estimated from Structural and Functional Similarities” Seventeenth Symposium of The Protein Society, 2003年7月26〜30日, Boston, MA. ポスター発表 〇K.Nakamura(博士研究員), T.Kawabata, K.Yura, N.Go. “Evolution of Copper-Binding Sites in Cu-Oxidases Estimated from Structural and Functional Similarities” International Workshop on Entertainment Computing, 2002年5月16日、口頭発表 ○Yoshito Tabata(博士研究員), Masataka Imura, Jun Kozuka, Koichi Minami, Tatsuya Shuzui and Kunihiro Chihara. “Virtual Horseback Archery-kibakiba mushamusha-“ Proceedings of The 4th International Conference on Disability, Virtual Reality and Associated Technologies. pp.131-136、 2002年9月19日、口頭発表、 ○Yoshito Tabata(博士研究員), Mikio Suga, Kotaro Minato, Osamu Oshiro, Kunihiro Chihara,  Satoru Nagata. “Developments of a peripheral vision system using immersive virtual environment”,  【主要雑誌への研究成果発表】    下線は人材養成ユニットで雇用した研究員を示す。 K. Matsuda(博士研究員), T. Nishioka, K. Kinoshita, T. Kawabata(客員助教授), and N. Go(客員 教授. “Finding evolutionary relations beyond superfamilies: Fold-based Superfamilies”. Protein Science, 12,2239-2251, (2003) Muro, S., Takemasa, I., Oba, S.(博士研究員), Matoba, R., Ueno, N., Maruyama, C., Yamashita, R., Sekimoto, M., Yamamoto, H., Nakamori, S., Monden, M., Ishii, S., & Kato, K. “Identification of expressed genes linked to malignancy of human colorectal carcinoma by parametric clustering of quantitative expression data”. Genome Biology, 4:R21, (2003). Oba, S(博士研究員)., Sato, M., Takemasa, I., Monden, M., Matsubara, K., & Ishii, S. “Missing value estimation using mixture of PCAs”. Lecture Notes in Computer Science, 2415, 492-497, (2002). Yoshioka, T.(博士研究員), Morioka, R., Kobayashi, K., Oba, S.(博士研究員), Ogasawara, N., & Ishii, S. “Clustering of gene expression data by mixture of PCA models”. Lecture Notes in Computer Science, 2415, 522-527, (2002). K.Nakamura(博士研究員), T.Kawabata(客員助教授), K.Yura, N.Go(客員教授). “Novel types of two-domain multi-copper oxidases: Possible missing links in the evolution”, FEBS Letters, in press, (2003) Oba, S.(博士研究員), Sato, M., Takemasa, I., Monden, M., Matsubara, K., & Ishii, S. “A Bayesian missing value estimation method for gene expression profile data”. Bioinformatics, in press, (2003). ※以下、<自己評価資料>                          (参考1) 評価項目(新興分野人材養成)−中間評価− 総合評価 a:非常に優れた成果が期待できる取組である b:優れた成果が期待できる取組である c:現状のままでは十分な成果が期待できない取組である d:計画を見直しても十分な成果が期待できない取組である 今後の進め方 a:計画を継続するべきである b:計画の一部見直しが必要である c:計画の大幅な見直しが必要である d:計画を終了するべきである T.進捗状況 a:所期の目標を達成し、順調に進捗している b:概ね順調に進捗している c:一部遅れが見られる d:大幅な遅れが見られる e:客観的情勢の変化により目標変更が必要である U.計画の妥当性 a:妥当である b:概ね妥当である c:あまり妥当ではない d:妥当でない V.人材養成の成果 (1) 波及効果 ・養成された人材の有用性・将来性 a:十分期待できる b:概ね期待できる c:あまり期待できない d:期待できない ・人材養成ユニットの波及効果 a:十分期待できる b:概ね期待できる c:あまり期待できない d:期待できない (2)情報発信 a:十分行われている b:概ね行われている c:あまり行われていない d:行われていない W.実施体制  (1)代表者の指導性 a:十分発揮されている b:概ね発揮されている c:あまり発揮されていない d:発揮されていない (2)実施機関の組織的な関与 a:積極的である b:概ね積極的である c:あまり積極的ではない d:積極的ではない (3)関係機関との連携 a:積極的である b:概ね積極的である c:あまり積極的ではない d:積極的ではない X.実施機関終了後における取組の継続性・ 発展性の見通し a:十分に継続性・発展性の確保が期待できる b:概ね継続性・発展性の確保が期待できる c:あまり継続性・発展性の確保は期待できない d:継続性・発展性の確保は期待できない (様式1) 自己評価結果<課題全体> 課題名:奈良先端大蛋白質機能予測学人材養成ユニット(奈良先端科学技術大学院大学(鳥 居 宏次)) 1. 進捗状況(目標達成度)について    b:概ね順調に進捗している。  我国で初めての取り組みである、情報生命科学専攻の設置によるバイオインフォマティ クスの組織的な教育体制の整備とその分野の素養を持った研究者・技術者の養成は概ね順 調に進捗しており、それは最初の博士前期課程修了生の就職内定状況、旺盛な後期課程進 学意欲にも反映されている。その中で、人材養成ユニットは期待された責任を果たしてい る。下に述べるように、教官定数の新規増に大きな制約を受けている大学にとっては、新 たな教育研究組織を立ち上げることは非常に困難である。人材養成ユニットという制度を 活用した機動的な教育研究スタッフの配置抜きには、奈良先端科学技術大学院大学におけ る情報生命科学専攻の順調な立ち上げは困難であった。  人材養成ユニットに所属する学生の確保の困難さから、人材養成ユニットでの人材養成 の数値目標について達成できていないという問題点もあるが、本プログラムの目的は大学 院におけるバイオインフォマティクスという新領域の教育システムの整備である。大学院 学生、特に博士後期課程修了者、の養成は時間を必要とするものであり、本プログラムは まだ立ち上げの時期にあるといえる。本大学院大学としては、融合領域分野の教育・研究 への積極的展開の一つの柱として、人材養成プログラム終了後も、長期的にその充実を図 っていく方針である。 2. 計画の妥当性について  b:概ね妥当である。  新たな研究分野についての大学院教育及び研究組織を新たに組織することは、教官定数 の新規増に大きな制約を受けている大学にとっては、一般に非常に困難である。本学にお いて情報生命科学専攻を新たに整備するにあたり、本プログラムを活用して、機動的に必 要な教育研究スタッフを確保するということは、従来の諸経費ではなしえなかったことで あり、画期的な意義を持っていた。修士及び博士学位取得者養成の年次目標数の計画にや や無理があったとはいえ、計画全体はバイオインフォマティクス分野の人材養成という本 プログラムの趣旨にふさわしいものであると評価できる。  また、養成されつつある人材の質については、まだ、今後の評価に待たなければならな いが、情報生命科学専攻に属する学生だけでなく、バイオサイエンス研究科、情報科学研 究科他専攻に所属する学生に対する教育効果も上がっており、教育上の効果が甚大である ことに間違いはない。   3.人材養成の成果について (1)波及効果について  ・養成された人材の有用性・将来性について  a:十分期待できる  今後、教育手法の一層の改善は必要であり、継続して行っているが、情報生命科学専攻 及び蛋白質機能予測学講座で養成された博士前期課程大学院学生は、生物学・情報科学の双 方について基礎的な素養を持つため、今後急成長していくと思われるインフォマティクス を利用したバイオ産業における有用な人材として貢献すると期待できる。また、博士後期 課程学生については、バイオインフォマティクスの基礎及び応用研究を担う人材としての 教育を進めている。  ・人材養成ユニットの波及効果について  a:十分期待できる    情報生命科学専攻の講義・演習には、バイオサイエンス研究科、情報科学研究科他専攻 に所属する学生も受講しており、人材養成ユニットスタッフによる教育は、情報生命科学 専攻内にとどまるものではない。さらに、人材養成ユニットとバイオサイエンス研究科の 研究グループとの共同研究も始まっており、ゲノムを視野に入れた本学のバイオサイエン ス研究の展開にも寄与している。   また、この間12名の博士研究員を雇用し、教育の補助を行いつつ、バイオインフォマ ティクスの研究に従事させることにより、独立した研究者として養成することを進めた。 この点は当初計画には明示されていないが、バイオインフォマティクス分野での短期的な 人材養成という意味で意義があった。 (2)情報発信について  a:十分行われている  大学学部レベルでの教育カリキュラムに含まれない新興分野の人材養成を行う上で、情 報発信は極めて重要である。一方で、その効果は相乗的に利いてくるものであるため、継 続して行う必要がある。  情報生命科学専攻の設置、及び人材養成ユニット「蛋白質機能予測学講座」の設置につ いては、学部学生を対象にした全国各地での情報科学研究科およびバイオサイエンス研究 科の入試説明会において積極的に紹介を行い、学部学生のバイオインフォマティクス分野 への参入を促してきた。また、春と秋に学内で行われたオープンキャンパスにおいても、 専攻内の研究室や蛋白質機能予測学講座によるデモを行い、バイオインフォマティクスへ の関心の増大を図ってきた。  平成15年3月には、他の人材養成ユニットと共同で、「バイオインフォマティクス春の 学校」を、東京、大阪、福岡で開催し、主に大学学部学生を対象にバイオインフォマティ クスの啓蒙活動を行った。こうした春の学校は、来年3月にも、仙台、京都、福岡で開催 予定である。  また、来年2月には国際ワークショップ「フロンティア・イン・バイオインフォマティク ス」を日本原子力研究所と共同で開催し、ユニットの研究成果の発信とこの分野の研究交 流を行う予定である。 3. 実施体制について (1)代表者の指導性について    b:概ね行われている 情報生命科学専攻及び人材養成ユニットの運営の上で、大学全体と関係する事項について は、必要に応じて代表者(学長)を補佐する副学長と協議を行ってきている。また、情報 科学研究科内では、情報生命科学専攻長が、研究科長との協議の上、運営の実務面で代表 者を補佐している。 (2)実施機関の組織的な関与について  a:積極的である  実施機関である奈良先端科学技術大学院大学は、情報生命科学専攻の立ち上げに伴う関 係部署間の調整、専攻の授業である「バイオインフォマティクス演習」の実施に必要な計 算機演習室の提供、蛋白質機能予測講座の学生・教官の居室、計算機室の部屋の提供等、十 分かつ積極的な組織的支援を行ってきている。  また、バイオサイエンス研究科と情報生命科学専攻が連携して提案した「フロンティア バイオサイエンスの展開」が、21世紀COEプログラムとして採択されているが、人材養成 ユニットもその重要な参加メンバーとして位置づけられており、他研究グループとの共同 研究の可能性が探られている。 (3)関係機関との連携について  a:積極的である  郷信広客員教授が兼任している日本原子力研究所計算科学技術推進センターと蛋白質機 能予測学講座は、毎週共同でセミナーを行うなど積極的な交流を持っている。また、京都 大学、東京大学、九州大学等他の人材養成ユニットと共同で「バイオインフォマティクス 春の学校」を平成14年度に開催しており、この分野の振興および啓蒙を連携して進めて いる。 4. 実施機関終了後における取組の持続性・発展性の見通しについて  a:十分に継続性・発展性の確保が期待できる  実施機関である奈良先端科学技術大学院大学は、情報科学、バイオサイエンス、物質創 成科学の基盤的な領域の研究に加え、これらの融合領域への教育・研究の展開を将来構想 の一つとして位置づけている。バイオインフォマティクスの教育研究を行う情報生命科学 専攻の設置はその第一歩である。本人材養成ユニットによる蛋白質機能予測学は、情報生 命科学専攻に不可欠な教育研究分野であり、本プログラム終了後も、助教授、助手、博士 研究員のポストを大学として措置する予定である。  さらに、大学法人化後、研究教育の発展に柔軟に対応していくために、組織の弾力的な 運用を図り、バイオインフォマティクス分野の研究教育スタッフの拡充も検討課題とする。 また、バイオインフォマティクス分野での研究教育の実績を基に、外部資金の獲得を図り たい。  先に述べたように、博士課程大学院学生の教育周期は基本的に5年である。その点で、 本プログラムの期間が5年間と設定されていることは、博士課程取得者の養成という点で 困難を生んでいることは否めない。バイオインフォマティクス分野の研究振興と人材養成 のために、機動的な教育研究スタッフの配置を可能にする、本プログラムの継続も希望し たい。